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船旅

「じゃー、回収任せたぞー!」


「はい。お任せください」


 2人の会話に被せるように鳴る、船が出港する合図。

 新たな土地を目指し、船は滑るように走り出す。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「あぅー、気持ち悪いよー」


【船の中で折り紙折るからだろ!…うぅっ、頭痛が痛い】


 俺の目の前で気分悪そうに項垂れるラミアとディバルフ。大陸を出て、既に何日かは経っているが、2人は船が出て30分で即効ダウンしていた。それからは毎日、こうやってうーうー唸っている。

 ……いやいや、ラミアはともかくディバルフは紙だろうに。なぜ酔う。


「なんでディバルフが酔ってんのさー。紙に三半規管なんて付けた覚えないんだけどぉ」


【……聞かれても困る。むしろこっちが聞きたい。】


「ほら、あんま喋んなよ。お2人さんは後10分程頑張れよ。もうすぐ着くと思うけど、ちょい聞いてくるなー」


 船酔いしている人を観察しているのは少し趣味が悪いからな。


「うぅっ、いってらー」


「おう」




 通路を出て、階段を登ると風が吹き抜けた。サアァァと波を切る音が実に気持ちいい。俺が生まれた時から嗅いでいた海の匂いを感じる。



 ――やっぱ海だよなぁ。



 子供の時から船に乗って海産物を取る手伝いをしたり、素潜りで遊んだ者としては、海は開放感溢れるものだと思うのだが……あの2人は違いそうだな。



「ん?おぉ、ライ君!どうだった?彼女の調子は」


「うーん、まぁ無理をしなければ大丈夫そうでしたね」


 声をかけてきたのは船員のセナだ。この人と俺は、俺がスカイラインにいたときから、喋ったりしていた顔見知りである。



「しっかしまぁ、ライ君は旅好きだねぇ。僕が言える台詞でもないけど、そう海を何度も渡るって中々無いよ?」


「本当にセナさんが言える台詞じゃありませんって。……でも、んー…まぁ色んな『世界』を観たい、という夢がありますからね。このくらいで死んだのなら、俺は所詮そんだけの人間だったってことだし、さ」


 海を渡るという行為は意外と危険だ。それは魔物が襲ってくるからであり、他にも揺れからくる酔いでダウンする人や、戦う時の足場の狭さのせいで魔物の撃退が地上より難しいのである。この船旅でも6回くらい戦ったが、中々ヒヤリとする場面が何度もあった。わざわざそんな危険を侵してまで、外に出たいという人はあまりいないだろう。


「世界ねぇ……。ふむ、それであの子がライ君と共にその夢を叶える彼女、と言うことか……成る程」




 ……………え?


「え、いや、ちょ!?…いやいやいや、成る程って勝手に完結させないで下さい!」


「はははー、冗談だよ」


 ………まぁ、そういうのではなくても、共に『世界』を観る、と意味では合っているかもしれない。

 もちろん他の勇者と共に、ではあるが。



「――…で、実際は彼女のこと、どう思ってるんだい?」


「はぁ……全く。セナさんはそういうの、本当に好きですねぇ」


 このセナという男。スカイライン一の噂好きということで有名で、『真偽混同、風の新聞屋』なんて二つ名まで付いているという。世界中で耳にした噂を色んな人に振り撒くのだ。やれあそこの店は美味しいだの、やれあの町の町長に伴侶が出来ただの何でもありだ。

 セナに話したら結局本人に届きそうだな、と思いつつ、俺は正直な答えを返した。


「まぁでも、小さい時に会ったことがあるとはいえ、性格とかあんまり知らないから何とも言えませんよ」


「なーんだ、残念。――……ま、でもチャンスはあるね」


「一体何のチャンスなんですか……」


 意味ありげにウインクしてから、嬉しそうにカラカラと笑うセナ。

 ……やっぱ、人の笑顔って見てて気持ちいいよな。




「ん!陸が見えてきたよ、タークリングだ」


「んー?あ、ほんとだ」


「ぶっ飛ばしゃぁ3分で着くが……酔った人間を連れたままだと、さすがに死ぬからなぁ」


「出さないで下さいよ?」


 この高速船、その名の通り高速であり、最高スピード時は最早残像が残るレベルであると言う。そもそも、そんな速度を出したら操作が不可能になるそうだ。

 それなら作るなよ、とか思うのは俺だけなのだろうか。


「いや、分かってるって。さすがにそんなことはしないよ。と言うかそれよりも、ラミアちゃん呼んできたら?」


「そうですね」



 さあさあ、3割り増しでいくよ!…なんてセナの声が聞こえる。

 ……もうタークリングか。父さんも母さんも、デンムも元気にしてんのかなぁ。

登場人物


1.真偽混同噂大好き、セナ

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