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従順に、享受し

続けて、更新です。

わずかに、ボーイズラブ風味です。

そこまで、アレじゃないですが…


苦手な方はご遠慮ください。。

 

 合わせ鏡のようだ。そのくせ映すものはまるで違う。

 違うからこそ共鳴して、鈍く輝いては影を落とす。

 なんて、鋭く哀しい輝きなのだろう。



 「俺は、クロが好きだよ」

 

 好きだ、愛してる。……俺には似合わなすぎてトリハダが立つ言葉だが。

 しかし、この気持ちは本物だ。


 「絶対に、離さない」

 

 クロは、好きだ。きれいで、可愛いと思う。不器用だから俺が見ておかないと、ってなる。

 シロは一瞬だけ、表情を無くした。ぞくぞくする、虚無を抱えた、底の見えない眼。

 だが、すぐに微笑んだ。壮絶な、笑みだ。

 

 「キサは馬鹿だね」

 「あー確かに俺って、ホントに馬鹿かも。なんでお前らみたいなメンドクサイのとトモダチなんかしてんのかなー」

 

 後悔はしてないのだけれども。

 時々、思う。俺はどこか歪んだこいつら二人に人生を狂わされたのだと。

 ああ、でも、もう決まっていたことなのか?だとしたら、なんて酷な人生を神様も用意しやがる。

 

 「俺ら、トモダチだったっけ?」

 

 シロがくすりと喉の奥で笑った。夕日に、線の細い顎が紅く照らされる。きめ細かい肌、赤く、柔らかそうな薄くもなく厚くもない唇、シロは本当に男なのかと何度疑ったことか。むしろクロよりも、女性的な魅力を持っていると思う。

 

 「ひでー。俺はシロに出会ったときからこんなに尽くしてきたのに」

 「気持ち悪いこと言わないでくれる。今俺は気分が悪い」

 

 機嫌の悪いときのシロはたまらない。にっこり笑顔でばっさり斬りやがる。

 

 「お前はもう、十分にクロを苦しめてきただろ」

 

 心臓がうるさい。シロを前にするといつもこうだ、何もかも、支配された心地になる。そして、今、俺は絶対の支配者に逆らっている、手のひらがじっとりとしめっているのが分かった。

 

 「クロは、シロと違って、不器用だから、だから、やっと手に入れた相川が本当に大切だったのに、お前は、それを奪ったんだ。これ以上、クロを苦しませる理由はどこにある?もう、十分、クロはお前を憎んでいるんだから」

 

 千鶴、クロがその名を呼ぶときの声音がどれほど優しいか、

 お前だって、それを知ってて、だから、クロが憎いんだろ。

 

 「愛されないからって、もうクロをいじめるのはやめろ」

 

 シロは静かに微笑った。

 俺の心をぐちゃぐちゃにかき乱す顔で。




 俺がシロ、葉月と出会ったのは小学3年の頃だったか。

 空手の地区大会かなんかだった。

 俺は当時それなりに強くてジュニアの部での優勝候補だった。天狗になってたわけじゃないとは言い切れない。家が道場だから、毎日練習を重ねてたし、道場の師範である親父に厳しく指導されながらも、周囲に自慢の息子だと言っていたのに気付いてた。

 自分より年上で体の大きい小学生もいたが、順調に勝ち進んでいった。 だから、まさか決勝で、自分と同じ歳の、色白で小柄な、女の子を相手にするなんて思ってなかった。

 試合が始まってからも、ぼおっとしてた様な気がする、とにかく、綺麗だなと思って。

 気付いたら、見事に負けてしまっていた。

 戸惑うしかない俺に握手を求めて、その子はにっこりと微笑んだ。

 一目惚れだった。

 だが、後でその天使のように可愛いその子が男の子だと知った時は、本当に、神様ってヒドイと呆然と思ったものだ。

 それから小学校を卒業するまで毎年、葉月とは決勝で再会して、俺はまぁなんとかその綺麗なその子とオトモダチになりたくて話しかけた。冷たくあしらわれはしたがだんだんと話すようにはなった。

