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ヒトか モノか

 剣が交わり。大金槌は振り下ろされ。槍と光が空間を切り裂き。



【ラミア、後ろ!】


 ほぼ何も考えずに剣を振るっていたラミアに、そんな声が響く。


「了、解っと!」


 すると彼女は、即座に打つのを止めて、彼の言葉を疑うことも聞き返すこともなく、慣れた感じで横に退いた。

 そしてそこを通りすぎるのは、太い光の線。さっきから、ヨルクがタイミングをずらしながらライに向かって放つ直線的な魔法が、『たまたま』ライの後ろにいたラミアに当たりそうになる、ということの繰り返しだった。いくらライと背後が被らないように行動しても、4分に1回くらいは飛んでくる。これだけ続けば、明らかに2人共を狙っていると言えるだろう。

 2人を巻き込みつつ、それでいて王がある程度予想外な動きをしても巻き込まれない位置取り。それを咄嗟に考えて行動できる辺り、やはり王様の矛は一級品だ。


 しかし、そんなことを思いつつシャロットと剣を交えながらも、ラミアの意識は別のところにあった。戦闘中に考え事など禁物なのだが、どうしても気になったのだ。




 ――――それは、ディバルフの扱いだ。



 ディバルフは折り紙だ。当たり前だが、呼吸をしていないし、目も心臓も血液も脳もない。そういう意味ではディバルフは“モノ”だろう。

 しかし、彼には魂がある。魂があるからこそ声帯が無くても声を出せ、脳が無くても独立した自らの考えを持つことができる。

 果たして、人格の有るモノは“モノ”と言えるのだろうか?


 まぁ本当は彼女にとって、この世界においてディバルフがモノかどうかなんて、はっきり言ってどうでもいい。ディバルフはディバルフ。モノかヒトかで何かが変わるわけでもないのだから。



 ならばなぜ彼女が、ディバルフの扱いを気にするのか。それは、『この空間内』においてのディバルフの扱いにより勝敗が決まるかもしれない、と自分の勘が囁いたからだった。

 だから彼女は必死に頭を巡らせる。



 まず、2対2の決闘宣言が出ていて、この空間から追い出されていない時点で、ヒトとしては扱われていない。なぜなら、宣言がなされた時に、空間内に対象でないヒトがいる場合は自動的に追い出されるようになっているからだ。宣言されたにも関わらず、この空間に存在している。よって、ヒトとしては扱われてないことが分かる。

 しかし、ヒトではないならモノとして認識されているのか、と問われれても、首を縦に振っていいのか迷う。なぜなら、この空間でモノとして扱われるものは全て、保護魔法が掛けられるからだ。これさえ掛かっていれば、モノだと言えるのだが……


「…どーも掛かっとるようには思えんのよねぇ……」


【ん?どした?】


 首をかしげるディバルフは、全くもって“いつも通り”であった。

 保護魔法というのは見た目が実に分かりやすい。ピッカピカのテッカテカだからだ。現に、この王の間の床も壁も柱も、保護フィルムが掛けられたかのように光を綺麗に反射している。

 これがディバルフの場合、テッカテカのつるっぱげ(?)みたいな風に、綺麗に光を反射しているなどということはなかった。

 つまりは、ディバルフに保護魔法は掛かっていない。


「…じゃ、何かって聞かれても困るけど………」


「全く……随分と余裕なのです、ねっ!」


「っ!危なっ。…いやぁ、喋っとんのは何か癖でね。考えん内に喋ってる、みたいな?」


 無意識の内に勝手に考えて勝手に喋るとは、変な癖である。


【自分のことなのに疑問符を付けるなよ…】



 まぁ、それは置いといて。



 なんだかんだ言って、現在の戦況は五分五分だ。最初の方は勇者側がガンガン攻めていって若干そちらに傾きかけたものの、王側が持ちこたえ、王達のちょっとした返しの攻撃が今度は勇者側を少しずつ削っていっていた。よって両者、同じくらいの消耗。


