十の旋律
訓練一日目。
レヴァルスの地下訓練場。石壁に魔法陣が刻まれた広い空間で、十人が円を描いて立っていた。
リーシャが中央に立ち、羊皮紙を広げた。
「世界の回路は——三つの主回路と七つの副回路で構成されています。十人がそれぞれ一つの回路を担当し、同時に魔力を注入します。——まず、担当の割り振りを決めます」
碧眼が一人ひとりを見回した。
「主回路は——最も精密な制御が必要です。空間方向の三つの対称軸。東西。南北。上下。これを——レイド、アルヴィン、ヴェルディアさんに」
「俺が——主回路を?」レイドが驚いた。
「レイドの魔力は安定しています。揺らぎが少ない。主回路に最も適している」
ヴェルディアが頷いた。「合理的だ。三千年の経験上——主回路は魔力の質が重要だ。量ではなく」
「副回路は七つ。ジーク、ガレス、セレナ、ミラ、フェリクス、ヴァレリウス、そして私。それぞれの魔力の特性に合わせて配置します」
リーシャが羊皮紙に図を描き始めた。十人の名前と、それぞれの担当回路。複雑な紋様が——音楽の楽譜のように並んでいる。
「一つ質問がある」ジークが手を挙げた。「イルヴァーンの分は」
「イルヴァーンさんは——補助です。十人の魔力が足りない部分を補う。担当回路は持ちません。全体の均衡を保つ役割です」
「それなら——まあいい」
◇
訓練二日目。
各自が自分の担当回路を羊皮紙に写し取り、暗記を始めた。
レイドは主回路の一つ——東西軸の対称回路を担当した。紋様は複雑だが、規則性がある。リーシャの説明通り、音楽に似ている。主旋律のように——流れがある。
だが暗記だけでは足りない。魔力を正確な形に整え、正確なタイミングで注入しなければならない。
「こうか——」レイドが手に魔力を集中した。紋様の形に魔力を整形する。だが——形が崩れる。
「違います。ここの分岐は——左が先です。右から流すと全体が歪む」
リーシャが横から修正した。碧眼が鋭い。学者の目だ。
「もう一度」
レイドが再び魔力を集中した。今度は——分岐を左から流す。形が——少し安定した。
「近い。あと三日で——完璧にしてください」
「厳しいな」
「世界の運命がかかっています」
「分かってる」
訓練場の各所で、同じやり取りが繰り返されていた。
◇
訓練四日目。
夜。食堂でガレスが酒を飲んでいた。
「ったく——学問は苦手だ。剣なら体が覚えるが、魔力の形を覚えろってのは」
「泣き言か、ガレス」ジークが隣に座った。
「泣き言だ。悪いか」
「悪い。——だがまあ、同感だ」
ジークが自分の杯に酒を注いだ。眼帯の奥の目が——珍しく疲れている。
「副回路の第三番——あの螺旋構造が厄介だ。四重に折り重なって——一箇所でも間違えると全体が崩れる」
「お前でも苦労するのか」
「当然だ。三千年の天才が設計した回路だぞ。——だが解ける。リーシャの解説があれば」
ガレスが杯を傾けた。
「あの嬢ちゃん——変わったな。最初に会った時は、怯えた学者だった。今は——」
「指揮官だ」ジークが言った。「この訓練では——リーシャが全員の上に立っている。実質的に」
「レイドは——気にしてないのか」
「レイドが一番従順だ。リーシャの指示に文句を言ったことがない」
ガレスが笑った。
「惚れた弱みか」
「そうかもな」
二人の杯が——鳴った。
◇
訓練六日目。
全員が自分の回路を暗記し、魔力の整形ができるようになった。
最後の課題は——同時性。十人が同時に、正確に、魔力を注入する。一人でも遅れれば——回路が不完全になる。
「合図は——私が出します」リーシャが言った。「三、二、一——で同時に。呼吸を合わせてください」
十人が円を描いて立った。それぞれが手に魔力を集中し、担当回路の形に整える。
「三——」
全員が息を吸った。
「二——」
魔力が——形を取った。
「一——」
十の魔力が同時に放たれた。訓練場の魔法陣が——一瞬、輝いた。
「——七割」リーシャが判定した。「ガレスが遅れました。〇・三秒」
「くそ——」
「もう一度」
繰り返した。何度も。何度も。
日が暮れ、夜になり——精度が上がっていった。
「九割五分」リーシャが言った。「——合格です。明日の本番で——これ以上を出してください」
全員が——汗だくで頷いた。一週間の訓練が——終わった。
明日——泉へ降りる。




