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相談部  作者: あかさあかさ
相談
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姉の謎

放課後の旧視聴覚室──誰も来ない静かな教室に、扇風機の音と、ぼんやりとした午後の日差しが満ちている。そんな場所に、一つだけある部活が「存在している」と言えるのかどうかは、正直あやしい。

名前は相談部あいだんぶ。部員はたったの一人、私だけ。

ときどき、クラスメイトの前田が暇つぶしにやってくるくらいで、部としての活動は、ほとんど存在しない。学校の誰もが忘れかけているこの部室で、今日も私はのんびりと、部活とも呼べない放課後を過ごしていた。

はじまりは、ごく普通の「家族の悩み相談」だったはずなのに──

夏になったと感じはじめた7月のある日の放課後、私は前田と相談部あいだんぶの教室で暇をつぶしていた。

「本当、相談部って暇なんだね」

前田が今日の数学の宿題を解きながら私に言った。

「うるさいわね。今日はたまたま来ないだけよ」

「はいはい」

前田が私のウソを見抜いて、微笑む。

「夏子は宿題終わったの?」

「そんなもの、授業中に少しやっておくのがいいの」

「そんなことしてるからテストの点数低いんだよ」

前田が呆れた顔で首を振る。前田はバカそうな顔をしている。だが意外と、全クラスで20位くらいをキープしているのは本当に驚きだ。ちなみに私は中の下。

前田に煽られてムッとした私は、席を立って部室の窓際へ向かった。窓の外を見ると、隣の校舎の2階で、たくさんの段ボールを持った生徒たちが教室から出て行くところだった。どこに行っているのだろう?

「あの子たちは、部室の引っ越ししてるんだよ」

いつの間にか隣にいた前田が言った。

「部室の引っ越しなんて大変ね」

「さあ? 相談部も他人事じゃないと思うけど?」

「なにそれ、部室が変わったり、なくなるって思ってるの?」

「だって、部員一人でしょ? 部室があること自体、奇跡レベルだと思うよ。元々の部室は司書室だったらしいじゃん。夏子がこの学校に来る数年前に、この旧視聴覚室に引っ越したみたいだけど」

視聴覚室という名前をしていても、今は教室の真ん中にくっつけられた机が四つと、教室の後ろの方にある、探る気にもなれないホコリまみれのシーツをかぶった棚くらいしかない。

でも、引っ越していたのは初耳だ。この部室の相談部の歴史は、案外短かったらしい。

そう思った時、部室の扉から音がした。

コンコンコン。来客だ。前田は急いで宿題を片付け、私の横に座る。

「どうぞ!」

私は扉に向かって叫ぶ。

「失礼します」

この声とともに扉が開くと、そこにいたのは前田のクラスメイトの横田さんと相原さんだった。ちなみに前田と私は、学年は同じでも別のクラスだ。

「あれ? こんな部活になんか用事?」

前田が軽く尋ねる。

「はい。実は姉についての相談があって……」

横田さんは少し恥ずかしそうにうつむいている。外部の人間に家族のことを相談するのは、初めてなのだろう。逆に相原さんは付き添いなのか、緊張している様子もなく、自然に部室を見渡している。

「座ってもらって大丈夫ですよ。あと、これもどうぞ!」

私は少ない部費で買ったアメを机の下から出す。

「ありがとうございます!」

横田さんは嬉しそうにアメを一つ手に取り、包装を解いて口の中に入れた。

「いきなりですが、概要を聞かせてもらえますか?」

私がそう言うと、横田さんは話し始めた。

「最近、姉が東京から帰省してきたんです。昔は静かで、服にもこだわりがなくて、店頭にあるマネキンの服をそのまま買うような人でした」

「ですが、帰省した姉は言葉遣いが荒くなり、服は露出が多かったり、とにかく派手なんです」

横田さんは苦しそうな表情でそう言った。

「それはただ、東京に行って価値観が変わったんじゃないの?」

私が意見を言ってみると、横田さんは続ける。

「ええ、私も最初はそう思ったんです。でも、静かだった頃は友達と一緒に帰るところや、遊びに行ったりした話を聞いたことも見たこともなかったんです」

「しかも、今日の夕方の約束のために、着ていく服を朝に選んでいたんです」

「これは何かあると思いませんか? それで、できれば一緒に張り込みをしてほしいのです」

横田さんは座ったまま手を机に置き、頭を下げた。

めんどくさいことになりそうな案件だ……。正直、断ってもいいかもしれないが、私は久しぶりの部活で心がワクワクしている。つまり、結論は――

「わかりました。では、具体的に何時から約束があるとかって、わかりますか?」

横田さんは自分の腕時計を確認して、こう言った。

「17時からです」

私は教室の時計を見る。時刻は16時37分だった。

「時間がない! 急がないと! 場所はどこかわかりますか?」

横田さんは一瞬何かを考えるような顔をした後に、

「学校の近くの図書館です」

と言った。

「わかりました。張り込みなら、図書館の入り口が見える『みらい』っていう喫茶店が向いてます。そこで待ってみることにしましょうか」

私はカバンに急いで荷物を詰めながら、ふと気づく。

「前田? あなたも行く?」

前田は笑顔で頷いた。

部室を閉め、職員室にみんなで鍵を返しに行く途中、相原さんが

「この後用事あるから、ここで抜けるね」

と、そのまま下駄箱の方へ歩いて行った。

職員室に着いて鍵を返す。私の学校では、鍵を返すときや借りるときは名簿に名前を書く必要がある。

でも、適当に書いても誰も見ないので、いつも書くときの名前は前田にしている。

みんなで足早に下駄箱に向かっているとき、突然横田さんがこう言った。

「私の姉は、ミステリー好きなんです」

初めまして、前回のあとがきの存在を知らなかった者です。正直ミステリーについて考えることも読むことも全然初心者なので、温かい目で見守ってもらえたら嬉しいです!

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