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勇者の剣、またまた返品します。

 小さな精霊たちが、今日も楽しそうに遊んでいます。

勇者様が三度出発されてからというもの、私は今度こそ退屈で平和な日々を取り戻しました。まったく精霊騒がせな人です。まぁまぁ今度こそ大丈夫でしょうけど。


 何せたたでさえ最強完璧だった剣に、威力調整機能だけでなく方々に配慮して輝きも調整しましたから。過去に類を見ない至高の剣になったこと請け合いです。

流石にもう直すところはないでしょう。次に勇者様が帰っていらしたときは、勝利の角笛を吹き鳴らすときに違いありません。


 ああ、早く私の剣が打ち立てた数々の武功を聞きたい!

そしてその功績の何%かは私のお陰! って言いたい。

勇者様、なるはやで魔王を倒して帰ってきてくれないかしら。わくわく。


 今日も今日とてそんなことを考えていると、森の入り口の方から侵入者の気配がありました。当然のようにアポイントはありません。この感じはもしかして……。


「勇者様!」

やっぱり勇者様でした! 腰には相変わらず私の剣を備えています。


「勇者様、お戻りになったのですね!」


「……。」


「今度こそ、今度こそ魔王を討伐できたのですよね?」


「……。」


「いや、本当に待ちわびましたよ。それで、私の作った剣はどのような戦果を上げたのですか? 魔王にとどめを刺したのは私の剣でしたか?」


「……。」


「ああ、勇者様のご帰還だというのに、もっと盛大にお祝いしないといけませんよね!?」


「……。」


 勇者様は黙っています。冒険を経てやっぱりシャイになられたのかしら。いや、それとも私がはしゃぎすきたのかしら。もう私ったらはしたない。


「すみません1人で盛り上がってしまって。もてなしの準備をしますから、ゆっくりお話聞かせてくださいね。」


「精霊さん。」


「はい!」


「魔王は、まだ討伐できていません。」


「え?」


「それどころかまだ魔王の幹部すら一体も倒せていません。」


「え?」


「魔王城への道のりを考えるとまだ四分の一にも到達してません。」


「え?」


 私は困惑しました。ええ、またまた結構時間が経ったはずなのに、全然進んでないじゃん……と。いやいや史上最強の剣があるにも関わらず魔王の幹部の下にすらたどり着いていないなんて、宝の持ち腐れじゃないですか!


「そ、それで、今度はなんの用でしょうか……?」


「はい。この剣を、返品したいと思います。」



「え。」



 え??????

なんで????????

最強の剣ですよ? 威力も威光も適切に調整できるようになった最強の剣ですよ? これ以上文句の付け所あります???

いやそもそもあなた最強の剣を持ってなおその進度なのに、その剣返してどうするんですか?

反発係数ぶち上げた金属バット使ってようやくレギュラー級のあなたが、ただの木製バット握って打席に立ってどうするんですか……と。


「ど、どうしてでしょうか勇者様! 我ながらその剣は最強かと思いますが。」


「そうですね。」


「その上二度の改良を重ねてもう文句なしの性能かと思うのですが!」


「この剣、一振りごとに広範囲高威力の衝撃波を放ちますよね。」


「そうです! 今王都の民に人気のゲーム『ゼ●ダの伝説』に出てくるマスターソードから着想を得ました!」


「しかも攻撃中にえげつない勢いの炎纏ってますし攻撃後の残身まですごい火吹いてますよね?」


「そうです! 今王都の民に人気のマンガ『鬼●の刃』に出てくる日輪刀から着想を得ました!」


「めちゃくちゃパクりますね。」


「精霊はトレンドに敏感です。」


「まぁ他の作品の真似なのは別にいいんです。それでこれらの効果についてなんですけどね。」


「は、はい。」


「これなくしてほしいんですよね。」


「なんでですか!?」


「確かにこれらの効果はこの剣の効果を底上げしているとは思います。」


「そうですよ! 単体攻撃より範囲攻撃が強いのは世の常です! それにかっこいいですし。威力が上がってるとわかっているなら、一体何の文句があるっていうんですか!」


「邪魔なんですよね。」


「え?」


「他のパーティーメンバーにとってみると、これらのエフェクトが戦闘の邪魔なんですよね。」


「他の皆さん……ですか?」


「そうです。パーティーには勇者である以外にもメンバーがいます。例えば戦士。彼は物理の近接攻撃を得意としています。当然戦闘中は前線に立って魔物と戦うことになるわけですが、その際にも私は衝撃波を放ち炎をまき散らしながら戦うわけです。これが向こうにとってみるとクッソ邪魔なんですよね。」


