間話 王城にて――重臣は気づく
最初の数日。
王女たちは王城にいる。
そう“見えて”いた。
「今日も、お部屋にいらっしゃいます」
侍女がそう報告し、扉の向こうからは衣擦れの音。
扉から覗くと、いつもの後姿に、横顔。
姉妹たちは、父王の訃報に気を落とし、毎日泣いて、慰めあっているようだという。
重臣は、それ以上を疑わなかった。
――最初は。
また、王の葬儀の準備については、王妃が涙を抑えながら、頑なに、延期を申し出ていた。
「知らせのみで、亡くなった証拠が無いのでは、信じられません。
国民たちも動揺するはず。まだ、気持ちが整理できません」
イライラしながらも、それを隠して、どうにか丸め込もうと日々画策していた。
◇
違和感を感じたのは、些細なことからだった。
「……お茶の用意が、まだか?」
重臣の問いに、侍従が一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「本日は……まだ、とのことです」
「“まだ”?」
王妃と王女たちは、決まった時刻に必ずお茶をしていた。
午後三時。
それは、政務よりも、儀礼よりも、何よりも重視していたはずである。
「昨日も確か、午後のお茶が……無かった」
重臣は、静かに目を細めた。
◇
お茶の回数は、確実に減っていた。
午後三時の鐘が鳴っても、香りは漂わない。
食器の音も、語らう声も、ない。
最初は、気落ちしてそれさえもする気になれないのかと思っていたが……。
「……やられたか?」
重臣は、低く呟いた。
「あの姉妹が……
お茶を省くなど、ありえん」
むしろこんな時こそ、元気を出そうとお茶をするはずではないか。
重臣は確信した。
中身が違う。
姿形は似せられても、
日々の癖までは、真似できない。
◇
「封印の間へ行く」
重臣は、声を低く命じた。
地下倉庫奥の、封印の間。普段は固く閉じられているが、今は重臣の手にある非常時の権限で、開けることができるようになっていた。
その封印の間の中にあると言われる、王家の印。
それが無ければ、王の代わりになることはできず、すべては意味を失う。
ごく少数の部下を連れて部屋に入る。
「……何もありません。台座が、空です」
重臣は、自らも何度も確かめ、部下にも周囲をくまなく検めさせた後、ゆっくりと息を吐いた。
「図られた……王妃め」
最初は、侍女の変装で誤魔化せていた。
だが――
午後三時のお茶をしない、王女四姉妹は、存在しない。
もっと早く、気付くべきだった。
「追え」
重臣は、冷たく命じた。
「王妃に気づかれないよう、わしの私兵団に命じて、王女たちを追え。
印を持つ“本物”をな」
こうして、追っ手は放たれた。




