姉の謎 4
高校生活は、退屈と隣り合わせだ。
誰かの悩みも、すぐに解決できるような単純なものばかりで、「事件」と呼べるような出来事はそうそう起こらない。
――少なくとも、相談部の活動が本当に必要とされる場面なんて、ほとんどないと思っていた。
でも、あの日。
7月のある放課後、一本の相談が私たちのもとへ舞い込んだ。
「姉の様子が変なんです」
そんな一言から始まった話は、やがて不可解な“失踪”、不自然な服装、曖昧な動機をはらんだ奇妙な謎へと姿を変えていく。
謎解きは、ただの妄想か、それとも真実か。
意味のないことをさせてごめん――そう言った彼女の言葉の裏に隠されていた、本当の目的とは?
これは、小さな日常に潜む、大きな仕掛けを解き明かす、
ちょっと不思議で、ちょっと賢い、高校生たちの“放課後探偵”物語。
「まず、なぜ気が付いたのか。それはあまりにも内容が薄かったからです。」
「私たちは横田さんから姉が怪しいと相談を受けて、張り込みをするために図書館の向かいにある喫茶店に行きました。そして、その喫茶店で見たのは白髪の女性と黒髪の横田さんのお姉さんでした。二人は図書館に入っていき、白髪の人だけが出て行き、お姉さんは出てこなかった。結局、変装して出ていっただけだったんですけどね。」
「そしてここまで大変なことをして出てきた動機が『妹を困らせたかったから』。これは私としては納得できませんでした。困っているとお姉さんから言われました。『意味のないことをさせてごめんね』と。」
「つまり、この相談の目的が『姉を探りたい』のではなく、『意味のないことをさせて』この私をこの部室から動かしたいのだとしたら?」
前田と一緒にいる横田さんが気まずそうな顔をする。
「そう考えたら、綺麗に今までのことが消化できました。」
「相原さんが途中で抜けたこと、横田さんがお姉さんはミステリー好きだと言ったこと。張り込むなら図書館の中でいいのに、わざわざ外で張り込んだこと。謎を解いた後、動機が分からずにいたら電話して聞けばいいと言ってくれたこと。」
「これは後付けですが、相原さんは抜けた後、近くで待機してほかのメンバーとそのまま私の部室の鍵を取りに行ったんじゃないんですか?」
「そこは白髪の人になってたとかじゃないんだ?」
前田がツッコむ。
「仮に着替えているとしても、あの服を着るのにも持ってくるのにも時間がかかるし、しかも下に着る物も用意しないといけない。そんな時間はないと言っていいと思います。」
「そして横田さんが言った『お姉さんはミステリー好き』。これは私が図書館での推理に躓くと思っての発言と考えていいでしょう。結果的に役に立ちましたしね。」
「図書館の外で張り込んだことはある時まで気にも留めていませんでした。その時とは、図書館に二人が入った後のことです。あれだけ真剣に見ていたのに中に入って内容を見ないのは正直気になりました。今となれば、もしかしたらトリックがバレて早めに部室に戻るかもしれないという考えあっての行動だったんですね。」
「そして最後の一つ。『電話して聞けばいい』という言葉。失礼ですが、そんなことができるなら初めから相談部に相談する必要はないんですよね。」
「以上のことを踏まえて、私は『私をどうにかしてこの部室から動かしたい』という結論に至りました。どうですか? 横田さん? 相原さん?」
「ごめんなさい!」
「私たち、この教室に面白い漫画があるって聞いて。でも部員は一人だからいつ廃部になって教室を調べられて漫画を捨てられるかわからないのでこの計画を思いついて実行したんです」
横田さんが頭を下げる。相原さんと他の数人もそれに続いて頭を下げた。
「探し物くらいだったら、言ってくれたら入ってもらって大丈夫だったんですけどね。」
私が言うと、横田さんたちはモジモジして見つけたものを私に見せようとする。
私はそういえばと思いついて前田に質問する。
「ちなみに前にこの部室を使っていたのは何部なの?」
「漫画研究部だよ。部員は多かったけど、文化祭で何とも言えない本を出して廃部になったみたいだけどね。」
その言葉を聞きながら、私は渡された漫画を見てこう言った。
「たしかにこれは廃部になるわね。」
その後も横田さんたちはずっと部室を出るまで謝っていた。正直気にしていないので全然大丈夫だ。
部室を閉めて、学校からの帰り道に前田から質問される。
「横田さんたちはなんで漫画がここにあることを知っていたんだろうね?」
「教えてくれたのは、多分横田さんのお姉さんだと思うよ。漫画の内容がミステリー入ってたし。」
私の回答に前田は納得したみたいで、笑顔で「そっか」と一言。
「今日はとっても助かったから、前田にジュースでも何でもおごるよ。」
「本当! 嬉しい!」
前田は飛んで喜び、その言葉はもう完全に夜となった街へ消えていった。
読んでいただき、ありがとうございました!