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相談部  作者: あかさあかさ
相談
3/5

姉の謎 2

「姉が変わってしまったんです」

「派手な服を着て、言葉遣いも荒くて……本当に、あの人なんでしょうか?」

ひとつの“違和感”から始まった相談が、やがて小さな張り込みへと発展し、

誰かの正体、誰かの嘘、そして誰かの“すり替えられた時間”へと繋がっていく。

部活の目的は「悩み相談」。

でも時々、それは「真実の断片」を拾い集める作業でもある。

このお話は、夏の入口にひっそり開かれた、ひとつの謎と、ひとつの気づきの物語。

──たぶん、それが相談部にとっての“初めての本当の活動”だったのかもしれない。

『喫茶店みらい』に着いた。

店内は洋風で、ところどころに店長の趣味であろう小物が置かれている。客は見たところ少ないようで、目的の席は空いていた。

この喫茶店は図書館の向かい側にある。一つしか出入口がないこの図書館を張り込むには最適なのだ。

「私、窓際がいい!」

前田が私の意見を聞かずに、さっさと座った。仕方なく私は前田の隣に座り、横田さんは向かい側に座った。

スマホの時計を見ると16時55分。約束の17時が近づいている。その前に、どうしても確認しておきたいことがある。

「それじゃあ、お姉さんの髪色や身長などはわから――」

「ああっ!あの人です!」

横田さんが大きな声で叫び、図書館の入口を指差した。私と前田は慌ててそちらを見る。

ちょうど二人の女性が図書館に入ろうとしていた。一人はショートの白髪で、ボタンをきちんと留めたデニムジャケットにロングスカート、肩掛けバッグを持っている。もう一人はショートの黒髪で、派手なTシャツにミニスカート。手ぶらのようだった。

横田さんの言っていた特徴を当てはめるなら、黒髪のほうだろう。

「近くにいる白髪の女性は知り合い?」

「いえ、見たことないです。たぶん、あの人と約束していたんでしょうね」

横田さんが真剣な口調で言った。

「約束だとしても、図書館に行くだけなのにずいぶん派手ね」

私の個人的な感想だったが、前田がすぐに反論する。

「それは違うよ。女の子はいつだっておしゃれするものだもん」

そういうものなのだろうか?

横田さんに目を向けると、彼女も私を見ていた。

「どうします? 図書館に行きますか?」

横田さんに問いかけると、

「いえ、待ってみましょう。私、この喫茶店気に入っちゃって。ダメですか?」

「全然大丈夫よ」

さっきまでの真剣さが嘘みたいだ。

相手が男性ではないと分かって、少し安心したのだろうか。

「黙って入口見ててもつまんないよ。おしゃべりでもしよ!」

前田が最近あったことを話し始め、そこから談笑が始まった。

それから少し経ってスマホを見ると、17時55分になっていた。

「外で待ちましょうか。長居すると迷惑になりますし」

「そうですね、出ましょう」

私たちは席を立ち、会計を済ませて外に出た。

すると、図書館から白髪の女性が出てきた。

近くで見ると、服装は派手なはずなのに、妙に落ち着いた雰囲気だった。彼女は左に曲がり、そのまま去っていった。

「先に帰っちゃったみたいだけど、ケンカでもしちゃったのかな?」

前田が気まずそうに言った。

「わかりませんが、姉ももうすぐ出てくるはずです。それまで待ちましょう」

横田さんはやはり姉のことが気になるようだった。

すぐに出てくると思ったが、18時30分になっても横田さんの姉は現れなかった。

「すぐに出てくると思いましたけど、なかなか出てきませんね」

「いっそのこと、中に入っちゃう?」

私の提案に、前田がすぐ反応した。その言葉に横田さんは少し考えてから言った。

「そうですね。待っていてもいつ出てくるかわかりませんし、探してみましょう」

私たちは図書館に入り、利用者が入れる場所を手分けして探した。だが、横田さんの姉を見つけることはできなかった。

一度情報を整理するために、みんなで入口に集まる。

「お姉ちゃん、どこに行っちゃったんだろうね?」

「裏門から出て行ったとか?」

前田の疑問に、私はすぐ反論した。

「この図書館には、利用者が使える裏口はないから、それはありえないわ」

「どうしていないんでしょう? 手分けして探している間に出て行ったとか?」

「それはないと思うよ。私、ずっと入口にいたから」

前田が自信満々に言った。前田はこういう時、本当に気が利く。友達が多いのも納得だ。

「ますますわかりません。この図書館に姉の格好をした人はいなかったんですよ?」

横田さんの言葉を、私は心の中で反芻する。

確かに――あの派手な格好をした女性は、中にはいなかった。あの服装なら目立つはずなのに。

「こんなことになるなら、白髪の女性に話でも聞いておけばよかったね」

前田が悔しそうに呟いた。

格好……白髪……そうか。

「前田、入口にいた間に誰か通った?」

前田が困ったような声で答えた。

「数人いたけど、あんな派手な格好の人はいなかったよ」

「わかった。ありがとう」

やはり、前田が来てくれてよかった。

「私の妄想ですが――謎は、解けました」

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