 未だ、劇的な進展は何もなく。音もなく、静かに舞台は進む。




「あ…」


 ラミアが突然声を上げた。

 しかしその声はかなり小さく、思わず漏れたとばかりのものだったので、それを聞き取れたのはディバルフだけだった。


【………どした?】


 彼は、この空間の中では最もラミアと長くいるので、何か思い付いたような彼女の様子を察して声は小さめだ。


【何かいい戦法でも思い付いたんか?】


「あー、うん、まぁ……ね。ちょっと聞いてくれん?」


 その言葉を聞き、彼はふむ、と。存在しない脳で暫しの間、思考する(あ、決して馬鹿とかそういう意味ではない)。会話は敵側にも聞かれているのだ。だから、相手の考えの疑問に思ったことは聞く前にしっかりと考えてから発言せねばなるまい。

 彼が疑問に思ったのは、なぜラミアがわざわざディバルフに聞かせるという、面倒なことをしたがるのか、ということ。まぁまず、計画の成功率が分からないから相談したい…なんてことは絶対ない、とまず最初に思い付いた予想は斬り捨てる。彼女はそんな成功率なんて気にせず、ぶっ放すことをディバルフはよくよく知っていた。

 それならばなにゆえか。現段階で導ける答えは1つ。……それは恐らく、作戦の中でディバルフが『動く』からだろう。


 そこまで考えてから、それならばと、彼はようやく口を開いた。


【……“使う”のか?】


「ん、そ。相も変わらず、察しがいいねぇ」


【分かるってことを踏まえて話してるくせに……】


「んっふふ~。…じゃ、言うのは1回きりだからよく聞いといてね……」





 金属が高い音を打ち鳴らし。木槌が空気を揺らし。光の暴力が部屋を駆け巡る。


 そこそこ長く戦闘が続いているにも関わらず、一切の被害を出していない部屋で踊るは、4人の男女。攻撃し、避けて、かわし。少しずつ互いに傷付け合いながらも、その勝負は中々進展しない。


「『光よ、駆け巡れ』!」


 不意にヨルクが魔法を唱えれば。


「とわっ!あっぶね~」


「よいっ」


 勇者組がその射線上から逃れ。


「『剣技五月雨斬り』」


 白の魔法を纏ったシャロットの大剣がラミアに襲いくる。

 残念ながらその剣は、ラミアが予知していたかの如く避けたので、空を斬る結果と終わってしまったが。


 どちらかが攻撃すれば、もう片方が避け、それに最初の者が追撃しようとすれば、反撃を貰い。一進一退の攻防が繰り広げられている。


 どちらもガンガン攻めているように見えて、実はどちらもまだあまり手を見せていない。

 互いに、じわじわと侵食し合いながら、その機会をじっくりと狙っていた。



「中々動きませんねぇ。…では……『黒き王の証』!」


 最初に動いたのは、シャロットだった。一旦ラミアとの距離を置いて、魔法を唱えた。

 魔法は、薄黒い光を帯びてシャロットの手のひらの上に集まりだし、ハンドボールサイズの大きさになり、その形をどんどん変化させてその正体を現していく。


【…………なぁ。あれって、もしかして…】


「………“妖衛星”……のレプリカ、ってとこかね」


 それは、宙に浮いた不思議な黒い物体だった。分かりやすいイメージを言うとしたら、正五角形12個を球状に組み合わせた形の正十二面体。それの骨組み。



 戦神ロッソが愛用していたと伝えられる神器、妖衛星。

 神話によるとその物体からは、大量の火炎弾が敵だけを狙って撃ち出されるとか。しかもその弾はご丁寧にも、きっちりロックオンして逃がさないという話まであるらしい。

 まぁ、それとこれとは本物と偽物という違いがあるので、これが本当にそこまでの性能なのかは分からないが。


 生み出された『それ』はゆっくりと、その名前の通り、衛星のようにシャロットの体を中心にぐるぐると周り始め。正体不明の呑気さが、王の間全体にピリピリとした緊張と恐怖を含んだ、戦場の空気を造り出す。

 王とその衛星の出すプレッシャーは威圧感に満ち溢れていて。自然と、ラミアに冷や汗をかかせる。


 緊張の一瞬。そして……




「散ッ!」



 そのシャロットの合図と共に、一斉に魔法の火炎弾が吐き出された。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「ん?…え、いや……はぁ!?」


