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進展

「ライー、手紙が来てるよー?」


「あいあいさ?……お、サムからか」


 鶏が鳴いて少し経った、ある日の朝。いつものように薬草の納品依頼をこなした2人と1枚に、一通の手紙が来た。上の部分だけを綺麗に切り取ったラミアから中身を受け取り、ライが声に出して読み上げる。


「えーと何々?…『ライ様もラミア様もディバルフ様も、お元気でしょうか?…まぁお元気でしょう。色々書きたいことはありますが、面倒なので長ったるい前置きは全てカットさせていただきます』」


【何か、サムさんって個性的だよな】


 ラミアの肩に陣取って、呆れたようにその長い首を振るディバルフ。苦笑しながら、ラミアはそれに賛同した。


「主への手紙に面倒って書くのはどうなんだろ…」


「俺に聞くな…。『さて本題ですが、ただの連絡です。…恐らくそちらではもう既に、セシリア様の捜索をなされていると思われます。故に、私はそこでは役に立てないと思い、先にグラン様の捜索にあたることにします。主の意見も仰がず、実に勝手な判断と感じられるかもしれませんが、これが私の思う最善と思いましたので、許していただきたく』…だってよ。まぁ確かにその方が効率が良いわな」


 あとは連絡先くらいか。

 そう言いながら、彼は手紙から目を離し。ラミアを見やれば、彼女は先程ちぎり取った細い紙端で器用にも折り紙をしていた。

 暫しの間、沈黙。その紙でも折るのかよ、とライは突っ込みたかったのだが、今までのことを考えると何ら不思議な行為ではないと思ってしまったが為に、何も言えなかったのだ。


「……うん、あー…今度は何折ってんだ?」


「んー?竜だよ?」


【まぁ突っ込めんわなぁ…】



 そんなちょっとした朝の変化の後、1日は再び廻りだす。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「てな訳で情報、どうですか?ギルド長」


「一体、君はどこから会話を繋いだのかね…」


 俺の唐突な言葉に、呆れたような返事を返すギルド長。

 場所は4日前と同じ、ギルドの応接間。俺達はセシリアの情報の続報を聞くためにここに来ていた。


「まぁ、それに関する情報は特に無いよ」


「意外とざっくり言いますね」


「無駄に引き伸ばしても意味は無いだろうに」


 どうやら無駄な事は嫌いなようだ。


 しかし、情報が無いと言うのは中々におかしい事だ。冒険者として、生きていないと言うことだろうか?仮に働き口があったとしても、どうせ魔王と戦うためには日々の修練は欠かせない。それなら、冒険者をしていた方がお得なのではないだろうか。


【…考えられるのは、親が何かの営業をしてたのを継いだ、とかかね?】


「あとは、ギルドに顔を出したくない理由があるとか…?」


「どんな理由だ?」


「さぁね?」



 しかしまぁ、本人にしか分からないことを想像しても仕方がない。俺は早々に考えることを諦め、ギルド長に尋ねた。


「何かそれ以外の情報ってあります?ここの大陸には来たばっかりだから、色々知っておきたいんですよ。例えば…ここにはこんな魔物の目撃情報があるから注意だー、みたいな」


「うーん…そういう情報は上がってきてないけどねぇ。あ、1つあるとすれば君達がいつも行ってるあの山、今年は薬草が大量に生えているらしい。薬草の豊作なんて中々無いことだから、何があったのかなって、会議でちょっとした話題になってたよ」


 野草が大量に発生した、か…。最近、それが収入源の俺達にとっては、とても良いことではある。だが、それが山の生き物にどういう影響を及ぼすかが問題だ。


「原因とかの調査は?」


「いんや、原因は不明だけど金をかけてまで調査する必要は無いと言うことで、しないことになってるよ」


「護衛が要りますもんね」


 まぁ、結局は金の問題だ。この街にもっと近い山であったら、調査する可能性はあっただろうが、ここから30分は歩かなければいけない山なので、金を出す価値はない。そう判断されたのだろう。リスクとリターンの問題なのである。


「何も無いとは思うが、一応注意だけはしておいてくれ」


「了解です」



 そうして俺達はギルド長に挨拶をし、部屋を出た。

 途中の廊下は、人の気配が感じられないほどに静かだったが、依頼の受付ロビーのような所に戻ってくると、ようやく人を感じることができた。



 俺達は、何となく置いてあった椅子に腰掛け、一息つく。特に大した意味は無い。何となく座りたかっただけだ。


【しっかし薬草の大量発生かぁ…】


「薬草って確か、その詳細も全然分かってないんだったよね」


 そうだ。薬草は、その凡要性の割に全くもって発生原因や治癒機能を持つ理由が解明されていない。分かっているのはそのままそれを傷口へと当てれば傷が治り、煎じて飲めば病気などの病状が軽くなり、その香りを嗅げば気持ちが落ち着き、人工栽培は不可能、と言うことだけ。服用のデメリットすら見つかっていない。


「効能だけ聞けば、完全に怪しい薬物みたいなんだけどなぁ…」


「だけど魔法協会は『危険なし』と判断してるからね。ま、大抵の人にとっちゃあ、良い事なんだけど」


 確かに、薬草は必ず家に置いておきたいアイテムである。人工栽培ができなくて野生のものしかない状態なので意外とお値段が高めなのだが、上手く行けばちぎれた指程度なら元に戻ると言うぶっ壊れた性能なので、結構売れている。

 まぁ、一応悪用される可能性もあるので、魔法協会という大きな機関による厳重な管理が行われているわけだが。



「…で、これからどうする?」


「本を読むのは飽きたー」


【と言ってもなぁ、やること無いだろ。お金も多い訳じゃないし】


 金は全てに勝る…訳では無いが、生活のかなり重要な部分を占めているのは、違いない。

 迂闊に西区を歩けば、財布に穴が空いたかの如くクロー金貨が減っていくことだろう。父から念のためと“お小遣い”を貰っていた俺はまだしも、ラミアは間違いなく後々泣くことになる。


「…お金って大事だよね」


「今日の教訓だな。…依頼でも受けるか?」


「んだね。蓄えは少しでも増やさないと」


 そして俺達は、いつもの受付嬢の元へと歩みを進めるのだった。




 ―――はてさて。あと何回、この光景を繰り返し見ることになるやら。

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