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第3話 『生まれた意味はまだ分からない』





カツンと靴音が響く。





 壁も天井もクリスタルで造られた宮殿。

 誰もいない空間。高い天井に長い廊下、響くのは自分の音だけ。

 壁一面が窓ガラスになっている廊下は外の揺らめく光をいっぱいに取り込み、それがクリスタルに反射している光景はそれだけで夢のように幻想的だ。


 ふと庭に目をやると、つい昨日今年も花を咲かせたルフルがぽつぽつと吐き出した大粒の泡が海面に向かってふわふわと上がっていく。

 この花は暗くなると明るい間に開いた花弁をとじ、淡くピンクに光り始めるためこの時期は簡易ランプとして置かれることも多い。

 この庭に咲く色とりどりの花は親族がよく手入れをしていて、季節によって変わる景色をシルアスクは楽しみにしている。


 時折、旅行好きの親族が各星から珍しい植物を持って帰ってくるが、育つ環境が多種多様すぎて随分前に専用の建物まで立ててしまった。

 最近はCO2を吸ってO₂を吐き出す種類の花をいくつか植えていた。それに加えて試しにO₂を吸って生きる鳥を何匹か室内に放したらしい。しかもなんと、その鳥はCO2を吐き出すらしい。凄い、あの部屋の中だけで生命が循環できてしまう。今度見に行ってみようかな。

 いやでも、O₂ってながく触れてると酸化っていうのをして錆びちゃうって聞いたし、俺も錆びちゃうのかな。やっぱりちょっと怖いかも……。



 それにしても今日はあまり人を見かけない。




 みんな忙しいのだろうか。




 試しにいくつかの部屋を覗いてみるがやはり誰もいない。





 ……。







「おや、可愛い子が星庫から逃げ出しちゃってるな」



「うわっ!」



 ふいに背後から脇下に手を入れられて持ち上げられる。噂をすれば影がさす。驚いて後ろを見ると、赤い目をした旅行好きの親族の1人がいたずらっぽい笑みを浮かべていた。


「びっくりした!!!ルベシウスか……」


「じゃあこのままお兄さんが運んであげるからなー」


「えっ!?ちょっと!」


 シルアスクよりも頭一個分ほど大きいルベシウスは暴れるシルアスクを難なく小脇に抱えると長いクリスタルの廊下をいつになく楽しそうに歩いていく。


「みんな待ってるからな、ちょっと急ぐぞ」


「待ってるって、どういう……」


 数分ほどしてルベシウスが足を止めたのはクリスタルに美しい花々の装飾が施され、光の当たる角度によって輝き方をかえる美しい扉。大広間への扉だった。


「みんなー!主役の御到着だ!」


「う、うわあ!!?」


 シルアスクを小脇に抱えた状態でルベシウスが扉を力一杯に押し開け、シルアスクをポーンと放り投げる。

 と、同時にパンッパンッといくつかの破裂音が鳴り響き、ふかふかの椅子に着地した。




「「「シルクくん!お誕生日おめでとう!!!」」」




「へ?」




 呆然としているシルアスクの上に色とりどりの花びらが舞い落ちる。

 いつもはクリスタルの装飾を中心とした落ち着いた雰囲気の大広間が、見違えるほど華やかになっていた。

 色とりどりの花や風船が所狭しと飾られ、親族全員が席に着くことが出来る長いテーブルにもこれまた豪華で多種多様な食事が並んでいる。中央に置かれたケーキなんて10段もある。


「いやー、シルクくんもついに500歳かぁ」


 立派に大きくなって……、とルベシウスを含むシルアスクの親族達が椅子に座るシルアスクを取り囲んで笑顔で涙ぐみ始める。


「え、う、みんなお祝いしてくれるの?」


 そう、今日は1年で1度のシルアスクの誕生日なのだが、祝われるとは思ってもいなかったシルアスクは戸惑いを見せる。

 顔を真っ赤に染めたシルアスクが恐る恐るといった様子で尋ねると、それを見た親族達はハッとした様子で口を噤む。


「……ごめんね、今まで君のお誕生日パーティーを開くことが出来なくって」


 そう言って親族達はシルアスクに目線を合わせるようにしゃがみこみ、シルアスクの手を優しく下からすくい上げる。


「色々な用事が立て込んでいたからっていうのは言い訳でしかない。僕たちの末の子の誕生はみんな心の底から嬉しいと思っているよ」


「そうだよ。俺たちはみんな君のことが大好きだ!」


「今まで1人にしてごめんね」


 悲しむ親族達にシルアスクもついつられて眉を下げてしまう。

 そんなシルアスクを見て、親族が握る手を強くしたことに気がついたシルアスクは笑顔を浮かべて今まで伝えられなかった言葉を伝えるべく、シルアスクは強く手を握り返す。


「分かってるよ。みんなが俺ことちゃんと愛してくれてるって」


 嘘偽りない本音だ。


 こんなに張り切ってシルアスクのために大広間を飾り付けてくれて、まだ忙しいだろうにこうやって親族のみんなが集まってくれたことも、毎年とてつもなく長文で書かれている手紙と共に山のようなプレゼントが届くことも、シルアスクへの愛だとしっかり理解している。