 その魔法の存在感に、今まで少ししか意識を私の方に回していなかったライも、こちらを向いて驚きの声を上げた。隙ありとばかりに凪ぎ払われる槍を、バックステップでかわしながら、だが。


 それほどまでに、その光景は目を引き付けた。

 別に、数がありえない程に多いという訳でもないし、魔法弾の速度もありえないほど速いという訳ではない。まぁそこそこに大量だが、これが2つに分かれるなら何とか捌ききれる数だろう。速さに関しても、色々迷いながら走っていても充分なくらいには、余裕だった。

 圧倒的なのは『それ』の異常なまでの、美しさ。王の周りをクルクル回り続ける衛星から、火の粉を撒き散らしながら、拳くらいの大きさの炎が一斉に飛び出てくるのだ。もはや芸術の域に達している。


 ま、いくら惹き付けられたからといって、隙を見せたりする理由になることなど、もちろんないが。



 私は後退しながら、追いかけてくる火球を見た。

 火の弾はくねくねと予想しづらいルートを飛び、私の方に来る物とライの方との二手に分かれている。私の方を追い掛けて来ている弾の数は…およそ15ほどだろう。威力は強め。多めに見積もっても、ぎりぎり2発耐えられるくらいか。神話通り自動追尾機能もあるらしく、こちらが左に曲がれば火球も左に曲がって追ってきた。

 が、さすがに(障害物)は避けきるほどの機能はないらしく、いくつかがその馬鹿げた防御力を誇る保護魔法に守られた柱に衝突して消えていった。



「ふむ。じゃあ……『風の刃』!」


 手を上から振り下ろしながら、魔法の言葉を唱え。飛んでいくのは、空気を切り裂く鋭利な刃。しかし直線的にしか進めないそれは、蛇行する火炎弾に当たることはなかった。

 私はそれを気にせず、今度は両手を振り下ろしながら、再び言葉を紡ぐ。


「『風の刃』掛七!」


 駆け巡るは7つの風。

 『下手の鉄砲数打ちゃ当たる』と言われるように、大まかな狙いしか付けられていなかった魔法は、いくつかの弾に当たって小さな爆発を引き起こした。付近に煙が起こる。

 魔法の複数同時発動。魔法の修練を積んだ者の中でも、使える人は少ないと言われる、高等技術である。魔力を大量に動かすので疲労はかなり募るが、一々言葉を紡ぐ必要がないのは便利だ。


「…数は」


【3……いや、4だな】


 少ない言葉で会話をし、適当に動きながら耳を澄ましていく。



 聴こえるのは、ライのけん玉の玉が爆裂する音に、槍が空を掻く音、巻き上げられた埃の動く音、それと………弾丸が空気を裂く音である。煙で見えないがこちらに向かっているのが分かった。

 私はその音を見つけると、目を閉じて意識を弾丸の音だけに集中させた。王の攻撃が多少不安だが、さすがに攻撃が近くまで来れば音で分かるだろう。



 じっくりと、自分と対象の距離を測り。目標の範囲に入ったところで、再び魔法を唱えた。今度は風の魔法ではない。


「『全てを拒む魔法の陣』掛四!」



 同時、目を開けばそこには硝子のように砕け散って舞う、たくさんの小さな鮮血のような赤黒い欠片があった。

 防御系魔法、『星七角魔法陣』。この魔法が張れる防御壁は、わずか1秒。それ以上経つと崩れてしまう。が、どんな攻撃でも必ず防げるという破格の効果がある。つまり、発動から崩壊までの1秒で攻撃が当たれば、それでいい。…それが一番難しいとも言うが。


「まっ、取り合えず成功だね!…時間はちゃんと取ったからね。ディバルフさん、やっちゃって下せえな」


【はっ。途中で俺に喋らせたくせに何を言うか】


 ディバルフはそう言ってから、にやりと笑った。…や、あんまし表情変わらんけどさ。




【まぁいいや。…『時は、我が手の中に有り』】




 そして、私とディバルフの切り札は解き放たれて。




 世界が灰色と化した。

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