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異世界転移したら全スキルが“家庭科”だったが、なぜか魔王を手料理で落とした

作者: たまユウ

展開早めのゆるふわ設定です。

なんでも許せる方向けです。

俺の名前は神野悠真かみのゆうま。ただの高校三年生だった——昨日までは。



「え? ちょっと待って、俺なんで光の中にいるの? これって、もしかして……」



 そう、よくある異世界転移だ。間違いない。異様に荘厳な光、謎の浮遊感、そして——

 


「おお、勇者様よ! この世界へようこそ!」


 

 ね? 異世界でしょ。というかお約束過ぎて逆に笑える。……いや、笑えない。


「えーと……俺、なんで呼ばれたんですか?」


「魔王討伐のためじゃ。お主には“神より授かりしスキル”があるはずじゃよ」


「マジかよ……ちょっと待って、確認してみる。ステータスオープン!」


 


 俺は手をかざして、なんとなくのノリで言ってみた。が、予想外の表示が浮かび上がる。


 


【神野悠真】

スキル:裁縫LV10、料理LV10、洗濯LV10、掃除LV10、家計管理LV10、育児LV1

 


「えっ、ちょ、待って……家庭科フルセット……?」


「……これは……?」


 


 勇者召喚したら、現れたのは主夫力特化型の男子高校生だった。場が静まり返る。


 


「いやいやいや、バグってません? 戦闘スキルゼロなんですけど!」


「……い、いや、これはこれで……役に立つかもしれぬ……」


 

 神官のおじいちゃんが目を泳がせながら言った。


 

「例えば?」


「王様の……食事係、とか……」


「それ完全に家政婦ポジじゃん!」


 

 がっくりとうなだれる俺。そのとき——


 


「面白い。お前、その料理スキル、私に見せてみろ」


 


 玉座の奥から聞こえた声に、空気が凍った。


 


「ま、魔王……!なぜここに……!?」


 


 黒いドレスに紅い瞳の美女が、ゆったりと歩み寄ってきた。まさかの魔王、来訪。


 


「私は退屈していた。討伐しに来るというから、どんな戦士かと思えば……家政夫か」


「……あの、料理はできますけど、戦闘は無理です」


「ふん。ならば、私の城で料理を作ってみろ。それで生きるか死ぬか、決めてやる」


「えっ……今、試食イベント発生した……?」



 こうして俺は、なぜか魔王の城に連れていかれ、命懸けでお弁当を作るハメになった——。




―・―・―




というわけで、俺は魔王の城の厨房にいる。


 


「……なんでこうなった……」


 


 目の前には、大理石のカウンター、銅製の鍋、ずらりと並ぶ異世界食材。トカゲみたいな肉、青く光るキノコ、そして何かの眼球っぽい物体——。



「材料のクセが強すぎる!!」



 俺が叫ぶと、後ろからくすくすと笑い声がした。


「ふふ。面白い男だな、お前は」


 

 振り向けば、そこにいるのは魔王。名前はリリスと言うらしい。見た目は美人、性格は女王様。怖い。


 

「で、お前。本当に料理で私を満足させられるのか?」


「満足どころか、感動させてみせますよ。高校三年間、家庭科はオール満点ですから」


「その自信、気に入った。では……せいぜい生き延びる料理を作ってみせよ」


 半分、自暴自棄になりながらも強がってみた。とにかくやるしかないな。

 命がかかってるだけにプレッシャーも半端ない。だが、こういうときこそ冷静に——。



「よし。まずは“とりあえず炒める”の精神で行くか……!」


 

 俺は未知の食材を手に取り、匂いをかぎ、柔らかさを確認しながら、調理開始。


 

数刻後…



「——魔王様、オリジナル料理第一号。“グリル・トカゲステーキ 〜甘辛タレ仕立て〜”です!」



 皿に乗せた肉は、表面がカリッと香ばしく、中はジューシー。そして、タレは甘辛く、どこか懐かしい照り焼き風。


 

「……ふむ。では、いただこう」



 リリスが一口食べた瞬間——


「…………っ!」



 表情が固まる。無言。いや、まさか……まずかったか!? 死ぬのか俺!?!?


