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ロッソの王

 駅から出て私達を迎えたのは、うっすらと雲のかかった青い空と綺麗な街並みと行き交う人々だった。


「で、どうなさいますかね?」


 ライが伸びをしながら聞いてきた。同じ姿勢をし続けたのが腰に来たのだろう。腰が痛いと呟いている。

 私は、近くの案内盤を探しながら、それに答えた。


「んだねぇ…。まずは、やっぱ国王に挨拶、かな?」


【………と言うか、そんな簡単に国王に会えんのか?】


 一般人からして、その質問は最もである。普通の人が王に会えるのは王自身がその人を招いた場合か、王に許された場合のみで、王を拝謁することはあっても、王と対談するなど中々起こり得ない。

 が、それは“普通の人”であれば、だ。私達が普通で無いこと(勇者であること)を証明できれば、それで解決する問題なのだ。


「勇者ってさ、他の国に顔割れてないじゃん。それだったら『私が勇者だ』って言ったもん勝ちっしょ?じゃ、それをどうやって国側が判断するか?…あ、城はあっちっぽいね」


 勇者と言う存在は、意外にも民衆に広く知られている。何か有名な予言師が昔に、『人類が危機に陥った時、神々はそれぞれ勇者を生み出すだろう』と予言したのが原因らしい。いくら魔王が人の国を狙っていることを国が隠そうとも、人はその不穏な空気を敏感に読み取ったのだ。勇者がもうこの時代を生きているのでは、とグラウンドラインで一時期、噂になっていた。


【で、どうやって判断するんだ?】


「証を見るんだと。神に刻まれし何たらってやつ」


「…刻印だよ。ま、それを見せれば王も勇者が来たって分かるかな、とね」




 とまぁ、そんなこんなで城門まで来た。中々に頑丈そうな洒落っ気のない無骨な門である。そこには見張りが5人、シャキッと言う効果音付き(付いてない)で立っていた。

 その内の1人が私達に気が付き、声をかけてきた。


「ん?この城に何の用だ?」


 いかにも武道に通じてますって感じの人だ。顔はにこやかに笑っているが、その歩き方に油断はない。そして何気に右手で剣を触っていた。

 怖っ!にこやかに斬れる準備してるとか、門番怖っ!


「国王にご報告をしに来ました」


「お嬢ちゃんがか?…ふむ、前もって話を通したりは?」


「してないぜ」


 答えたのは、ライだった。ライはそれから、腕に着けていたプロテクターをパパッと一気に外し、素の腕を見せ付けた。

 パッと見では分からないが、よくよく見るとその腕には青白い文字が浮かび上がっていた。理解不能な記号が並んでいる『それ』は、魔法的なものであるにも関わらず、魔法特有の波動みたいなものを発していない。相変わらず謎な刻印である。


「腕にこの紋様を持った男女が来たって伝えてくれれば、多分王には伝わる」


 見張り側の反応は、やはり未知に対する驚きと、困惑だった。が、1番最初に話し掛けて来た人はすぐに再起動して、対応を始めた。

 さすがは城を守る盾。イレギュラーに対する適応が早い。


「………そうか、分かった。では私は王に伝達してくる。それまではここを一切動くなよ。…おい、見張りを頼んだぞ」


 それだけを言うと、門をくぐって城の中に消えていった。



 そして、それから約10分程。門番が戻ってきた。


「では、王の御座す間に案内する。着いてこい」



 中は、まぁ大体想像してた通りだった。お洒落さに気を配るよりも、実用性を重視した、と言うべきか。

 ヨルクと名乗った衛兵さん(門番では無いらしい。…なぜあそこにいた)の後を追って、赤いふかふかのレッドカーペットを踏みしめる。視界の横には各大陸を守護すると言われる神像が、神々しく立っているのが映った。確か、この大陸は……戦の神ロッソの像、だったか。はっきり言うと、そんな縁起でもない戦の神なんぞ、いてほしくない。戦いはいつも不幸を生むのに、それを祝福なんかして何になると言うのだろうか。



 ―――と考えていると、一際大きな扉の前まで来たのに今更ながら気が付いた。金の装飾がよく映えている。恐らく、この奥に王様がいるのだろう。

 今から一国の王と会うのだと思うと、急に心音が大きくなった気がしてきた。ちらりと隣を見ると、いつもとさして変わらないライの顔がそこにある。しかも欠伸なんかしてるし。…この人は緊張を知らないらしい。まことに羨ましいこって。


