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折り紙図鑑

「ん~、お、ラミアー。……って寝てんのか…」


 宿屋に戻るとロビーでラミアが机に腕を下に敷いて寝ていた。その側にはいつくか折り紙が転がっている。


「これは……船、だな」


 形からしてさっき乗ってきた『隼』だろう。…てか、こんなリアリティのある立体な折り紙とか見たことねぇ。本当に一枚の折り紙かよ。作り込みが細か過ぎて出てくるのはもはや感嘆の声だけである。

 ちなみに周りに転がってたのも全部『隼』に似たものだった。ちょっとずつ改良していったのか、1つ1つの細部は少し違う。


【船の中に籠りっきりだった割には、ちゃんと見てたんだな】


「……同じく籠りっきりだった奴が言うか、それ…。おーい、ラミアー起きろー」


 ゆさゆさと肩を揺らしてみるが起きない。中々深い睡眠をしていらっしゃるようだ。

 ……と、ラミアの頭が乗っかっている腕の下に、赤い表紙の本が敷いてあるのに気が付いた。古いという訳ではないが、表紙の角っこが擦りきれている。

 人の本を見ると言うのはあまりよくない事だとは思ったが、俺は好奇心に負けて、本をそっと引き抜いた。


「んーと、どれどれ……失礼しますよ………えーと、『折り紙図鑑』?」


 そう、達筆な字で書いてあった。中を開くと、確かに折り紙の作品の折り順、展開図、解説(何か折り方について、数学的に細かい字で説明してあった。見るだけで頭が痛い)が、たくさん手書きで書かれていた。しかもどうやらこれはマジックブックらしく、完成品が3D保存(ページを開くと保存したものが飛び出てくる)されていた。鶴やカマキリなど簡単そうなものから、ディバルフと同じ形のドラゴンやフェニックスなど難しいものまであった。――ざっと300ページ程。


【んあぁ、それか】


「……念のため聞いておくけど、これラミアの手作り?」


【そりゃそうに決まってんじゃんか】


「ですよねー」


 ページを更に捲っていくと今度は折り紙系魔法の考察が出てきた。これもかなり細かい。ちなみに一番最近書かれたらしきところには、折り紙系第4級魔法『脳内展開図作成補助(Easy)』についてのことが載っていた。


 ……何かもう、色々と金取れるレベルだな、これ。



 しばらくそれをパラパラと捲って見ていたら急に横から引ったくられた。横を見るとラミアがその本を抱え込んでいた。恥ずかしがっているのか若干耳が赤い。


【あ、起きたんか】


「うぅー、勝手に見ないでよー。もっの凄く恥ずかしいじゃんかー」


「えー、別に恥ずかしがることないんじゃねぇか?それすっげーいいと思うんだが……」


「うー……そんなことないよー?」


 ラミアはうーうー唸っていたが、やがて本の新しいページを開いて近くに転がっていた船を拾い上げると、3D保存をした。

 しばらく、ラミアの動かすペンが紙に黒を擦り付ける音だけ周りを支配した。


「……それっていつから書いてるんだ?」


「…そうだねぇ、5年くらい前からかな。ちょっと暇だから、父さんから貰った日記用のこの本に身の回りの物を再現した折り紙を貼り始めたのが、最初だね」


「日記は書いてなかったのか?」


「………いや…あんま、気分じゃなかったんだよね…」


 うーん。ラミアなら貰ったら毎日きっかり書いていきそうなイメージなんだけどなぁ。

 俺の中のラミアのイメージは何か色々まぁいっかで終わらせそうで、それでも細かいことを1つ1つ気にしてるって感じだ。会ってから少ししか経ってないが、そんな感じで大体合っていると思う。


「…ほら、あのパーティーの時さ、皆でお互いの将来の夢を語り合ったの、覚えてる?」


「ん、んー?あーあったなぁ、そんなこと。俺は確か……」


「『世界で一番強い正義の味方になる』、だっけ?」


 あぁ、確かにそんな感じのことを言っていた。今思えば、実に子供らしい夢だ。子供は世界とか最強とか正義とか、そういう言葉が大好きである。上には上が、とか才能云々について考えなくていい、と言う意味ではそれが幸せなのかもしれない。


「えー、っとラミアは『世界の色んな物を折り紙で創る』……だっけ?」


「そうそう、覚えててくれたんだ。んでさ、この旅は丁度夢叶えるいい機会だなーって思って、ね」


【……夢、ねぇ】


 ディバルフが考えるような声を出した。感心や少しの不安が複雑に混ざり合った声だった。


 夢には、叶えられる夢と、叶えられない夢がある。俺の夢は典型的な前者だ。上には上がいるし、何より全てに対して正義であることが不可能であるということは、もうとっくに知っている。

 だがそれでも夢というものは大きく、俺の中にはまだ、正義の味方でありたいという考えがある。それが例え、叶えられなかったとしても、だ。




 ――――やっぱ、夢は、叶えられる方がいいよな。



「さ、区切りが付いたら行こうぜ!」


「んえ?どこに?」


「観光!1日しかないんだからな。楽しまないとダメだぜ?この国の王子である俺が案内してやるからさ」


「……ん。そだね」



 今はただ。仲間の夢を叶えるためだけに行動しよう。








「……でもさ、王子だと余計、良いとことか知らなさそうだよね」


「うぐっ!」


【あーあー、そこは思ったとしても黙っておくべきだろうに……】


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