「こ、これ……なにこれ……なにこの、なにこの味……」


 魔王が小刻みに震える。次の瞬間——



「おかわりはあるか?」



「えっ!? あ、あります!! 大盛りで!!」



 満面の笑み。さっきまでの緊張はどこへやら。厨房が一気に和む。



「お前、料理の才能……いや、魔力でも宿ってるのか? これは……反則だろ……」


「いえ、家庭科スキルの賜物です」



 リリスは皿を抱えて、至福の顔でステーキを平らげていった。



 ……こうして俺は、魔王を料理で“落とした”。



 だが、ここからが地獄の始まりだった——。



「今日からお前は私専属の料理人だ。逃げたら……分かってるな?」


「ひぃっ……!」


 

 俺は、異世界で魔王の胃袋を掴んだ男になってしまったのである。




―・―・―




俺が魔王の城で、せっせと弁当を作っていたある日。


 


「今日は“揚げ物三種盛りランチBOX”です。異世界風コロッケ・チーズinトカゲカツ・スパイス鶏天」


「よし、いただこう……うむ、完璧。サクサクの音が、鼓膜に幸せを届けてくる……」


「鼓膜までいく!? 魔王様、語彙がオーバーキルです」



 そんな平和な(?)魔王城に、ついに——人間の勇者パーティが突入してきた。


 

「魔王リリス! 貴様の時代は終わりだッ!」


 

 ドカン! と扉を破って現れたのは、黄金の剣を携えた金髪の青年。周囲には、美形の魔法使い、筋肉の騎士、白衣の癒し系僧侶。


 

「うわ……テンプレパーティ来た……」


 

 俺はその場でしゃがみ、割烹着を脱ぎかけた。が、遅かった。



「……ん? 人間?」


 

 勇者が、俺を見て目を細めた。


 

「なぜ人間が魔王の隣に? 貴様、洗脳でもされているのか?」


 

 ……あ、やっぱり言われた。


 

「いや、洗脳とかじゃないんです。俺はただ、料理作ってるだけで」


「料理……?」




 魔王リリスがすくっと立ち上がった。




「彼は神野悠真。我が軍の士気を支える料理人であり、腹心である」


「腹心!?」


 

 勇者たちがざわつく。まずい、誤解を解かないとやばいことになりそうだ。



「まさか、人間が魔王に魂を売ったというのか……!」


「違いますってば!」



 俺が必死に否定しようとしたとき——



「ふむ。ならば、悠真よ。言い訳は料理で聞こうか」


「はい!?」


 リリスが優雅に手を掲げる。

 


「勇者よ、我が料理人の“実力”をその舌で確かめるがいい。命は取らぬ……ただし、心はどうかな?」


「なぜ、僕たちが魔王に魂を売った人間の料理なんか食べないといけないのだ!!」


 そりゃあ、ごもっとも。というか魔王に魂売ってないけどね。


「なに、悠真は必死に否定しているのでな。料理人だったら料理に嘘はつけぬだろう?悠真の料理を食べてお主らの答えを出すが良い」



「なにその料理対決!?」


 



 こうして、俺 VS 勇者パーティの胃袋バトルが始まることになった。



俺は厨房に戻り、全力で料理を仕上げていた。



「よし、いくぞ……異世界流・三段構え弁当!」


 

 メニューは以下のとおり:


第一段:「ふわふわ卵焼き with 魔法ハーブ」

第二段:「トカゲの照り焼きピンチョス」

第三段:「白米風パンケーキ&黒蜜スライムのデザート」

 


 豪華三段である。これが俺の“戦い”だ。



 そしてリリスの玉座前。目の前に置かれた弁当箱を見て、勇者パーティのメンバーたちは顔をしかめた。



「……バカにしてるのか? 弁当で戦う気か?」

 


 剣士が言い放つ。が——



「……ん。ちょっといい匂い……」


 

 僧侶(癒し系美少女)の鼻がピクピク動いた。


 


「私、毒見してあげる。リスク管理も聖職者の仕事だから」


「お、おいルナ、やめとけって!」



 しかし彼女はためらうことなく、卵焼きを一口。



「……っ!? なにこれ……ふわっふわ……口の中で魔力が溶けてく……!」


「お、おい!? 本当に大丈夫なのかそれ!?」


 

 魔法使いが焦って止めようとするが——



「……止まらない……やばい……なにこの味……癒しの極致……」




 完全に陥落。



 


「おかわりある……?」


「はい、特盛りです」



 僧侶・ルナ、胃袋陥落。


  


 次に手を伸ばしたのは美形の魔法使いの青年だった。


 


「……ただの料理とは思えん。これは“技”だな。魔術的な何かを感じる……」

 


 トカゲの照り焼きを食べ、一瞬で黙りこむ。



「……やばい。肉の中にタレが染みてる……トカゲじゃなくて高級和牛食ってる気分……」

 



