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類は友を呼ぶ

 ロッソ大陸の中央やや東に存在する、ロッソ城下町。この街は、街を囲う魔除けの魔法が掛けられた『堅牢壁』の拡張工事などにより、区画が4つに分けられている。


 まずは王宮やギルドや図書館などの主要な建物が立ち並ぶ、旧堅牢壁で区切られた “中央地区” 。主要な建物があるだけあって、観光したり依頼を受けたりする冒険者が行き来している。もしもの時の避難所も、確かここの地下にあったはずだ。


 次に一般民が住む住宅地が広がる ”北地区” 。この街に住む人は、大体ここに住んでいる。ここには民家しかない為、静かな区画となっている。


 3番目が宿や色々なお店が建つ、 “西地区” 。近くの海で獲れた魚や南地区で採れた野菜などの食べ物、その他色々な店がある。4つの区画の中では一番活気に溢れた地区だ。


 そして最後に、田畑や自然溢れる公園がある “南地区” 。ここも比較的のどかな場所だ。子供が走り回って遊んでいたり、農作業に勤しむ人がいる。




 で。私が今いるのは最後に紹介した南地区だ。別に子供と遊んでいる訳でもないし、農作業をしている訳でもない。言えば、図書館の本を読み漁ると言う作業の間の、ちょっとした休憩だ。


 まぁ、なんでそんなに本を読んでいるかと言うと、そもそも私達は世界のことを知らなさすぎるのだ。

 この世界では、それぞれの大陸がそれぞれの政治を営んでいる。その大陸同士を繋ぐのは、魔物の襲撃がよくある船と利用料金のバカ高い鉄道だけ。そして食料も大陸で生産するので足りるし、生活の物資もある。つまり、一般市民は自分の大陸のことを知っていれば十二分に人生を過ごせるのだ。

 しかしまぁ私達は、もう既に一般市民とは言えない訳で。これからたくさんの場所に赴くこととなるだろう。そうなると、さすがに他の大陸のことを知らないでは済まされなくなってくる。


 …ってな理由で、絶賛お勉強中だったのだが。


「あぁー、疲れたー」


 基本飽きやすい性格の私に、そんな長時間の勉強など出来るはずもなく。

 ちなみに、ライとディバルフは未だに図書館に籠っている。真面目だね。

 そんなそんなで、各大陸の基本知識くらいは結構学べたと思う、今日この頃。朝はギルドの依頼をこなし。昼から夕方にかけては図書館に籠り。夜は宿で自由行動。ま、私の場合は大体折り紙だが。



 さてさて、今の時間帯は大体昼過ぎ辺りである。今日は平日なので、特に人が多いといったこともなく。たまに人が通り過ぎるだけの、実に静かな場所だ。思考を纏めるのにはちょうどいい。

 私は、目を閉じて瞑想した。



 もちろん、手を動かしながら、であるが。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「なあなあ、知ってたか?俺、神の子孫なんだってよ」



 『世界と国の成り立ち』の金色の文字が彫られた本を閉じ、俺の座る右手に築いた本の山のてっぺんに置いてディバルフに声をかけた。


【あぁ、王族は神の子孫たらどーのこーのってやつか。お前にゃ、威厳の欠片すら無いと思うが?】


 本を広げて、顔も上げずに茶化してくるディバルフ。紙を読む紙って、何度見ても新鮮だと思う。ページを捲る時のカサカサと言う音が、本が立てたものなのか、折り紙から立つ音なのか、それとも両方から鳴っているのかも分からない。


「はっ、どうせそんな答えが返ってくるだろうと思ってたよ!」


【うらうら、図書館ではお静かに、な】


 そう言われてしまっては反論もできないので、ずっと落としたままのディバルフの角つきの頭を軽く睨んで、今度は左手に築いた未読の本の山から適当に取り、読み始める。


【……ん?お前が読んでるその『黒の森』って、あれか?…あの、あれ】


「どれだよ。世界樹の噂が立ってる所だったっけか」


 世界樹とは、お伽噺や冒険小説によく出てくる、神聖なる神の化身とされる木だ。存在するかどうかすら怪しい木だが、それが在るとされる未開の森が、その『黒の森』である。


【そうそう、それ。どんなとこなんだろうなー。未確認生物がいたりとかすんのかね?】


「おー、いいなぁ。見つけたら名前付けれたりとか出来ねぇかな」


 そんなことを言いながら、俺の目は自然と向かいで本を読み続ける未確認生物(?)へと移る。角や爪の一本一本、首のひだ、尾のとげとげに至る全てが精巧なつくりの完璧な『モノ』だ。しかし、その首の動きや僅かに動く表情は、モノにはない『ヒト』の感情を示していて。

