第8話 安静です。
「そう…ルシアと申します。お久しぶりです、アルフォンソ様。」
「……」
私の頭はまだ掛布団の上にある。
「昨日、貴方は過労で倒れて運ばれてきましてね。看病でもしないと婚約者のお顔を忘れそうだったものですから。看病していたわけですよ。それでね、朝方ようやく熱が下がったので、私もうとうとしてしまったわけです。」
「え?ああ…そうだったのか…あの…」
「侍女ではございません。貴方は覚えておいでではないかもしれませんが…貴方の婚約者です。」
「あ…ああ、すまない。」
「すまない?すまないとお思いで?」
「え?…ああ。」
「その謝罪は…婚約者に気が付かなかったから?それとも、婚約者に気が付かないほどお会いする機会がなかったから?それとも…」
「……」
「自分の体力を過信して、ろくに寝ないで仕事をした反省?ちゃんと寝ないと、背が伸びませんよ?医師の見立てでは10日間の安静です。」
「え?ああ…」
「寝なさい!」
「……」
「早く!」
もぞもぞと布団に戻るアルフォンス様を確認する。よし。
奪い取られた毛布をもう一度頭からかぶり、私も二度寝することにした。
*****
じーっと僕を見上げてくるルシア。
自分の手を枕代わりにしていたのか、顔に手の後が付いている。前髪の寝ぐせもすごい…瞬きもしないで僕を見上げている。少し怖い。
侍女と間違えて起こしてしまったのを怒っているんだろうか?
それとも…婚約者と侍女の区別もつかなかったことに怒っているんだろうか?
地味なワンピースに一本縛りの髪。毛布をとっても気が付かない可能性すらあった。
気が付いてよかった。途中からだけど。
ちらちらと、護衛騎士と執事に目線を送るが、助けてくれそうにはなかった。それどころか、みんな揃ってそっと僕の部屋を出ていくところだった。ドアが静かに締まる。
「寝なさい!」
とルシアに言われて、しぶしぶ布団に戻る。
10日間の安静だって?そんなに寝れるわけないだろう?
そう思ったが…割とすぐ眠ったらしい。
左わき腹あたりが、猫でももぐりこんだかのように温かい。