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第2話 『交通課の新人歓迎会はブザエラストの黒歴史』



サラサラと砂の流れる音がする。




どこまでも広がる白い砂の海。



砂粒とほんの少し混じるクリスタルの粒がこの星の周りに浮かぶ3つの衛星の光を浴びて、七色に輝いている。3つの衛星が同じ宙に輝くのは一年で一度、この日だけ。


周りではいくつもの砂の滝が上から下へ怒涛の勢いで流れ落ち、水しぶきのように地面にぶつかった砂を宙へと舞い上げている。ドドドドド……、と重たい音が響いている気がするのに耳に入ってくるのはサラサラとした軽い音ばかり。


地平線まで誰もいない。


こんなに遠くまで来たのは初めてだ。ブザエラストの白金の髪はクリスタルの粒と同じように輝き。砂の光が瞳にちらつく。



今ここで死んだらきっと誰にも見つからない。



……いや、多分俺の家族はこの星の砂を全てひっくり返してでも見つけるだろう。あの人たちは何をしでかすかわからない。俺の誕生日に星一個買って来た時はマジでビビった。



突如、ブザエラストの白いローブも周りの景色もより一層七色に輝き始める。

宙を見上げると一年に一度この日だけ見られる流星群が、ピンクや青、黄色に緑の光の粒を散らしながら宇宙を駆け抜けていく。


地平線まで鏡のように光を反射して空も大地も同じ色にそまっている。



きっとこの瞬間はこの星が世界で1番美しい。



* * * * * * * * * * * * *



昨日植えたばかりの植物に水をやる。



左から順にシルアスクご所望のミズカラグサ、ヤヤ、イシキリソウ、パルク、ツラズ、ゲル。ミズカラグサは俺がよくわかっていないので、一番左に植えてみた。それ以外は用途順、収穫順に並べてある。

多分農業はブザエラストの担当になるだろう。シルアスクは情報管理とかそっち系。シルアスクはどうも植物と相性が悪い。そのくせ見るのは大好きだから、いつも怪我しないか少しハラハラしている。まあ、あいつは気づいていないだろうが。


昨日はあの後、ベッドは後日郵送になり、買ってきた植物を植え、会社から開発課の膨大な資料を取り寄せ、この宇宙に存在する星をリストにまとめた。

そして今日はブザエラストが植物の手入れ、シルアスクが家のカタログを見ている。朝食の時とりあえず自分たちの家を建てることが決まったのだ。

そろそろベッドが届くはずだが……。


「こんにちはー!ハッピーと幸福、それからウルトラハッピーなお荷物をお届けに上がりました!カスミソウ配達です!」


突如、種を植えるために人差し指を地面に突き刺しブザエラストのすぐ後ろからなんとも明るい声が響いた。


「ベッドのお届けです!お宅が見当たらなかったのでこちらでよろしかったですか?」


ふわふわのメレンゲのような短い髪を漂わせながら人型の生き物がこちらに問掛ける。


「おー、ありがとうございます。そこに置いといてくだ……、」


返事をしながらブザエラストが手袋についた土を払いながらふりかえると、


「えっ、フィリア!久しぶり!お前いつ会社辞めてたんだよ」


そこにはブザエラストの同僚でシルアスクの先輩である、フィリアがニコニコと柔らかな笑顔で佇んでいた。


「はい、お久しぶりです!まあ、お久しぶりって言うほどお久しぶりでもないですけどね。僕はお二人が移動になったのと同時期に退社したんですよ。この会社はうちの星が経営しているので、家業のお手伝いってところですかね」


そういったフィリアはあたりをぐるりと見渡して、


「これがお二人の星なんですね!今は何も無いですけどこれからお二人にしか生み出せない星になっていくのかと思うとワクワクしちゃいますね!完成した暁にはぜひ同僚の(よしみ)で招待してくださいね」