 ラミアが語るに、ディバルフには魂があるらしい。しかしそれは作った時からあった訳ではないので、どちらかと言うと魂が折り紙に憑依したという感じなのだそうだ。で、図書館(ここ)で調べてみたところ、魂と言うのは現世に留まる例がほとんどと言っていい程なく、よっぽど特異な過去がない限りあり得ないとのこと。



「結局ディバルフって、前は何だったんだか…」


【知るか、んなもん】


 即答でした。とまぁ、この通り本人が大して興味を抱いていないのだから扱いに困る。


「興味は無いのかよ…」


【だって知ったって、どうせ元には戻りゃあせんだろう?】


「そうだろうがよ…」


 そう言われようとも、気になるものは気になるのだ。どうしようもない。



 そして新しい本を探しに行こうかと席を立ったとき、『ちょっと…』と後ろから声をかけられた。



「ん?お…あぁ、シアメさんか」


「うん、やはりライ君であったな。久しぶり…と言っても3日ぶりだったか」


 後ろにいたのは3日前、協力してくれると言ってくれたギルド長のシアメさんだった。彼は、鷹のような細い目を更に細めて、小さく頷いた。


「ふむ。その様子だと、さしずめ世界の勉強でもしていたのかね?」


「まぁそんなところです」


「偉い、実に偉い。世界の歴史を知ることは、今の世界を正しく知ることに繋がる。歴史に疑問を抱けば、それまでの自分の思想を考え直すきっかけになる。興味を持つと言うのは素晴らしいことでありながら、残酷なことだ。しかしそれを知らねば、今ここに在る真実すら分からなくなる」


「はぁ…」



 歴史を知ることの大事さを語るシアメさんからは、何やら熱気を感じることが出来た。シアメさんは、自身を大きく変える何かの歴史があったのだろうか。

 俺にとって、この人はどうしても苦手なタイプの人間だ。薄く浮かべているこの優しげな笑みの奥に、何が隠されているのかがよく読めない。笑顔の奥が、哀しみなのか憎しみなのかも区別がつかない。


「歴史と言うのはどこまでが本物なのか分からない。そこの見極めを間違えれば、大惨事を招きかねん。今、君の目の前にいる私も、もしかしたら偽者かもしれない。どれが真実でどれが虚偽なのか?それは自分で調べるしか無いのだよ」


【…何やら熱く語っているが、それはあんたの経験談か?】


 ディバルフも気になったらしく首をかしげて、そう問いかける。と、シアメさんは少しだけバツが悪そうな顔をした。


「おっと、すまない。つい熱くなってしまった。私の悪い癖だ。…しかし、まぁ。そのせいで友を傷付けてしまったことがあるからね。どうしても神経質になってしまうようだ」


「へぇー、それってシアメさんが冒険者だった頃の話ですか?」


「あ、あぁ、そうだよ」


 少し詰まりながら答えるシアメさん。

 俺はそれを聞きながらふと近くの窓に目を向けると、ちょうどラミアが図書館の入り口へと入っていくのが見えた。


「おっと、もうこんな時間だ。私はこれにて失礼させてもらうよ。君達も私みたいな失敗には気を付けてくれ」


「ん?あぁ、はい」


「それではまた明日。『瞬間移動(テレポート)』」



 そう言い残して、彼の姿は粒子となって消えた。

 まるで、元からそこにいなかったかのように。

 まるで、魔法であるかのように。



「……え?…んあぁ!?」


【テレポートの魔法かぁ。さすがはギルド長、格が違うねぇ】



 …俺は馬鹿か。魔法のように、ってシアメさんが使ったのはまんま魔法だ。

 一般人が一回は使ってみたい魔法第1位を断トツでトップを絶賛独走中の魔法、瞬間移動。魔法使いの中でも、習得している者はかなり少ないはずの魔法が使える者が、ここにいた。




 ……しかし、自分の周りに魔法の使える者が少し多すぎる気がする。ラミアも使えるし、テイトもシャロットもヨルクもギルド長だって使える。果ては折り紙だ。本来魔法を使える者は少ないはずなのだ。小さな農村だったら、どんな者でも英雄と称えられるくらいには。それが何だ、この密集度は。


 折り紙が使えるのに、俺は使えないなんて…真に理不尽である。



【おい何か今、少し馬鹿にされた気が…】


「気のせいだな」



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