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ルージュ

作者: 命野糸水

 朝目が覚めると隣にいるはずの嫁がいなかった。いつも私が起きる時隣の布団には嫁が眠っている。いつも私が早く起き、顔を洗ったりコーヒーを飲むためにお湯を沸かしたりしていると起きてくる。それなのに今日は隣にある布団は空だった。


 今日は珍しく私より早く起きたのだろう。そう思ったが、それにしては静かだ。物音が聞こえない。まるで私以外誰もいないような、そんな感じだ。


 私は起き上がりいつものように洗面所に向かった。洗面所の電気をつけた。蛇口を捻り水を出し手のひらに水を溜めて一気に顔にかける。その動作を3回ほど繰り返して鏡を見た時、私は動きが止まってしまった。鏡に赤い何かで文字が書かれていた。赤色の文字から私は一瞬何かのダイイングメッセージではないかと思ってしまったが、少し冷静になり書かれている文字を見るとそうではなかった。


「田舎に帰ります。探さないでください。連絡も取らないでください。離婚届はリビングの机の上にあります」


再び動きが止まってしまった。せっかく冷静になったのに、その冷静さも失ってしまった。


 まずいことになった。どうやらキャバレーの女の子との浮気がバレたらしい。どこからバレたのだろうか。いや、今はとそれどころではない。まずは嫁に連絡しないと。連絡は取らないでと書いてあるけど、取るに決まってる。


 私は再び寝室に戻り布団付近にある携帯から嫁に連絡した。しかし嫁は応答しなかった。再びかけたがやはり応答しない。


 私は連絡を取ることを諦めてリビングに向かった。そこには鏡の文字のとおり記入済みの離婚届が書いてあった。ご丁寧にその隣にはキャバレーの女の子とホテルに行った時に撮ったであろう写真もあった。これは言い訳できない証拠だ。


 私は何もかも諦め再び洗面所に向かった。なぜかは分からないが、顔を洗えば夢から覚めるのではないかと思った。私はまだ夢の中、現実にはまだいない。


 私は再び蛇口を捻り水を顔にかけた。近くにあったタオルで顔を拭き鏡を見たが文字は書かれたままだった。


私はなんとなく鏡に書かれている文字を触った。触って分かったことがあった。この文字は嫁が普段使っている口紅で書かれていた。口紅はルージュともいう。口紅で書かれた伝言。ルージュの伝言ってユーミンかよ。


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