番外編 初恋。
「母上!女性を迎えに行くときには何をもっていけばいいでしょうか?ドレスですか?花ですか?やっぱり宝石ですか?」
「ど、どうしたの?いったい誰を迎えに行くつもりなのアルフォンソ。」
フルール国からの客人が、自室に下がったので陛下とつかの間のティ―タイムを取っていたら、ティ―ルームに思いもかけない人が慌てふためいて駆け込んできた。
「まあ、落ち着きなさい。アル」
「え?ああ…父上…ラウラも休暇に入っていまして、誰に聞いていいのかわからなくて…。」
「ルシアの休暇届が出ていたから、それか?すぐ帰ってくるだろう。大体お前はまだ3日も客人の世話がある。先方からの直々のご指名だしな。」
「…マテオでいいじゃないですか。」
「そういうわけにも、なあ。外交問題になるぞ?」
「……」
あら、まあ…そういうことね?
ゆっくりティ―カップをソーサーに戻す。
「まあまあ。ルシアなら宝石もドレスも喜びそうにないわね。アルフォンソは何か聞いていないの?ルシアが何が好き、とか、何か欲しい、とか?いつも一緒にいるんでしょう?」
「え?」
アルはしばらく考え込んでいた。
「…アーモンドの花を見にいきたいって言ってました。あと、オレンジの花。海に沈む夕日も見たいって。」
「あら、まあ…今回の客人を案内したところと丸被りじゃないの?まさか、ルシアに客人と行ってきたとは…言っていないわよね?」
「毎晩、今日行ったところを聞きたがるので、報告しましたけど?」
「……」
「なにか、問題がありましたか?機密事項でもありませんが?」
「…アル…ルシアはアルと行きたかったんじゃないかしら?」
「え?どうしてですか?視察のようなものですよ?」
「どう…って…。じゃあ逆に、あなたはなぜそんなに慌ててルシアを迎えに行こうと思っているの?ただの休暇でしょう?」
「え、それはただ単に…僕に黙って、出かけたから?何かあったんじゃないかと思って。」
おやおや、と自分の顎を撫でながら笑うのを必死に我慢している陛下をちらり、と見る。
「そう言うことなら、アーモンドの花を折って持っていけばいいんですね?」
この子は…
「そう言うことじゃないのよ。よく聞いて、アル。ルシアはね、あなたと一緒にその景色を見たいって言っているんだと思うの。」
「…母上?」
「そうねえ…約束、を贈ればいいんじゃない?ルシアと約束をしていらっしゃい。アーモンドの花は終わり掛けだけど見に行けるでしょう?オレンジの花は5月には咲くわ。海は…」
「海はバカンスに海の別荘に行けばいいだろう。貸し切りにしてやるぞ?」
陛下がそう言って、私にウィンクした。そうね。
「はい。じゃあ早速…」
「とりあえず3日待て。いいな?その後1日休みを取ればよかろう。」
「あ…はい…父上…」
礼を述べて頭を下げて、アルは少ししょんぼりしてティ―ルームを出て行った。
ドアが閉まるのを待って、陛下が大笑いしている。
「まあ…うふふっ。あの子の私への初めての相談が、恋の相談なんて、うれしいわ。」
「恋ねぇ…ぐふっ、初恋だな。あいつはわかっているんだろうか?」
「そうですね…でも、あの子、変わりましたね。陛下はアルフォンソのためにルシアを探してきたんですのね?」
「ああ。」
小さいアルフォンソに伸ばした手は拒まれた。
あの子は自分の出生と環境のせいで、自分の歳よりも早く大人にならなければならなかった。笑わない子供だった。
何事にも冷静で、聡明で…心配だった。
あの子に対して私ができることなど何もないのだろうと思っていたけれど…一つくらいは残っていたのね。
ああそうね、もう一つ。
あの子とルシアの恋がうまくいきますように、神様にお願いいたしましょうね。