第16話 お花見。
いつもの膝に乗る重み。
私が目が覚めたのは間違いなく見慣れた実家の中庭のはずなのに、いつの間にか私の膝には弟ではなくアルフォンソが眠っている。ぎょっとして、屋敷の方を見ると、母とベンハミンが手をつないでお散歩をしているのが見えた。少しほっとする。
もう一度、自分の膝で眠っている人に目線を戻す。
…これは…アルフォンソ、よね?
…ここは…間違いなく私の実家よね?
よく眠っているようだが、彼の胸元に置いた私の左手を握りこんで離さない。
アルフォンソの黒髪を撫でる。
私のお腹のあたりにいつものように顔を埋めたアルフォンソの目が、ぱっちりと開く。綺麗な琥珀色の瞳が、私を見上げる。
「…あの…」
言いかけたが、何から聞いていいのかわからない。
「オレンジの花は…客人とは王立植物園の温室で見たんだ。産地では5月から咲き始めるから、それを5月になったら見に行こう」
いきなりアルフォンソがそう言いだしたので、少し、いや、かなり驚く。
「アーモンドの花は、もう終わりがけなんだけど、まだ間に合うと思う。今週末の休みに一緒に行こう。いや、帰りに寄ろう。」
「え、と…アルフォンソ様?」
「アル、でいい。それから、海に沈む夕日は、夏になったら一緒に別荘に行って見よう。夕日と言っても…夜の八時くらいになるけど。」
「……」
覚えていてくれたんだ。
「それから…お前が実家に帰るときは、僕と一緒じゃダメか?」
「……」
「まさか…僕との婚約を破棄するつもりじゃないよな?」
握られた左手に、ぐっと力が入るのがわかる。何を言い出すのだろう?この人。
「破棄なんかしませんよ。王命ですから。それに…すぐ帰るつもりでしたし…」
「そうか。そうだよな」
そう言って、アルフォンソははにかむように笑った。
*****
ルシアを迎えに行った帰り足で、アーモンドの花を見にいく。帰りは少し遅れてしまうが、まあいいだろう。
夕刻になってしまったアーモンド農場で、散り始めた花を…それでもルシアは喜んでくれていた。よかった。いつも通りだ。
よかった?
どうもこのところ、自分でうまく表現できない心理状況だが…ほっとした?なにが?
風に吹かれて舞い落ちるアーモンドの花びらを掴もうと手を伸ばすルシア。
嬉しそうに顔をあげて、金髪がなびく。
ついこの間も客人を案内して見たはずの景色。アーモンドの木がたくさんある畑。
フルール国への輸出の話をした。
こんな感じだったか?ただの農場だと思っていたが。
「あら?アルの髪にも花びらがついてるわ。」
そっと、つま先立ちして僕の髪に手を伸ばす。ルシアに触られるのは嫌じゃない。
…いつも昼寝の時に無理やり触られてたから、慣れたのかな?
いつも、舞踏会というとご令嬢方に囲まれて、わざとらしくやたら触られたりして、本当に苦痛だった。今回のように客人をエスコートするのも、必要以上に密着されたりして…顔に出したりはしないけど。僕はひょっとしたら女性は苦手なのかも、と思ったりした。
「お前の髪にも付いてる。」
ルシアの髪に付いた花びらを一つ取って、ついでにルシアの髪を撫でてみた。
いつも自分の髪は撫でられているけど、撫でるのは初めてだ。
「あら、ありがとう。」
そう言って笑うルシアを見ていた。




