第○一話 とある竜人との邂逅
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かつて人類は一つだったと言われている。何千何万何億という人口がたった一つの国に収まり日々をすごしていた。大国の名はゴルドン帝国、治世は八十年、その間王はただ一人。建国の祖、国滅ぼし、良くも悪くも様々な、おそらく彼以上に名を持つ者はいないだろう。ゴルドン帝国初代皇帝にして最初で最後の統一王、バルバトス・ルーテライト。齢十五でゴルドン帝国を作り、二年で世界を統一、以来死ぬその時まで治め続けていた。
バルバトスが動けば大地が躍る。バルバトスが動けば大気が謳う。バルバトスが動けば大空が姿を隠す。行く先には戦争と不毛が、行く途中には混乱と破壊が、通った後には秩序と反映が、約束される。
死ぬ間際、バルバトスは床についたまま、こう言った。
「しばらく留守にする。儂が地獄を統一し、再び地上に戻るその時まで、この地を頼む」
だがバルバトスの死後、ゴルドン帝国は一年を待たずに分裂し、五つの大国と数百の国に分かれた。その際、バルバトスの死体はあやふやになり、気付いた時にはなくなっていたという。
今もどこかで眠っているというそれは、今なお最高である金貨十万枚という莫大な、一国が有する金貨と同等、金が掛けられている。なぜなら彼の死体は、持っているだけで国を豊かにすると言われているからだ。
故にトレジャーハンター達はバルバトス死体を一番見つけたがっているのだ。何故ならそれは、本当の夢が詰まった宝物であるからだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねえ、これってピンチじゃない?」
緊張感の欠片もない声が緊迫した空気を振るわせた。
声の主である女、ルンディアナ・ラグラドールと閉口したままの男、ギルダー・ロードウルフはトレジャーハンターであり、今日も攻略された後の洞窟でおこぼれに預かっていた。俗に言うハイエナ行為だ。
しかし一度攻略されているからといって安全と言うわけではない。モンスター達はすぐに入り込んでそこを根城とする。さらにその中でも力と知恵の両方を兼ね揃えた個体がいると、その根城の危険度は一気に最高レベルまで跳ね上がる。しかもそれがいつ起こるかはわからない。例えば、安全と思って入ったのだが、奥で物色している内に危険度があがっていた、というのは日常茶飯事だ。
特にその場合、ルンディアナとギルダーのような少数チームでは致命となりうるのだ。
現に今、二人の目の前にいるのは古代種という平均危険度AAAという最も危険な種の中でも、最も知性が優れているという竜人だ。人の形に竜鱗と尻尾、それから翼があるのが特徴で、危険度はAAA~SSSという最高レベル。ちなみに最高危険度はG、既存では純色竜がそれに該当し、他はない。
竜人はルンディアナとギルダーの二人を見据えたままぴくりとも動かず、ただ二人をジッと見据えていた。
「今なら逃げられる?」
「……」
ふるふると首を横に振るギルダー。ルンディアナは何か逃げ道はないかと探すが、どれも無駄な気がしてきた。
このまま逃げ切れなければ、二人に待っている結末は――――死。
「人間か。ようこそ我が根城へ。何もないところで悪いな」
気さくに話しかけてきたのは竜人だった。ルンディアナとギルダーの体が一気に強張り臨戦態勢に入る。
だがこの竜人は驚いたことに、威嚇どころか敵意すら向けていなかった。
「いえ、立派な宝がありましたよ」
「そうか? 我から見ればこんな目を潰すような代物は不要なものであるが、人間にとっては違うようだ。うむ、それが我の人間に興味を湧かせる一番の理由である」
「そうですか。じゃあこの宝は――――」
「かと言ってタダで渡す訳には行かん、こちらも立場というものがあるのでな。故に貴様等の名を教えて貰う。宝の対価に名を教えろ」
「ルンディアナ・ラグラドールよ」
「……ギルダー・ロードウルフ」
「ルンディアナとギルダーだな。記憶した。我は見ての通り竜人、名はキュリアス」
キュリアスは胸を張る。どうも普通のモンスターとは違うな、とルンディアナとギルダーは感じたので、いくらかは警戒しながらもかなり弛めている。
キュリアスはさっきまでと同様にゆったりした風情でゆっくりと床に座った。
「生憎椅子や机はここにはない。もとより我ら魔族は人間と敵対する運命にある、故に家具を揃えたところですぐに壊れるのは目に見えている」
さて、とキュリアスは二人の人間を目の前に据える。
「我はルンディアナ、そしてギルダーを食おうというわけではない。我が聞きたいことがある」
そして問いかける。
天犬ガンバだぜ!