「近接攻撃なら勇者様がやればよくないですか?」


「確かにロールはかぶってますし私の方が上位互換っぽいですけど彼もパーティーの一員ですし、そう簡単にリストラはできません。彼のことも尊重したいと思っています。」


「なんか嫌な側面ですね。」


「それと、この炎の演出が邪魔で後方支援を担当する魔術師や僧侶が戦況を全然把握できないんですよね。二人とも状況がわからず迂闊に手を出せないで立ち尽くす様子をよく見ます。」


「で、でもその分勇者様の力は高まります! 他のメンバーのことは気にせず、全部あなた一人でやればよくないですか?」


「そんなことを続けていると、他の仲間たちはパーティーを離れてしまいますよ。」


「それならそれでもいいじゃないですか! その剣があればあなた一人でも十分に戦えます!」


「一人で長い旅を続けて、もし私が間違った方向へ進んでしまったらどうするんですか?」


「間違った方向? 勇者様には魔法の地図が配布されているはずでは……。」


「そういう方位の話じゃありません。在り方の話です。」


「在り方……ですか?」


「そうです。それに、私一人では倒せない敵がでてきたらどうするんですか?」


「そ、そんな敵いるはずありません! その剣は最強です、威力調整さえしなければ、その猛攻に耐えられる敵なんて……。」


「そりゃ今はそんなに強い魔物もいませんしこの剣一つで全員粉砕できますけど、これから続く冒険の中では、一癖も二癖もある技や特性を持った魔物が出てくる可能性は高いです。」


「ま、まぁそうですね。」


「例えば私が催眠の魔法にかけられたらどうします? 私一人、あるいは私のワンマンチームでやっていると、一気に窮地に陥ります。」


「……。」


「例えば特定の攻撃を吸収する敵が出てきたらどうします? もしこの剣が効かない敵が出てきたとき、一人で戦っている、あるいは他のメンバーが手をだせないようですと全滅につながりかねません。」


「……。」


「それこそ魔王の幹部のような強力な力を持つ魔物相手だと、一つの綻びが敗北に直結しかねません。そういう敵に直面する前に、この問題を無視するわけにはいきません。」


「た、確かにそうですね。」


「巷では、人生は自分の足で歩くものだからといって他者との連携を軽視する一匹オオカミのような人を度々見られます。しかし、その道の途中で底なし沼に足を突っ込んでしまったら、だれがあなたを引き上げるのかという話です。長い人生の中では、どんなに優秀な人でも時々道を踏み外します。その時、他者との関係を軽視した人は、正しい道に戻るのが難しくなってしまいます。」


「急になんの話ですか?」


「さっき言った在り方の話です。私が正しい勇者であり続けるためにも、私の近くで、時には否定的な意見もぶつけてくれるような仲間は必要なんです。」


「そ、そういうもんですか。」


「そういうもんです。魔王討伐はチーム戦です。チームで何かを成すときは、個人最適と全体最適の違いを認識しなければいけません。」


「なるほど……?」


「この剣の追加効果は個人最適であって全体最適ではない、という場面がこれからたくさん訪れます。チーム戦である以上、全体最適に目を向けなければ確かな勝利は得られないんですよ。」


「なるほど……。」


「ですから、この剣を返品しようと思います。」


「そ、そんな……。」


「しかし、言ってもこの剣は最強です。できればこれで魔王を倒したいと思っています。」


「わ、私もそうしてほしいと強く強く強く思っています!」


「ですから、修正をしていただきたいんですよ。」


「どう修正すればいいですか?」


「衝撃波及び炎のエフェクトをもう少し抑える、あるいはオンオフを切り替えられるようにしてほしいんです。」


「むむむ……。」


「とにかく、これまでなら邪魔になりそうな場面でも仲間をしっかり立てられるようにしてほしいんです。」


「……わかりました。しばらく待っていただけますか?」


「ありがとうございます。お手数おかけします。」


 その日からしばらく、私は剣のアップデートに取り組みました。

そして苦労の末、エフェクトの微妙な縮小とオンオフ機能を加えた、勇者の剣ver.4が完成したのです!



「勇者様、完成しました。」


「ありがとうございます。これでパーティー一同、より快適に旅を続けられることかと思います。」


「頑張ってくださいね、応援してますから。どうか魔王を打倒してこの世界に平和をもたらしてください。そしてできればその剣で魔王にとどめを刺してその戦果を聞かせてくださいね。」


 こうして勇者様は旅立っていかれました。

私もまだまだ未熟で、世間知らずでした。精霊の長失格です。


 次に勇者様がいらすときは、今度こそ本当に勝利の報告であることを祈ります――


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