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勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした  作者: ぽんぽこライフ


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集結

 レイドとリーシャがエルステッドに戻ったのは、ファレストを発って三日目だった。


 街に入った瞬間、空気の変化を感じた。人々の表情が明るい。市場に活気が戻り、子供たちが広場で遊んでいる。魔物の暴走が沈静化したことで、日常が少しだけ戻っていた。


 約束の宿屋に入ると——ミラとガレスが待っていた。


 そしてもう一人。白い法衣の女性。


「セレナ?」


「レイドさん。お会いしたかったです」


 セレナが微笑んだ。翡翠の瞳に、以前にはなかった芯のある光が宿っている。


 ミラが経緯を説明した。ガレスの救出。セレナの解放。三人での南への旅。


「おっさんが捕まった時はどうなるかと思ったけど——まあ、あたしにかかれば余裕だったよ」


「余裕って……お前、見張りに薬盛ったんだろ」ガレスが苦笑した。


「細かいことは気にしないの」


 五人が食堂のテーブルを囲んだ。レイドが状況を整理する。


「まず報告する。リーシャの守り手の覚醒は成功した」


 全員の目が輝いた。


「マジか!」ガレスが拳を打ち鳴らした。


「すごいね、リーシャ」ミラが目を丸くした。


 セレナが両手を合わせた。祈りの仕草。だが今の彼女の祈りは、教義に基づくものではない。心からの感謝だ。


「覚醒の効果は既に出ている。魔物の暴走が収まり始めた。ヴェルディアの負担が軽減されたことで、世界の魔力循環が安定に向かっている」


「ということは——世界はもう大丈夫なのか」ガレスが身を乗り出した。


「いや」レイドが首を振った。「守り手の覚醒は一時的な延命に過ぎない。根本的な解決には、壊された四つの柱を復元するか——別の方法を見つける必要がある。そしてマルティウスが、本気で動き出している」


 食堂の空気が引き締まった。


「マルティウスは守り手の覚醒を知っている。それを阻止するために追跡隊を送ってきた。次は——もっと大規模な手を打ってくるはずだ」


「異端審問が本格化するでしょう」セレナが声を落とした。「マルティウスは聖教会の権威を守るために、レイドさんだけでなく——覚醒した守り手であるリーシャさんも排除しようとするはずです」


「そして私も」セレナが付け加えた。「召喚命令に逆らった聖女は、異端の共犯者として扱われます」


 リーシャが頷いた。銀色の光を宿した碧眼が、セレナを見つめている。


「セレナさん。あなたの聖印が守り手の覚醒を助けてくれる可能性があります。聖印は柱の力と同じ根源を持っている——つまり、あなたも守り手に近い力を持っているのではないですか」


 セレナの目が広がった。


「私が——守り手に?」


「仮説です。ですが、聖印が魔王の力と共鳴した事実は——あなたの中にも、柱に近い力が眠っている証拠です」


 テーブルの上に、新しい可能性が広がった。リーシャだけでなく、セレナも守り手になれるかもしれない。二人の守り手がヴェルディアを支えれば——柱の負荷はさらに軽減される。


「まだ不確定な要素が多い」レイドが全員を見回した。「だが方向性は見えた。守り手の力を育て、ヴェルディアを支え、世界を安定させる。同時にマルティウスの暗躍を阻止し、アルヴィンを味方に引き入れる」


「アルヴィンは——」セレナが言った。「真実を知っています。エルステッドに向かっていたはず。もしかしたら、もう近くに——」


 その時、宿屋の扉が開いた。


 金髪の若者が、聖剣を腰に佩いて立っていた。


 アルヴィン・レグルス。


 碧い目がテーブルの五人を見つめた。レイドと目が合った。


「——やっと見つけた」


 アルヴィンの声は、以前のような怒りを含んでいなかった。疲労と——覚悟が滲んだ声。


「レイド。話がしたい。全部聞かせてくれ」


 レイドは立ち上がった。かつて自分を「裏切り者」と呼んだ男が、今——真実を求めて来ている。


「座れ、アルヴィン。——長い話になる」


 六人がテーブルを囲んだ。勇者と聖女と学者と盾使いと斥候。そして——もう一人の勇者。


 世界を救うための本当の戦いが、今始まろうとしていた。



  ◇



 レイドは全てを話した。


 死に戻りのこと。一周目で見た世界崩壊。魔王が世界を支える柱であること。聖教会の千年の歴史が隠している真実。ヴェルディアの余命。守り手の覚醒。そして——マルティウスの企み。


 アルヴィンは黙って聞いていた。両手を膝の上に置き、顔を伏せている。時折、唇が動いたが言葉にはならなかった。


 話が終わった後、長い沈黙が流れた。


「……全部か」


「全部だ」


「セレナが見つけた真実と——一致する」


「ああ」


 アルヴィンが顔を上げた。碧い目が濡れていた。泣いてはいない。だが——泣きそうだった。


「レイド。お前を裏切り者と呼んだことを——詫びる」


「詫びは要らない。お前の立場なら、同じことを言っていた」


「俺は——馬鹿だった。真実が目の前にあるのに、見ようとしなかった」


「見ようとした。だから今、ここにいる。——それで十分だ」


 アルヴィンが手を差し出した。四度目の握手。前夜祭での初対面。出発前夜。結界の外での対峙。そして今。


 レイドがその手を握った。かつて自分を殺した男の手。だが今は——味方の手だ。


「俺にできることを言ってくれ」


「マルティウスを止める。お前にしかできないことだ」


「聖教会に逆らうということか」


「教会に逆らうんじゃない。教会を——正しい方向に戻すんだ」


 アルヴィンが聖剣に手を触れた。金色の光が——以前より安定していた。迷いが消えたわけではない。だが目的を見つけた者の光。


「分かった。——やろう」


 六人の手が、テーブルの上で重なった。勇者二人。聖女。学者。盾使い。斥候。


 立場も信条も違う六人が、同じ目的のために手を結んだ。


 世界を救う。


 窓の外で、エルステッドの夕日が街並みを橙色に染めていた。穏やかな光。その光が永遠に続くように——彼らは戦う。


 レイドの左手が、温かく脈動した。怒りではなく、痛みではなく。


 ——希望の脈動だった。



  ◇



 その夜、宿屋の屋上で、レイドとアルヴィンが並んで座っていた。


 二人きり。夜空には星が散らばり、エルステッドの街灯が遠くに光っている。


「レイド」


「何だ」


「一周目で——俺がお前を殺したんだな」


「……ああ」


「どんな気分だった。俺と握手する時」


 レイドは少し考えた。


「怖かった。お前の剣が怖いんじゃない。お前を止められないことが怖かった」


「今は?」


「今は——安心してる。お前が、自分で答えを見つけてくれたから」


 アルヴィンが空を見上げた。星が瞬いている。


「俺は、正義を信じたい。教義が間違いでも——人を守ることが正義だと。それだけは変わらない」


「それでいい。——俺もそう思う」


「なあ、レイド」


「何だ」


「二周目で——俺とお前は、味方になれるんだな」


「ああ。なれる」


 二人の間に、静かな信頼が流れた。一周目では得られなかったもの。二周目で初めて手にした、かけがえのないもの。


 星が一つ、流れた。北の空に向かって。魔王城の方角に。


 ヴェルディアの元に、新しい希望が届くように——二人は願った。

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