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金の瞳に映る空

作者: 梅犬丸

前半・あの空を探して

風がやさしく吹く丘の上。

草がさらさらと揺れ、小鳥の声が空に溶けていく。


「……なあ、キーナ」


マナは、隣に座る彼女に問いかけた。

赤い髪のポニーテールが風に揺れて、金色の右眼が光を跳ね返す。


「その右目……ほんとに未来が見えるんだよな?」


キーナは少し笑って、空を見上げた。

その表情は、どこか遠くを見つめているようだった。


「見えるよ。……でも、ぼんやりと、ね」


「じゃあさ。あの日言ってた空って、どんなのだったんだ?」


キーナは、手を広げて、目を細める。


「……空はね、すごく澄んでて、青くて、雲ひとつなくて。まるで世界の終わりみたいに静かだった」


「それの……何が本当なんだ?」


「わからない。ただ、あの空を見たときああ、これは最後だって、そう思ったの」


マナは、黙ったまま草をいじっていた手を止めた。


キーナが金の瞳を持つ右目で見た未来。

それは、自分とキーナが並んで、その空を見上げている光景だったという。

言葉はなく、音もなく、ただふたりで空を見上げているそれだけの未来。


けれど、その未来が最後だという意味は、キーナ自身にもわからないらしい。


「だから、探してるの。本当の空。未来の景色。……その先に、何があるのか知りたいから」


マナは、少しだけ笑った。


「……そんなの、探してどうすんだよ。空なんて、どこにだってあるのに」


「ううん。あの空は……きっと、どこかにしかない」


風が、ふたりのあいだをすり抜ける。

まだ見ぬ未来の空を目指して、旅は続いていく…




後半・いまの空

旅は続いた。

キーナが見た未来の空を探して、いくつもの丘を越え、川を渡り、森を抜けて。


けれど、どこを探しても、それは見つからなかった。


「あの空……本当に、どこにもないのか?」


マナがふと呟く。

キーナは少しだけ立ち止まり、空を見上げる。

雲ひとつなく、太陽が眩しく照らしている。確かに空は青い。でも、それが未来の空ではなのかも、キーナは感じ始めていた。


「うん……見つからないみたい」


「なあ、キーナ」


マナが歩み寄る。

キーナは少し不安そうな顔をして振り向く。

でも、マナは笑って言った。


「それでもいいんじゃないか?」


キーナはしばらく黙っていたが、ふっと顔を上げた。

その目に、少しだけ涙が浮かんでいた。


「……うん、きっとそうだね」


二人は、丘の頂に座って、ただしばらく黙って空を見上げていた。

そこには未来の空はなかったけれど、それでも何かが確かにあった。


「俺、ずっと思ってたんだ。キーナの目ってすごいって。でも、キーナの目が見た未来が、全部本物だとは限らないって気づいた」


「うん。わたしもそう思う。だって、あの空を見たとき、あれが最後だって思ったのに今、ここにいるじゃない。二人で」


キーナはゆっくりとマナの顔を見て、微笑んだ。


「それでも、よかったんだよね。だって、今は一緒にいられるから」


マナは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。


「うん、俺もそう思う」


しばらく、沈黙が流れた。

でもその沈黙は、何も寂しくなかった。

ふたりは今、心の中で大切なものを見つけたような気がしたから。


空はどこにでもある。

でも、本当に大事なのは、その空を一緒に見上げる人と、心に残る景色


「未来の空は見つからなかったけれど、今、ここにいる空が本当の空だったんだね」


キーナは静かに言った。

マナは何も言わず、ただうなずいた。


二人は立ち上がり、もう一度、空を見上げた。

そこに広がるのは、未来でも過去でもない、ただ今の空。


それが、二人の空だった。


終わり


この物語いつか自分で漫画にして描いてみたいなって思いながら書いたんですよね

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