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勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした  作者: ぽんぽこライフ


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六つの道

 翌朝、六人はエルステッドの東門で別れた。


 秋の終わりの風が冷たい。街道に朝霧が漂い、馬の鼻息が白い煙になる。


 アルヴィンが馬上からレイドを見下ろした。聖剣が腰に佩かれ、金色の光は安定している。


「王都で待つ。——お前が次の柱を確保したら、伝書をくれ。そこから先は一緒に動く」


「ああ。マルティウスを甘く見るなよ。あの老人は千年の歴史を背負っている」


「分かってる。だが——俺には、自分の目で見た真実がある。聖剣の光が偽りなら、俺の意志は偽りじゃない」


 アルヴィンが手を差し出した。レイドが握り返した。五度目の握手は、短く力強い。


 セレナが馬に跨がり、エドモンが隣に控えている。


「レイドさん。リーシャさん。お気をつけて」


「セレナ殿も」リーシャが頭を下げた。「次に会う時は——あなたの覚醒です」


 セレナが微笑んだ。翡翠の瞳に決意の光が灯っている。


 アルヴィン、セレナ、エドモンの三人が西へ馬を走らせた。王都に向かう道。聖教会と正面から向き合う道。


「さて」ミラが背伸びをした。「あたしも行くよ。ジークと連絡取らなきゃ」


「気をつけろ」


「リーダーこそ。——ガレスのおっさん、リーダーをよろしく」


「任せろ」


 ミラが猫のように身をひるがえし、朝霧の中に消えた。情報戦の最前線。彼女の戦場は、路地裏と暗闘の中にある。


 残ったのは三人。レイド。リーシャ。ガレス。


「北だな」ガレスが馬の手綱を握った。「北嶺の近くの聖堂——アイゼンだっけか」


「ああ。ファレストから北東。山岳路を越えた先にある」


「北嶺か……。つい先日、カイルを助けに行ったばかりだぜ」


「今度は別の目的だ。だが道中の危険は同じか、それ以上だ。守り手の覚醒で魔物の暴走は収まりつつあるが、北嶺周辺はまだ不安定だ」


 三人は馬に跨がり、北へ向かって走り出した。


 街道は東回廊に向かう道と途中で分岐し、北嶺への山岳路に入る。同じ道を、つい十日前にカイルの救援で走った。だが今は景色が違う。枯れていた畑に、微かに緑が戻り始めている。井戸水が清んだ村もあった。


「守り手の力が——世界を癒し始めている」リーシャが馬上で目を閉じた。「地脈の流れが安定しています。以前の半分ほどですが——確実に改善している」


「半分じゃまだ足りねえんだろ」ガレスが言った。


「はい。ヴェルディアの負荷を完全に軽減するには、少なくともあと二人の守り手が必要です。セレナさんと——できれば、もう一人」


「もう一人?」


「五つの柱には、それぞれ守り手がいたはずです。千年前に柱と共に失われたとされていますが——血筋が残っている可能性はあります」


 レイドは考えた。守り手の血筋。リーシャは三百年前の禁書で発見した。セレナは聖印を通じて柱の力と共鳴した。他にも——守り手の血を引く者がいるかもしれない。


「その話は後だ。まず目の前の仕事を片付ける」


 三日間の旅。街道を北に、やがて山岳路に入る。北嶺の峰々が近づき、空気が薄く冷たくなっていく。


 二日目の夜、野営地で焚き火を囲んだ時、ガレスが口を開いた。


「なあリーダー。一つ聞いていいか」


「何だ」


「一周目で——俺はどうなったんだ」


 レイドの手が止まった。焚き火の光がガレスの顔を照らしている。太い眉の下の、真剣な目。


「……一周目のガレスは、最後まで俺のそばにいた」


「最後まで?」


「世界が崩壊する直前まで。お前は——俺を守って死んだ」


 沈黙。焚き火が爆ぜる音だけが、夜の山間に響いた。


 ガレスが大きく息を吐いた。


「そうか。——いい死に方だったか」


「馬鹿みたいに格好よかった」


「はは! そりゃあいいや」


 ガレスが笑った。大きな笑い声が、山の木霊に反響して消えていく。


「リーダー。二周目では——俺はもっと長生きする予定だ。お前を守った後もな」


「ああ。そのつもりだ」


 リーシャが隣で微笑んでいた。碧眼に焚き火の光が映り、銀色の守り手の光と混ざって、複雑な色合いを作っている。


 三人は焚き火を囲み、夜を過ごした。交替で見張りに立ち、山の冷気と獣の声を聞きながら。


 三日目の夕方。山岳路の頂を越えた時——アイゼン聖堂が見えた。


 北嶺の山腹に張り付くように建つ、灰色の石造りの聖堂。ファレストよりも古く、風化が進んでいる。壁面の一部が崩れ、塔の先端が折れている。だがその下に——地脈の振動を、リーシャは感じ取っていた。


「ここにも——柱の残滓がある。ファレストより弱いですが——確かに」


 レイドは聖堂を見上げた。今度こそ——邪魔は入れさせない。


「行くぞ」


 聖堂の入口は開いていた。管理人がいた形跡はあるが、最近は無人のようだ。魔物の暴走で住民が避難したのだろう。


 石の扉をくぐると、冷たい空気が吹きつけた。聖堂の内部は暗く、天窓から差し込む夕陽だけが、古い祭壇を照らしている。壁面の聖画は色褪せ、床の石畳にはひび割れが走っていた。


 だがリーシャの目は祭壇の奥に釘付けだった。


「祭壇の下。——ファレストと同じ構造です。地下に柱の残滓がある」


「警備は」


「いません。ですが——何かの気配を感じます。人間ではない。魔力の残滓が自律的に動いている」


「守護者か」


「おそらく。柱の跡地を守る存在が残されている可能性があります」


 ガレスが大盾を構えた。


「任せろ。守護者ってのが何だろうが——盾で止める」


 三人は祭壇の裏に回り、地下への入口を探した。石の床に、古代文字が刻まれた蓋があった。


 リーシャが手を当てると、蓋が守り手の力に反応して開いた。以前より容易だ。覚醒した力が、柱の遺構と自然に共鳴している。


 地下への階段が、闇の中に消えていた。青い光が下から漏れ、壁面の文字を照らしている。


 三人は階段を降り始めた。今度こそ——覚醒の続きを完成させるために。


 そして今度は——守りの盾がある。


 階段を降りるにつれ、空気の密度が変わった。魔力が肌に纏わりつく。呼吸するだけで体の芯が震える。ファレストの地下と同じ感覚だが、ここはさらに古い。石壁に刻まれた文字はもはや判読不能で、紋様だけが残っている。


「この紋様——ヴェルディアの魔法陣と同系統です。柱同士は、かつて繋がっていたのですね」


 リーシャの声が、地下に反響した。碧眼の中の銀色の光が、壁の紋様に呼応して強まっていく。


 レイドの左手も反応していた。紋様が温かく脈動し、指先に力が戻っている。ヴェルディアの力と守り手の力が混ざった、新しい感覚。


「近いな」レイドが呟いた。「柱の残滓が——呼んでいる」


 階段が終わり、闇の中に——青い光が広がっていた。


 レイドは剣の柄に手をかけ、闇の先に踏み出した。

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