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相談部  作者: あかさあかさ
相談
4/5

姉の謎 3

探偵なんて、大げさなものじゃない。

けれど、“謎”があるなら、考えずにはいられない。

たとえそれが、誰かのいたずらでも、ほんの悪ふざけでも。

私は、たまたまそこにいただけ。

けれど、彼女たちは私に「謎を解いてほしい」と言った。

なら、考えるしかないじゃない。

「謎は解けた」

私のその一言に、三人の間に静かな沈黙が流れる。

「図書館で話すのはあれだから、外に出ましょうか」

そう提案して外に出ると、真っ先に前田が詰め寄ってきた。

「早く聞かせて! その妄想!」

「わかったから、ちょっと離れて」

ワクワクしている前田をなだめつつ、私は解説を始める。

「まず前田に聞きたいんだけど、さっきの白髪の女性について何か思わなかった?」

「う〜ん……暑そうだなって」

「そう! この時期にしては暑そうな服装だったの」

前田は自分の答えが当たっていたのが嬉しかったのか、少し得意げな顔になっていた。

「一方で、お姉さんの服装はこの時期にちょうどいい格好。だから私の推理はこう」

「まず二人は図書館に入る。そして――トイレかどこかで、服を交換する」

「ちょっと待ってください! 服を交換したって、その服をどこにしまうんです? カバンもなかったし、隠す場所なんて……」

横田さんがすかさず疑問を投げかける。

「いいえ、あったんです。それも“服装”の中に」

私は続ける。

「前田が言ったように、白髪の女性は暑そうな長袖にロングスカート、しかもデニムジャケットのボタンまできっちり留めていた。重ね着していてもまったく不自然じゃない格好だったのよ」

「つまり、黒髪の“お姉さん”が元々着ていた派手な服の上に、白髪の人の服をそのまま重ねていたの。だから中では目立たなかった。そして髪色は、ウィッグだったと考えるのが自然。外すだけで済むし、カバンにしまえる」

「白髪の女性の方も、下に服を着ていたなら、出てくるときに格好も髪型も変わっていて、私たちにはわからなかった。そうやって、誰にも気づかれずに出て行ったんです」

前田と横田さんが納得したように頷く。

「次に動機……といきたいところだけど、正直そこまではわからない。情報が少なすぎる」

そう言った瞬間、横田さんがスマホを取り出して操作し始めた。

「じゃあ、聞いちゃえばいいんですよ!」

驚いて前田を見ると、前田も私と同じように困惑した顔をしていた。

どうやら電話は繋がったようで、横田さんが一通り説明した後、スマホを私の方に差し出した。

「お姉ちゃんが話したいって」


私はスマホを受け取って耳にあてる。

「もしもし」

「おお、君が私の謎を解いた探偵さん? いや〜、お見事!」

「……ありがとうございます」

横目で前田を見ると、彼女は少し怪訝そうな顔をしていた。

「ところで、お姉さんがこんなことをした動機って、何だったんですか?」

「うーん、理由はね、妹をちょっと困らせたかったから。あと、一緒にいた白髪の人は友達」

……正直、「なるほど」と納得できる理由ではなかった。でも、そんな私の心情を察したのか、彼女は続けてこう言った。

「意味のないことをさせてごめんね」

「意味のないこと? それって、どういう意味ですか?」

「さあ? もう一度、“すべて”考えてみるといいよ」


そう言って、電話は切られた。

私は前田にお姉さんの言っていた動機を説明したが、前田も納得していない様子だった。

──「意味のないこと」

──「すべて考え直す」

その言葉が、私の頭の中で引っかかって離れない。

意味のないこと。この言葉に私は引っかかった。妹を困らせるために他人を巻き込んでしまったことに謝るのなら、私のわがままに――とかもっと他の表現ができるはずだ。

それなのに何故、『意味のないこと』と言ったのか。 そしてもう一度全て考える?しかも全て。これはどういうことなのか。

頭の中で横田さんの言葉が反芻する。 姉はミステリー好き。

もし、“相談そのもの”が意味のないことだったとしたら?

「前田! 横田さん! 一緒に来て!」

私はそう叫んで、図書館を飛び出す。向かう先は――学校。


学校に戻ると、グラウンドはもう真っ暗で、体育館も灯りが消えていた。部活も完全に終わったようだ。

でも、目指す場所の窓には、まだ明かりが灯っていた。

「間に合った……」

そう呟いて、私は下駄箱で靴を脱ぎ、上履きを履かずにそのまま階段を駆け上がる。

着いたのは、もう使われていない旧・視聴覚室。つまり、相談部の部室だ。

中から、声が聞こえる。

「ねえ! これじゃない!?」

「それよ、それ!」

数人の興奮したような歓声。でも、それもここまでだ。

「お騒がせ中、失礼します。……私の部室に、何の用ですか?」

扉を開けて入ると、その中に、見覚えのある顔があった。

「やっぱり……相原さん」

相原さんが、バツの悪そうに俯く。

そのとき、後ろから足音が聞こえ、前田と横田さんが追いついてきた。

「なんでわかったの?」

相原さんが、私に尋ねる。

私は静かに答えた。

「……ここからは、私の妄想ですが――」

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