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勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした  作者: ぽんぽこライフ


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集結

 翌朝。食堂に全員が集まった。


 朝日が窓から差し込み、テーブルの上のパンと果物を照らしている。港の市場が開き、魚売りの声が遠くから聞こえていた。


「俺はやる」レイドが口を開いた。「魂の断片を差し出す」


「私も」リーシャが続いた。


 ガレスが腕を組んだ。


「俺にも何かできるか」


「ガレスは——」ヴェルディアが首を横に振った。「魔力を持たない者には、礎石への刻印はできない。だが——」


「分かってる。俺の仕事は——こいつらを守ることだ。封印の間、何が来ても盾で受け止める」


 フェリクスが椅子から立ち上がった。


「私も——やります。魂の断片を。正直——恐ろしい。分析と計測が私の全てです。それが鈍くなるかもしれないと思うと——」


 フェリクスの声が震えた。だが——続けた。


「ですが——ジーク。あなたは言いましたね。『世界が滅ぶなら報酬も使えない』と。私も同感です。世界を守る計測記録が——私の最高傑作になるなら、代償は払えます」


 ジークが鼻で笑った。


「殊勝なことを言うじゃねえか。——俺は魂を差し出す役には向かねえな。剣で戦う方が性に合っている」


「ジークには別の役割がある」レイドが言った。「聖印を持つ者を——ここに連れてくる必要がある。アウグストゥスかヴァレリウスか。聖印の力が三つ目の魔力だ」


「使い走りかよ」


「重要な使い走りだ。ヴァレリウスは四つ目の神殿にいる。傭兵を使って——連絡を取れるか」


 ジークがフェリクスに目配せした。フェリクスが頷いた。


「黒鷹の通信網なら——三日で四つ目の神殿に届きます。往復で——最短一週間」


「一週間か。——その間にできる準備はあるか」ヴェルディアに聞いた。


「ある。礎石への刻印の手順を——全員に伝えておく必要がある。三千年前の術式を——現代の魔力で再現する方法を。教える時間が要る」


「ならちょうどいい。ヴァレリウスが来るまでの間に——準備を整える」


 方針が決まった。


 ジークが傭兵をヴァレリウスの元に派遣した。フェリクスが通信文を作成し、事情を簡潔に説明した。——「礎石の修復に聖印の力が必要。至急レヴァルスへ」。


 その日から、ヴェルディアの指導が始まった。



  ◇



 宿の部屋が——教室になった。


 ヴェルディアがテーブルに石板を広げ、礎石の構造を図示した。五つの書体。五つの魔力の系統。それぞれがどう交差し、どう結合して封印の土台を形成しているか。


「封印の術式は——建物の構造に似ている。柱と梁がある。五つの力が——柱と梁の役割を果たしている。一つが欠けても建物は立つが——二つ欠けると崩壊する」


 リーシャがメモを取った。碧眼が輝いている。学者としての彼女が——三千年前の術式に知的興奮を感じている。


「この交差点が——魂の断片を刻む場所ですね。五つの交差点に、それぞれの力を注入する」


「その通りだ。重要なのは——同時に注入すること。一つずつ順番に刻むのではなく、五つの力が同時に流れ込まなければならない」


「同時に——五人が同時に」


「ああ。三千年前は五人が手を繋ぎ、合図と共に力を注いだ。今回も同じ方法で行う」


 フェリクスが質問した。


「私の魔力は——計測と分析に特化しています。封印の構造に注入するには——変換が必要では」


「必要ない。魔力の系統が重要なのであって、用途は関係ない。計測の魔力は——精密な力だ。封印の構造を安定させる——梁の役割に適している」


 レイドも訓練に参加した。自分の魔力を——制御する練習。通常の魔力放出ではなく、魂の奥から——自分の存在の核に近い部分を引き出す訓練。


「難しいな——」レイドが額の汗を拭いた。


「当然だ。魂の断片を差し出すのは——体の一部を切り取るようなものだ。本能が抵抗する」


「一周目の記憶にアクセスする時の感覚に——似ている」


「近いかもしれない。死に戻りの経験が——魂の深層に触れる感覚を知っている。それが——お前の強みだ」


 日が経った。三日。四日。五日。


 全員が——少しずつ、礎石への刻印の準備を整えていった。


 六日目の朝、港に船が着いた。


 ヴァレリウスが——五人の信者を連れて、レヴァルスに到着した。


「来たか」レイドが港で迎えた。


 ヴァレリウスは白い法衣に旅の埃を纏い、鋭い目でレイドを見た。


「通信文を読んだ。——礎石の修復に、聖印の力が必要だと」


「ああ。詳しくは宿で説明する」


「その前に——一つ聞く。この修復が失敗したら——どうなる」


「五つの封印が全て崩壊する。お前が管理している四つ目の神殿も——」


「分かった。——行こう」


 ヴァレリウスは即断した。四つ目の神殿を任された責任が——彼を動かしている。


 宿の食堂で、ヴェルディアが全てを説明した。礎石の構造。亀裂。イルヴァーンの存在。そして——五つの力と、魂の断片の代償。


 ヴァレリウスは黙って聞いていた。説明が終わった後、長い沈黙。


「……マルティウスは——この真実を知っていたのか」


「知っていた可能性はある。少なくとも——封印の存在は知っていた」


「知っていて——世界を壊そうとしていた。俺が信じていた男は——」


 ヴァレリウスの拳が握りしめられた。だが——すぐに開いた。


「過去は変えられない。だが——未来は守れる。聖印の力を使え。俺の信仰は——嘘の上に建っていた。だが——この封印を守ることが、本当の信仰になる」


「受け入れるのか。代償も含めて」


「受け入れる。何を失っても——信仰は失わない。それだけは——俺の魂の核だ」


 五つの力が揃った。


 レイド。リーシャ。フェリクス。ヴァレリウス。そしてヴェルディアの三千年前の刻印。


「明日——海底に降りる。礎石を作り直す」レイドが全員を見回した。


 全員が——頷いた。


 窓の外の海が——碧く輝いていた。嵐の前の静けさのように——穏やかに。

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