 そして、扉が開いた。



「よくこの城に来て下さいました。私はこの国の王のシャロット・ウルヴァーノです」


 そこにあったのは、玉座に腰掛けた威厳ある若き王の姿。…確か、六大陸の王の中で一番若いんだっけか。

 ライがサッと跪いたのを横目で見て、私も慌てて跪いた。こういう対応もしっかりできる辺り、さすがは王子である。


「お初にお目に掛かります。ラミア・アスールフォーゲです」


「同じく、ライ・シーレンスです」


「ふむ……、ラミアさんとライさんですか。確かに、刻印を確認しました。顔を上げても構いませんよ」


 そう言われたので、顔を上げると王と目が合った。


 ぞくり、と。

 目が合っただけで、呼吸を思わず止めてしまいそうな、言い様のない寒気が走った。それは、まるで……底の見えない深い翠がこちらを覗き込んでいた、と言うべきか。

 が、その雰囲気はすぐにふっと消え、穏やかなものが戻ってきた。

 一体何だったのだろうか?……まぁ中々油断ならない人である事は、取り合えず確定である。


「いやはや、長旅ご苦労様です。そして、こちらにやって来たと言うことはやはりセシリアさんを?」


「そうです。探しに来ました」


「成る程…」


 その時、王の横にいたあの優秀な衛兵さんが、顔を王の耳に寄せて何かを囁いた。口の動きを手で隠していたので、何と言ったのかは予測は不可能だが王が眉間に皺を寄せたので、いいことでは無いようだ。

 落ちるのは、沈黙。


 王はしばらく眼を閉じていたが、そのあと彼はこちらをじっと見つめた。さっき感じたあの目線より息苦しさは無い。が、こちらの考えを全て見透かすように鋭く抉り込んできていた。特に何か悪いことをした訳でもないのに居心地の悪さを感じ目を逸らしたくなるも、逸らす理由もないので我慢我慢。


 そして、翠の目を見ていた私の視界の隅で、王の右手が少し動いたのを捉えた瞬間。



 私の危機感知レーダーが鋭く警報を鳴らし。


【避けろ!】



 ディバルフと自分の勘に従い、全力で地面を蹴っていた。



 その一瞬後。響くは、床石を砕く音。



「っはぁ!?」


「成る程。中々やりますね」


「王!?」


「え?は?いや、ちょ、えぇ!?」


 起こったのは、簡単なこと。シャロット王が玉座の近くに立て掛けていた大きな剣で私を斬り付けようとし、私はそれを避け、剣が床を砕いた。ただ、それだけのことである。


 ――――って、ちがあぁぁあうっ!!

 自分で考えときながらなんやけど、全然そんだけのことじゃない。何でこっちに向かって攻撃しとるん?何で床を砕く程の力込めたん?私は何もしとらんし…全くもって話に繋がりがない。


「えっ…と、どういうことでしょうか?」


「知っていますか?この国は実力主義なんです。他の大陸の情報がどうであれ、この大陸で実力を示さないと意味が無い」


「……つまり、王はここで実力を示せ、と?」


「そう、ですね。まぁ大丈夫です。ここを訪れる強者はみなこの道を通ってますから」


 全然大丈夫やないし!

 そういう意味を含めてシャロット王を見るも、王は楽しげな雰囲気を変えない。


「しかし、あなた方も覚悟はしておられたでしょう?この国に来たときから」



 …………まぁ、確かに…薄々思ってはいた。


 この世界には、『神の子は神に似る』と言う諺がある。意訳をすれば、『各大陸の人々はその大陸の神の性格に似る』と言うこと。

 ここの神は、戦神。戦の度に戦場に我先にと飛び込み、強者と片っ端から勝負していった、言わばバトルジャンキー。それを写す王となればどうなるか。………後は言わなくても分かるだろう。


 心配は、していた。決闘好きな王様の噂は聞いてたから。だがここまでいきなり振られるとは思ってもみなかった。自己紹介をして、この大陸に来た目的行ったら斬りかかられるとかおかしいよね。普通は。吹っ飛びすぎにもほどがある。


「へっ。やってやろうじゃねーか」


 駄目だ。…私のお仲間もジャンキーだった。タークリングの守護神は環神であって、戦神じゃないんだからさぁ、もっと普通の性格をしててほしかったよ。


「分かりました…。やればいいんですよね!?」



 ……まぁ、こうなった王様は止められないとも聞いたこともあるし、ここは腹を括ろう。



 けど……せめて1つだけ言わせて欲しい。



 ―――まだライと共同で戦ったことないんですけど!?

登場人物


1.ロッソ国王、シャロット

2.ロッソの衛兵、ヨルク

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