第7話 私は実はあなたの婚約者です。
ぼんやりと…しかし、かなり近いところで大きな声がする。うるさいな。
ルシアはかぶっていた毛布を引き寄せて、二度寝の体勢に入った。
「この侍女をつまみ出せ!」
侍女が…何かお部屋で粗相でもしたのかしら。
「二度寝するな!起きろ!」
ガバリと毛布が引きはがされる。え?私?私のことを言っているの?
アルフォンソ様の掛布団の上に頭をのせたまま、ぎぎぎっと頭の向きを変えて怒声の方向を眺める。怒っているな。しかも…侍女と間違えてる。
まあ、そんなもんか。
じーっと怒り顔のアルフォンソ様を眺める。怒っていてもいい男だわ。
私の視線に気が付いたのか、アルフォンソ様が私を見て…ぎょっとした顔をする。
そう。侍女じゃありません。実は気が付かなかったかもしれませんが、貴女の婚約者です。昨晩一晩中熱を出したあなたの看病をしました。でもねえ、今まで3回ぐらいしか会っていないから…気が付かなくても仕方ないと思うけど、それだって私のせいじゃないと思うよ。
そんなことを考えながら、とりあえず怒鳴れるほどは元気になった我が婚約者を眺めた。
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驚いたことにその侍女は、かぶっていた毛布を引き上げて二度寝しようとしていた。ふざけるな!
「二度寝するな!起きろ!」
つまみ出せと言っているのに、護衛騎士も執事も固まったまま動こうとしない。
侍女のかぶっていた毛布を引きはがす。
侍女はようやく目を覚ましたらしく、僕の掛布団の上でゆっくりと首を回して僕の顔を見上げてくる。
げっ……
瞬きもしないで僕を見上げる若草色の瞳……
…ルシア嬢??