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勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした  作者: ぽんぽこライフ


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西への道

 王都を発つ朝、空は穏やかに晴れていた。


 大聖堂の鐘が朝の刻を告げている。昨夜の騒動が嘘のように、王都の日常が戻りつつあった。だが大聖堂の中は違う。聖騎士たちが廊下を慌ただしく行き来し、マルティウスの拘束をめぐって混乱が広がっていた。


 七人は王都の西門の外に集まっていた。


 レイド。リーシャ。ガレス。ミラ。カイル。アルヴィン。セレナ。


「ヴェルデ聖堂は西の大陸だ」レイドが地図を広げた。「ここから馬で五日。港町カレンまで三日、そこから船で二日」


「五日か」ガレスが腕を組んだ。「マルティウスを押さえてる間に動くのが得策だな」


「ああ。だが——マルティウスの部下がまだ動いている。浄罪の目の残党が各地に散っている」


「そっちは俺が引き受ける」


 ジークが城門の影から姿を現した。隣にフェリクスが控えている。


「俺とフェリクスで、浄罪の目の残党を押さえる。傭兵ギルドの連中を使えば——王都の治安維持くらいはできる」


「ジーク。——感謝する」


「感謝はいらねえ。世界が滅びたら報酬が使えないからな」


 ジークが口の端を上げた。だがその目には——金の話をする時とは違う光があった。


「それと、もう一つ」ジークがレイドの肩を叩いた。「マルティウスは黙っちゃいない。拘束されたとはいえ、千年の組織には根が深い。各地の聖堂に信者がいる。ヴェルデ聖堂にも——聖教会の支部がある」


「先回りされる可能性があるか」


「ああ。鴉の伝書は俺たちより速い。フェリクスが妨害工作を仕掛けるが——全ては抑えきれない」


 アルヴィンが歩み出た。白銀の鎧が朝日を反射し、金髪が風になびいている。だがその碧眼は——昨夜までとは別人のように澄んでいた。


「私が先行する」


「アルヴィン?」


「勇者としての名は、まだ聖教会の正式な取り消しを受けていない。私が聖教会の正規の命令としてヴェルデ聖堂に向かえば——現地の聖教会支部は従うしかない。地下への道を確保できる」


「だが——お前が表に出れば、マルティウスの残党に狙われる」


「エドモンがいる」アルヴィンがエドモンを振り返った。エドモンが無言で頷いた。「それに——セレナも」


 セレナが微かに頷いた。聖女の白い衣が風に揺れている。


「聖女と勇者が揃えば、現地の聖騎士も逆らえないだろう」


 レイドは考えた。アルヴィンの提案には理がある。聖教会の権威を内側から利用できるなら——正面突破よりも遥かに安全だ。


「分かった。アルヴィンとセレナ、エドモンが先行してヴェルデ聖堂を押さえる。俺たちは一日遅れて合流する」


「なぜ一日遅らせる」


「リーシャの体を休ませたい。四つの残滓を一晩で取り込んだ。回復に最低でも半日は必要だ」


 リーシャが口を開きかけたが、レイドが先に言った。


「無理をするなと言ったのはお前だ。約束は守れ」


 リーシャが少しだけ笑った。


「分かりました。——半日だけ」


 アルヴィンが馬に跨った。


「レイド」


「何だ」


「一周目で——お前を殺したことは、取り消せない。だが二周目では——共に世界を救う。それが俺にできる償いだ」


「償いなんかいらない。——ただ、お前がここにいてくれればいい」


 アルヴィンの碧眼が一瞬揺れた。だがすぐに前を向き、馬を駆った。セレナとエドモンが後に続き、三人は西への街道に消えた。



  ◇



 半日の休息の後、五人は出発した。


 レイド、リーシャ、ガレス、ミラ、カイル。街道を西に向かい、平原を駆ける。


 リーシャの体調は回復していた。四つの残滓の力は安定し、地脈の感覚もクリアだ。走りながらも、大陸全体の魔力の流れが見える。


「ヴェルディアの状態は」レイドが馬の上から問いかけた。


「安定しています。四つの残滓で——負荷の四割を引き受けています。ヴェルディアは楽になっているはずです。ですが——」


「ですが?」


「ヴェルディアの体そのものの損傷は、残滓の吸収では治せません。三千年の酷使で——体が限界に近い。五つ目の残滓を取り込んで負荷を五割以上引き受けても、ヴェルディアの体が持つかどうかは——」


 リーシャの声が小さくなった。


「つまり——時間がないのは変わらない」


「はい。五つ目を取り込んだ後、ヴェルディアを直接治癒する方法を見つけなければ」


 レイドは前を向いた。街道の先に、夕陽が沈みかけている。西の空が橙から紫に変わり、星が一つ瞬き始めた。


「一つずつだ。まず五つ目を取る。その先は——その時に考える」


「いつも通りだな、リーダー」ガレスが笑った。


「いつも通りじゃねえだろ。世界の命運がかかってんだから」カイルが呆れた声を出した。


「命運がかかってようがかかってなかろうが、やることは同じだぜ。目の前の壁を、一つずつ壊していく」


 ミラが鼻で笑った。


「おっさんの言う通りだけど、もうちょっと繊細な表現はできないの」


「うるせえ。俺は盾使いだ。繊細は専門外だ」


 五人の笑い声が、夕暮れの街道に響いた。


 世界が崩壊に向かっている中で——それでも、笑える。仲間がいるから。


 レイドは一周目を思い出した。あの時は——こんな風に笑えなかった。真実を一人で抱え、孤独の中で戦い、最後には——全てを失った。


 二周目は違う。


 隣にリーシャがいる。背後にガレスがいる。ミラが先を見張り、カイルが弓を構えている。アルヴィンが前を走り、セレナが祈っている。ジークが背後を守り、フェリクスが情報を集めている。


 一人じゃない。


 それだけで——走れる。


 五人は西に向かって馬を走らせた。星が一つ、また一つと夜空に灯り始め、街道を銀色に照らしていた。


 最後の残滓が待つ場所へ。世界の均衡を取り戻すために。

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