 魔法使い・ジル、陥落。


  


 剣士は最後まで渋っていたが——

 


「くっ……認めるか、こんな……でも……」


 

 もぐっ。——ごくん。


 


「…………戦場メシの概念が……変わった…………」


 


 剣士・ドラン、陥落。


 

 


 残るは勇者・レオンだけ。


 


「フン……俺は食わんぞ。こんなもので誤魔化されると思うな!」


「いや、もう誤魔化されてないけど!? みんなが素で食ってるだけだし!」


 


 俺が言い返すと、勇者は鼻を鳴らす。


 


「その弁当……毒が仕込まれているのかもしれない。魔王の手先が作ったんだろう? 信用できるか!」


 


 ——そのとき。


 


「では、私が食べよう」


 


 リリスがすっと箸を取り、パンケーキを口に運んだ。


 


「……む。ふわ……っ。黒蜜スライム……こんなに優しい甘さがあるとは……」


 


 まさかの魔王による完食→うっとり顔。


 


「今のを見て、まだ言うのか?」


 


 勇者が歯を食いしばる。


 


「……いいだろう。ならば俺も、毒味ついでに食ってやる!」


 


 ぱくっ。


 


「…………っ!」


 


 固まる勇者。


 


 沈黙——10秒。


 


「……な、なんだこれ……俺の知ってるパンケーキじゃない……」


 


 ごくり、とつばを飲み、再び口へ。


 


「この食感……この甘さ……この温度……ッ!!」


 


 気づけば、彼の手は次の段へ、次の段へ。

 


「ちょっと!? レオン、全部食べてるじゃん!?」


 

「お、おかわりは!? 第二弾はあるのか!?」


「勇者さん、落ちるの早いな……」


 


 全員が黙々と食べ続ける中、リリスがふっと笑った。


 


「見たか、神野悠真の実力を。人の心を奪い、軍を癒し、世界を変える“料理”の力を」


 


 勇者レオンが、じっと俺を見つめた。


 


「……なぜ、人間でありながら……魔王の側に?」


 

 俺は少し考えた後、答えた。




「料理に、人間とか魔族とか、関係ないんじゃないですか?」



 レオンは、黙って——もう一口、食べた。







食事が終わったあと、勇者パーティは静かだった。


 


「……信じられない。俺たち、魔王城に来て……敵の料理食って、帰るのか?」


 


 剣士のドランがぽつりとつぶやく。


 


「ていうか、めっちゃ美味しかったよね。もう、国に戻って食べるパン、味しなさそう……」


 


 僧侶のルナが切なげにため息をついた。


 


「神野悠真。貴様の料理……あれは、戦いよりもずっと強いものかもしれん」


 


 勇者レオンが立ち上がり、俺に向き直った。


 


「……だが、それでも俺は王国に帰らねばならん。人間のために、戦いは続く」


「そっか。……でも、また腹が減ったら、来ればいいさ」


 


 俺が笑って言うと、レオンも苦笑した。


 


「ふん、魔王の城に“飯を食いに来る勇者”か……そんなバカな奴、いるかよ。あ、あとこの手紙をあとで読んでくれ」


 


 そう言って、置き手紙を残していくと彼らは去っていった。


 


 


 静かになった玉座の間。魔王リリスが立ち上がり、俺の隣に並ぶ。


 


「……世界は、変わると思うか?」


 


「分からない。でも、料理なら変えられる気がする」


「……ふふっ。お前らしいな」


 


 リリスは小さく笑った。


 


「神野悠真。これからも、私の隣で“飯”を作ってくれ。——世界を変えるために」


「はいよ。魔王様」


 


 


 こうして——


 


 俺は、異世界で“魔王の料理人”として働くことになった。



  


 そして今日も——


 


 魔王の胃袋を掴みながら、世界の未来を考えている。


  


 (……ところで、勇者が残してったこの置き手紙って……)


 


「次は、王国の姫様を連れてくる。彼女にも、お前の料理を食わせてやりたい」

——レオン

 


「……え、姫様が魔王城くるの!?!?」


 


 ——異世界料理バトル、まだまだ終わらない(かもしれない)。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

たまにこういう頭空っぽの作品を描いてみたくなる時があります笑


正直、胃袋対決の流れはちょっと無理やりだったなというところと、後半が駆け足になってしまいましたが、ゆるふわ設定なので大目に見ていただければと思います…!ありがとうございました!

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