「それにひとりじゃないよ。あんまりお話は出来なかったけど、ずっと同じ屋根の下にいたもん。みんながお仕事頑張ってるところいっつも見てたから寂しくなかったよ!」


 シルアスクは生まれてから1番の笑顔を浮かべた。



「だからね、明日は頑張るよ!」



 期待してて、と胸を張って宣言した。



 そのためにシルアスクは生まれたのだから。



 * * * * * * * * * * * * *



「おかしい、ここからウハウハサイバーパークライフが始まると思ったのに……」


「そんなこと思ってたのかよ」


 シルアスクは目の前のテーブルに突っ伏したい気持ちだったが、ここは外なので我慢した。


「まさかアトラクションに乗るのに別料金がかかるなんて!聞いてない!こういう大きいテーマパークって入場料だけでいいんだと思ってた……」


 うきうきとパーク内に足を踏み入れた2人を待ち受けていたのは高額な乗車チケットだった。

 一通りパーク内を見て回ったがどれも大差なく高かった。仕方が無いのでパーク内のレストランのテラス席で早すぎる昼食を取っている。店の外を通り過ぎていく客達はなんとも楽しそうだ。いったいどれほどの富豪なのだろう。


「もうこうなったら君の星の星庫を開けるしかない」


「なんで俺の星なんだよ」


「ケチケチしないでくれ、王子くん」


「お前が言うな」


「俺はしまわれる側だからいいんだよ」


「謎理論」


 呆れ顔のブザエラストを華麗にスルーしたシルアスクは食後のデザートのパフェに乗っている、パークのマスコット「トアルン」の顔面まんじゅうを口に放り込む。可愛かったので最後まで残しておいたのだ。中からとろりと溢れた蜜が口の中でパチパチとはじける。


「お前なんか毛先光ってるぞ」


「まんじゅうに入ってた蜜のせいかも」


「迷子防止」


「は?」


 眉根を寄せたシルアスクをクールにスルーしたブザエラストは食後のお茶を一気に流し込んで立ち上がる。


「そろそろなんか乗りに行くか」


「あ、ちょっと!まだ食べ終わってない」


 シルアスクが慌てて残りを頬張っている間にブザエラストは二人分の荷物を持って勝手に会計を済ませる。


「ていうか今気づいたんだけどさ、これ仕事だろ」


「うん」


「乗車チケット代経費で落ちるんじゃね」


「え、天才」


「ブザエラストくんに宇宙民栄誉賞を授与!」


「やったー」


 パチパチパチとシルアスクが手を叩く。先程までの沈んだ気分が一変、とてつもなくいい笑顔だ。


「よし、そうと分かったらアトラクション全制覇だ!」


「いえー!」


 2人はパークの中心に向かって駆け出した。



 * * * * * * * * * * * * *



 2人が最初に目指したのはパークで1番の目玉、『ネオン』。


 蛍光ピンクのライトで縁取られたコースターが高速でパークの上空を走るジェットコースターで、道中は発光体を持つこの星の動植物と並走したり、宇宙空間にまで飛び出して惑星リリトアがある紅灯銀河を見下ろせる。紅灯銀河のその名に恥じない紅い輝きは圧巻だと言う。

 身長は150cmから重力強度は15から乗車可能だ。


「ここ暗いからお前の髪光らせといて良かったな」


「迷子防止になるしね」


「自分で言うのかよ」


「これ明日までもつらしいよ」


「マジかよ」


 そう言いながらシルアスクが弄っている髪の毛先は依然として青白く光ったままだ。薄暗い室内では外にいた時よりも目立っている。

 ︎

「それより次で乗れそうだね」


「思ったより並んでなかったな」


 パークの中央にそびえ立つ塔の内部が2エリアに別れており、その一方の階段が『ネオン』の待機列になっている。

 塔内部の階段状になっている列の柵にもたれ掛かりながら下を見下ろす。もうだいぶ上まで進んだようだ。ほんのりと暗い室内で階段の縁や柵が蛍光ピンクに光っており、天井からは7色に輝く星型のライトが長い紐で吊るされている。

 上に上がるにつれ、頭上から流れる安全上の注意を説明する音声が大きくなっていき、シルアスク達を含む次の搭乗者の所にはモニター付きの小型飛行生物が注意事項の映像を見せてくれている。