 『シロ』。俺はどうしてもそのあだ名で呼びたかった。最初の白いイメージが印象的だったからか、天使のようだと思ったからか。

 

 『は?何それ』

 『いや、だってなんかシロって感じじゃん、お前、葉月って名前で呼んだら怒るだろ』

 『名字で呼べよ』

 『冷たいなぁ。いいじゃん。シロで』

 

 嫌そうな顔はしたがもうそれ以上何も言わなかったので、俺はシロと呼び続けた。

 偶然同じ中学校に入学して、同じクラスになって、俺とシロは大抵一緒にいることが多くなった。

 シロは外面が良くて、誰にでも優しかったが、中身は相当腹黒い奴だ。

 それを知りつつ、シロと一緒にいる俺は、たぶんシロの本当を知ってて、いいようもない優越感を抱いていた。

 

 中学3年の頃か、同じ高校を受験する事が決まってて、ある日の放課後、シロの家で勉強することになった。

 冗談を言い合いながら、家に上がって、ちょうど小柄な姿が見えた。

 リビングのドアへと消えようとしていたその子はこちらを振り向いた。

 

 『今、帰ったの、遅かったね』

 

 シロと顔立ちがよく似た、女の子。肩を滑り落ちるまっすぐな黒い髪だけがシロの色素の薄い茶髪と違っていた。

 

 『…ただいま』

 『オトモダチ?』

 

 じっと、俺を見つめる黒い、目。シロの茶色の目とはまた違った魅力があった。

 

 『ああ、ほら、キサ』

 『……あぁ、キサ、ね。初めまして』

 

 少しだけ微笑んだ彼女の表情が、あの日の、試合が終わった後のシロの顔と重なった。



 その後も何回かシロの家に勉強するという名目で遊びに行ったが、半分はそのシロの双子の妹だという、佳月となんとかしてオトモダチになるためだった。小学生の俺が、シロとトモダチになりたかったように、俺は佳月ともトモダチになりたかった。シロは嫌な顔を隠そうともしなかったが、俺は佳月をクロと呼んだ。

 

 『葉月はシロで、わたしはクロ?』

 『なんか、こう、佳月はクロって感じなんだよな』

 『…そうね、葉月はシロって感じね』

 

 じゃあ、私はシロの反対ね、と笑った佳月の表情は葉月が決して浮かべることのない柔らかなものだった。




 今思えば、シロとクロと、俺が呼んだのが、いけなかったのかもしれない。

 シロもクロも名前に縛られたのか。

 きっと、二人は、完全に分かれてしまったのだ。

 シロと、クロ。

 二つは決して、同じものにはなりえないから。

 …………なんて、その考えさえも俺の傲慢な独占欲だと、気付いていないわけではない。




 「勘違いしないでくれる、俺は佳月を愛しているんだよ」

 「…苦しむ姿を愛でるのは、まっとうな愛じゃねえよ」

 

 シロは残酷だ。

 

 「俺には至高の愛だね、佳月にしかこんな感情芽生えないし、佳月だけが欲しい。佳月も、佳月の涙も、心も、すべて、俺のものだよ」

 「ちがう、佳月は佳月のものだ」

 「相手を欲しいと思うことが、愛なんじゃないの?」

 

 本当に不思議そうに、シロは首を傾げた。

 

 「ねぇ、だって、キサだって、俺も、佳月も、欲しかったんでしょ」

 

 どきりとした。

 欲しい?あぁ、そうかもしれない、葉月と、佳月の危うさがたまらなく愛おしいと思ったから。

 救ってやりたい、なんておこがましいかもしれないけどな、

 

 「俺は、佳月が好きだよ」

 

 それと同じくらい、お前の事が。

 

 「好きだよ」



 たぶん、俺は葉月が好きだ。         

 器用だけど佳月よりも不器用で、わざわざ孤独を選ぼうとするお前の事が。

 女子共が好みそうなアレだ、アレ。

 俺は、佳月も葉月も責められないな。

 やっかいなことに、さ。



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