旅立ちと今後の確認
「えーっと。折り紙100枚に、ピンセット、定規、針金、ラジオペンチ。あ、あと強化用のテープか。…うん、バッチリだね!」
【どこがだよ⁉︎ 全然冒険用アイテムが無かったぞ?】
夜も明け、空が段々白み始めてきたちょうどその頃。鶏が朝を告げた。
旅立ちの日だ。
が。
「あ。あぁ!忘れてた。えっ、と……あったあった。この中だよ、この中に冒険用アイテムがある、はず」
【旅の目的を見失い過ぎだろ】
ディバルフに『バッグの確認は?』と言われて確認してみたところ、テントや寝袋、薬草などが入った冒険者ポーチをリュックに入れ忘れていたことが発覚したのである。
「いやぁ、旅立つ前に気が付いて良かったよー。__って、ちょ、噛まないで! 噛まないで! 君が紙でも、その嘴って結構痛いんでいたたたたっ!」
【少しは反省せい!】
空は雲1つない快晴だった。
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「行ってきまーす‼︎」
「行ってらっしゃい。いつでも帰ってくるのよー!」
見送りの言葉を背に受けつつ我が愛馬に飛び乗り、走らせる。
まだ早朝であることや、この村が小さな規模のものであることもあってか、村の人はほとんどいなかった。今日旅に出ることも周りの人に言ってないので、周囲は“近所の子が衝動的に旅に出た”と思うことだろう。母にも、もし聞かれたらそんな感じで答えてくれと頼んである。
「とは言っても、見送りが無いのも少し寂しいよねー」
【……どうせまた帰って来んだから、どうってこた無いさ。だろ?】
小さな呟きに反応して、優しい言葉をくれるディバルフ。あぁ、その優しさが心に響きやす。
彼は本来、この旅についてくる必要のない人間…もとい折り紙である。まぁ勇者でないのだから当たり前だが、それでも彼は私についていくことを望んでくれた。紙の脆さによる危険が訪れることも承知で、私の肩にいてくれる。正直、ものすんごく有難いことだ。
「…うん、そだね。あんがと」
【気にすんな。困った時はお互い様、ってこった】
周囲を眺めつつ、人工的に作られた道を辿る。この辺りなら何度も通ったことがあるので、地図を開く必要はない。
【まずは、隣町からか?】
「そうだねー。そこでちょっと『折り紙活動』していこうかな?」
勇者としてではなく1人の折り紙愛好家として、私がこの大陸ライングラウンドでそれなりに知られるきっかけともなった『折り紙活動』。
ちなみに正式名称は、折り紙布教活動であり、合言葉は世界に広がれ折り紙の輪。
【何でまた?】
「ライを探すにしても大陸はでかいし、あっちの方も一ヶ所に留まることはないでしょ。そんな中で彼と会うのは奇跡に近い。から、こちらの情報を流そうかな、とね」
【折り紙好きのラミアの情報を、ということか?】
「そゆこと。勇者としてのラミアを出すと魔王側に危機感を持たれる(と言うか殺されるよね、絶対に。)けど、折り紙愛好家としてのラミアなら問題ないかなと思いましてね、うん」
…それでも情報が彼の耳に届くまでにはかなりの時間が掛かりそうだが、何もしないよりはまだマシだ。と思いたい。
【ライとやらはお前さんが折り紙が好きだってこと知ってるのか?】
「前に1回だけ会ったときに折ってあげたことがあるから、知っているとは思うけど…。うーん忘れられてないといいなー」
この計画の心配点はそこだ。もし彼が、私が折り紙好きだということを覚えていなければ、いくら私の噂が広まろうとも意味がない。その時は、私達が偶然出会う奇跡を祈るしかないだろう。
【ラミアも意外と考えてたんだな】
「なにさ、その信用の無さは」
【いや、胸に手を当ててみろよ】
「…いやーんディバルフさんのエッチー」
【なんつー理不尽な。てか棒読みで言うなよ】
そんな意味の無い会話を続けながら、私は心の中で相棒の存在に感謝した。