「重力強度が15って結構厳しいからね。なかなか乗れる子が居ないのかも」


「お前どれくらいだっけ」


「30、そっちは?」


「17」


「え、か弱い……。俺が守らないと」


「おー、助かるなあ」


 宇宙平均は8である。

 シルアスクは口元に手を当てながら1人で震えていたが進み出した列につられて動き出す。階段を一段上がるごとにワクワクする気持ちが増していくのを感じる。

 人生で初めてのテーマパークはどんなだったか、シルアスクは思い出す。


 たしか、親族達みんなと行ったのだった。

 はしゃいでいる自分を見て嬉しそうに微笑んでいるみんなを見て自分も嬉しくなったことを覚えている。みんなが代わる代わる手を繋いでくれて、どこを向いても初めて見るものばかりで、死んでしまうんじゃないかと思うくらい胸がドキドキとしていた。




 ガコンと体が大きく揺れてコースターの天井が閉まる。


「それでは出発します!いってらっしゃーい!」


 これまた大きく揺れ、機体が前に進み始めグングン上昇していく。

 下にひろがるテーマパークは明るく輝いているのに対して、シルアスク達がこれから向かっていく宙は真っ暗だ。星が明るすぎてほかの星が見えないのだろう。シルアスク達が今創っている星やそれぞれの母星はあんなにも、吐き気がする程に数え切れない星々が宙を彩っているというのに。


 この宇宙はあまりにも広いのだと改めて実感する。シルアスク達だって全ての星を把握している訳では無い。未だに宇宙に出たことがない星だってある。全ての星が別々の道を進んでいる、今までも、これからも。何年生きていても一つ一つの星を見飽きることが無い。宙にうかんでいる1つの星が遠く離れた星では別の名で呼ばれている。同じ星の中でさえ星宙は全く違う景色を見せる。隣の銀河に行くと自分の母星が、全く知らない星と1つの星座になっている。


 未だに拡張しているこの宇宙でシルアスク達はどのような星を創れば良いのか、あの星はなんのために生まれたのか、ふと生まれた迷いや疑問は急降下し始めた衝撃でとんと忘れた。



 * * * * * * * * * * * * *



 その後もいくつかのアトラクションに乗った2人はパーク内の高台にあるカフェで休憩をとることにした。パーク全体を一望できる場所にあるためかなり人気のようだが、2人が到着した時にちょうどよく席が空いたのだ。

 それぞれの席が水のカーテンで覆われているため周りの音を気にせずゆったりとすることが出来る。

 シルアスクは3種のケーキセットを、ブザエラストはサーラの茶葉を使ったサーララテを頼んだ。サーララテにはトアルンの3Dラテアートが乗っていたのにブザエラストは容赦なく顔から吸い込んでいた。シルアスクは信じられないものを見た気分だった。一方のシルアスクはケーキセットについていたメリーゴーランドが描かれたクッキーが可愛すぎて手をつけられていない。


「楽しかったね!」


「な」


「途中、君が作った線路が見えて興奮しちゃった!」


「マジか、俺多分違う方向見てたわ」


「え、もったいない。ちょうど汽車が走ってて景色も相まって最高だったよ!さすが、センスあるよね」


「褒めても王位継承権ぐらいしか出ないぞ」


「でちゃまずいもの出てる」


 照れくさそうに頭の後ろをかいているブザエラストを無視して残りのタルトを口いっぱいに頬張る。サクサクの甘さ控えめのタルト生地と濃厚なクリーム、瑞々しいフルーツの果汁がジュワリと口に広がる。

 そうこうしているうちに、ケーキセットは残るはメリーゴーランドクッキーだけになってしまった。むむむとクッキーを凝視して目に焼き付けているシルアスクの一方で、サーララテをかき混ぜながらブザエラストは窓の外を眺めている。


「なあ、俺ちょっと……」


「ん、いいよ」


「わり」


 ふいに室内に視線を戻したブザエラストは断りを入れて席を立つ。その後ろ姿を眺めながらシルアスクは意を決した様にクッキーを口に放り込んで、ティーカップを引き寄せてサーララテを一気に飲み干した。




「そこのお兄さん、今1人?」



「え、」


 急に背後から声をかけられる。


 シルアスクが振り返ろうとした瞬間、頭に強い衝撃がはしった。

 何が起こったのか、シルアスクが後ろを振り返るも、グラグラと揺れる視界とガンガンと波打つ激しい痛みで上手く捉えることが出来ない。

 チカチカと明滅する視界、だんだんと息苦しくなっていく呼吸、シルアスクの意識はそのまま薄れていった。


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