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第10話 職場復帰。

アルフォンソ様をなだめすかして、何とか5日間休ませた。このあたりが、彼の限界だったらしい。

「医者を呼べ。医者がいいと言ったら、仕事に戻ってもいいんだろう?」

「…」


仕方なく医師を呼んで、診察してもらう。

「ああ。随分いいですね。でもね、若いからと言って、無理は禁物ですよ?」


くふふっ、そうだろうそうだろう。もっと言ってやってください。


「聞けば、執務室のソファーで仮眠をとっているぐらいだったらしいじゃないですか。ちゃんとベッドで寝るようにしてください。お忙しいとは思いますが、規則正しい生活が健康の第一歩ですからね?」

「……」

不満そうな顔のアルフォンソ様を見ないようにして、医師に話しかける。

「わかりました先生。私が婚約者として、この方の健康管理をいたしますから。」

「そうですね。こういう仕事人間タイプの人には、そばで見守って下さる方がいると安心です。ルシア様、よろしくお願いいたします。」

「任せて下さい!先生。」

「……」


こういう時に、続き部屋は便利だ。当分使いそうにはないだろうと思えたが、私の部屋とアルフォンソ様の部屋はドア一枚。単純に鍵さえ開ければ行き来ができる。そう。こういう時のためにこうして部屋がつながっていたんだ!なるほど!



*****


久しぶりにきちんとした身なりに着替える。僕付の秘書官が今日の予定を読み上げる。5日も休んでしまった。

今日も朝ご飯はルシアと僕の部屋でとった。相変わらず…侍女と間違えそうな服装だ。干渉する気はないが…ゆくゆくは、もうちょっと…そんなことをちらりと考える。いつか、僕以外の人にも間違われるだろうとは推測されるし。


「いってらっしゃいませ」

ルシアは今日からまた、王子妃教育を再開すると言っていたからか、あっさりしたものだ。見送りのお辞儀もきちんとしているから、礼儀作法も頑張っているんだろう。


もっと…お昼ご飯はちゃんと食べろだの、何時までには帰ってこいだの…言われるのかと思っていたが。まあ…言われたいわけではないが。


こうして僕は、無事に職場復帰した。


執務室ではマテオが青白い顔をして回ってきた書類に公印を押しまくっていた。それこそ、ソファーで仮眠をとっていたらしい。

「あ、兄上!もうお体は大丈夫なんですか?」

「ああ。心配をかけたな。留守中、大変だったな。」

「ええ…兄上のこの仕事量、おかしくないですか?」

「そうか?」


もちろん陛下の判断が必要なものは、陛下の執務室に回す。

その前段階で処理できるものは、処理する。陳情、苦情、要請…もろもろあるが。

そのほかに、各部署からの予算の承認やら、緊急工事の申請とか…部署の判断でできそうなことや、不備の書類は戻す。軍関係の書類も回ってくるので、信用のおける者しか置きたくない。事務官はあと3、4人は欲しいところだが。


決済が必要と振り分けられた箱に入った書類を確認しながら、この5日間にあったことの報告を秘書官から聞く。


10時のティータイムに、珍しくお菓子が付いた。

12時になって…いろいろと納得した。


…ルシア降臨…。


侍女と一緒に執務室に入ってきたのは、大きな荷物を持ったルシア。と、スサナ王女。


「はーい。皆さま、お昼の休憩の時間です。お忙しいとは思いますが1時間はとりましょうね。皆さんにも軽食をお持ちしましたよ!はい。アルフォンソ様はこちらに。貴方がいらっしゃると皆様休みにくいでしょう?」

執務室の応対用の部屋に、すでに昼食が用意されていた。ルシアに引きずられていく僕に、みんな唖然としている。そうか…昨日まで休め休めとうるさかったのに、今朝はおとなしいと思ったら…こういうことだったのか…。そこまでは読み切れなかった。マテオはにこやかにスサナ様と隣の控室に入っていった。


「あの…ルシア?」

「はい。料理長に腕を振るっていただきました。食べやすいようにサンドイッチですけどね。紅茶で良いですか?ワインの方がよかったですか?」

「え?ああ、紅茶で。って、そうじゃなくてね、お前。」

「ん?」


紅茶を自ら入れながら、ルシアが僕を見る。

「自分だってやることがいろいろあるでしょう?」

「はい。婚約者の健康管理ももちろんですが、ラウラ先生に相談して、今後のことを考えて、執務のお手伝いもすることにしました。午後から私もお手伝いしますからね。」

ぶはっ、と、紅茶を吐きそうになる。ルシアがとてもうれしそうに、ハンカチで僕の口を拭く。何がそんなにうれしいの?


だいたい…手伝うって、普通のご令嬢に事務処理能力など期待していないけど?逆に…邪魔じゃない?まあ、言っても聞いてもらえそうにないことは休んでいた5日間で実感したので、やってみて、あきらめてもらうことにした。まあ、すぐに音を上げるだろう。


「はい。食べ終わったら、少し休みましょう」

そう言うと長椅子に座りなおしたルシアが、ぽんぽんっと自分の膝をたたいた。

一瞬、見えなかったふりをしようか迷った。

ぽんぽんっ。

ぽんぽんぽんっ。


「……」

「あら、スサナ様はいつもマテオ様になさっているそうですよ?婚約者だから。」

「……」


僕は…根負けして恐る恐るルシアの横に座って、彼女の膝に頭を預ける。こと、我が婚約者殿については…何事もあきらめが肝心なのかもしれない…









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