待ちきれない、といったふうにフィリアは目を輝かせながら顔をぐいっとブザエラストに近づけた。


「おお、もちろん!なんならそのときは他の奴らも呼ぶか!あいつもお前らが来てくれたら絶対喜ぶだろうし」


ブザエラスト達は交通課にいる時、六人組のグループでいつも業務に取り組んでいた。

その中でも最年少な上に一番後輩だったシルアスクはだいぶこのグループのメンツには懐いていたとブザエラストは思っている。


「ありがとうございます!僕の方から他の子達に知らせておきますね」


ブザエラストとフィリアが未来の計画について盛り上がっていると、シルアスクが駆け寄ってきた。


「フィリア!どうしてここに?もしかして俺に会いたくなったのかな?」


ふわふわと頬を染めてシルアスクが嬉しそうに問いかけると、これまた嬉しそうにフィリアがシルアスクの両手をすくい上げる。


「その通りです!お二人に会いたくて僕の兄弟に配達先を変わってもらっちゃいました!それともう1つ!」


握っていた手を離し、フィリアは会社のショルダーバッグから蛍光色のピンクと水色で彩られた鮮やかな封筒をでーん!と取り出した。



「こちらをお二人にプレゼントします!なんと今話題沸騰中、惑星リリトアにある『サイバーパーク』への入場チケットです!」



* * * * * * * * * * * * *



紅灯銀河 惑星リリトア



紅灯銀河のもっとも端に位置し、星自体が文明の光によって眩く発光している。


その輝きは第二の恒星とも呼ばれており、実際の恒星からは遠く離れているにも関わらず、ほ自然体を覆うドームによって明るさも暖かさも住みやすいように調整されている。

そしてこの星に生きる生物は皆、体に発光体をもっており、どんな形であれ目や髪などの体の一部分が光るという特徴がある。光る場所は人によって違うそうだ。



道路標識も道もビルの柱も、ピカピカと光るピンクと水色の淡いネオンに縁取られている。

見上げれば宇宙色だけの真っ暗な空が広がっているのに対して、この星の地上はなんともまあ明るすぎる。


「やっほ〜!みんなのアイドル、リリィちゃんだよ!」


ビルの大型モニターには鮮やかなピンクの髪を光らせているこの星のアスコット「リリィちゃん」が笑顔で観光名所を紹介している映像が流れている。


「なんといっても注目なのは開演当初から今話題沸騰中!『サイバーパーク』!一言で言ってしまえば遊園地なんだけど、楽しさや面白さはもちろんのこと、なんといっても他と違うところはエネルギー!」


リリィちゃんは画面に顔を近づけて人差し指をびしっとたてる。


「今までこの星は恒星から離れていることによる寒さや暗さを調整するために、死んでしまった星から発生するエネルギーを使っていたんだけど、やっぱりこれだとその星の使用権を買うためのコストが膨大だし、そう滅多に近くの星が死んじゃうこともないからエネルギー源に悩んでいたんだ」


モニターにはリリィちゃんの横に、エネルギー循環を簡易的に描いた図が映し出され、リリィちゃんの生命に合わせた変化していく。


「そこで目をつけたのが生命体がもつエネルギー!この星の生命体は発光体を持っているよね、つまり生命体がもつエネルギーからでも発電出来るってことなんだ!その仕組みを応用してサイバーパークに来たお客さん達がパーク内で楽しいとか嬉しいとか強い感情を持つとそのエネルギーを吸収するんだ!このエネルギーを使ってパークのアトラクションを動かしているよ!」


リリィちゃんが凄い!と拍手をすると蛍光ピンクの髪もそれに合わせてパチパチと明滅する。


「この技術を発明してくださったクリカラ銀河の惑星ゴルゴダ研究所の皆様本当にありがとうございます!それじゃあ皆さん、サイバーパークを楽しんでみてくださいね!」


バイバイとリリィちゃんが手を振って映像は終了する。その後は歌劇場で行われる公演や新オープンビルの宣伝などが続いていく。




ブザエラストの横ではシルアスクがその映像をスクランブル交差点の向こう側から少し不機嫌に眺めていた。


「まったく仕事の依頼なら最初からそう言えばいいのに……。フィリアもそうだけど、社長も社長だ、フィリアが仲介すれば断られないことを見越して……」


「この方法何兆回も使われてるのに毎回毎回引き受けるお前もお前だよな」


「そう言いながら何兆回も着いてくるお前もお前だよ」


そう言いながら、シルアスクは電子観光マップを空中に映し出して大型モニターと見比べている。それを横からのぞき込んだブザエラストはビル街を指さす。


「それにしてもサイバーパーク以外にも色々な観光名所があるんだね」


「パーク行くのは明日だから今日はホテルに荷物預けたあとはここら辺、ウロウロしてみるか」


「そうだね。でも仕事とかを抜きにしても楽しみだね、サイバーパーク」


シルアスクはブザエラストの方を向くと、ニコニコとしながらパーク内マップの右上を指さす。


「君の苦手なお化け屋敷絶対行こうね!」


いや、苦手なのはお前だろ、とはブザエラストは言わなかった。




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