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プロローグ 『生まれたて新品の星』



ガラガラと星が鳴く。



積み上げた建物も色とりどりの植物も何もかも重力が反転したように下からひっくり返り、周りの星も銀河もあまりの衝撃で揺れている。



昨日実ったばかりのパルクの実もゲルの花も根っこも何もないみたいに空中に放り出され、命の石にはヒビが入る。あぁ、死んだらあの人達に詫びをいれなければならない。まあ、相手は俺のことを知らないのだけれど。

ピティーユ製の俺のお気に入りのコートは木の枝に引っかかって破けているし、これじゃああいつの棚にこっそり隠してた数量限定期間限定のサマーヤクッキーも駄目だ。半年前から楽しみにしていたのに……。くそっ……。



いつも見上げれば目眩がするほど綺麗な宙をあれはどんどん覆い隠し俺の大切なものを壊していく。それをただ眺めていることしか出来ない。まったくどこかの宝物(ほうもつ)も聞いて呆れる。






──ああ、あれはきっとこの星に誰かの大切なものがこんなに沢山あることが許せないんだ……




* * * * * * * * * * * * *



宇宙の中心にそびえているのか浮かんでいるのか世界で最も巨大で強大な会社、宇宙創造株式会社は今日も元気に拡張中。



宇宙の端に色を塗り、空間を広げていく『宇宙拡張課』、新しい惑星を設計・デザインする『惑星開発課』、星や銀河同士の交通機関を整える『宇宙交通課』、出来上がった銀河系に星を配置していく『銀河運用課』等々、業務は幅広く多岐にわたり、この会社の課や部の数はそれこそ星の数だ。就職希望者数はここ5万年は世界1位を独走中。



まあ、最近の上層部はもっぱら新しい銀河を何色に光らせるか、という話題で今日も会議は踊っている、らしい。



* * * * * * * * * * * * *



ガコンという音がなった気がして音が伝わらない空間で宇宙船の扉が開く。



地表は1mmの狂いもなく平坦で砂の粒も均等、空気中はほぼほぼ真空で、見上げれば数え切れない星がありそのどれも肉眼ではよく見えないほど遠い。


誕生からまる1日しか経っていない生まれたて新品の惑星だ。



「えっと、惑星状態は良し、気温は-260度、無風。天気はよくわからんから晴れでいいか……」


「とりあえず重力発動モードにして空気入れるけどいいよね」


「おー」


白いローブを纏った金髪碧眼を持つブザエラストが端末に情報を入力している横で、紺色の髪に碧眼のシルアスクが宇宙船のハッチを開いてなにやら大型の機械のボタンを押すと、ブシューという空気が出る音とともに惑星に初めての風が吹き始める。


「一旦水素と窒素にしておくから変更したくなったら勝手にして。空気入れ終わったら水も入れよう」


「こっちも必要情報は全部入力したからな」


「わかった。それにしても……」


そう言ってシルアスクはあたり一面何も無い地平線を端から端までゆっくりと見回したあと機械から排出したての空気を吸って深いため息をつく。


「どうして急に惑星開発課に移動になって、しかもすぐさま担当惑星が割り当てられたんだ。こっちはまだこの課のマニュアルだってきちんと確認できていなかったのに……。絶対お前が先月、上の指示を聞かずに赤石銀河とガルトマ銀河の間に勝手に高速道路作ったから上席連中の怒りを買ったんだ」


「上席連中ってどの上席だよ。俺らの上もう社長しか居ないぞ、最上級幹部。というか、お前だって先々月総務の電子機器全部勝手に買い替えて大騒ぎになってただろ」


「はぁ?あれは伝達がきちんとできていなかったからだろう!俺はきちんと社長の許可を取っていたし、書類だって提出していた!」


シルアスクは少し声を荒らげたあと諦めたように額を抑えて頭を振った。紺色の髪がどこかの星の光を反射してサラサラと瞬く。もうどうしようもないと悟ったのだろう。

黒のジャケットから端末を取り出してマニュアル画面を開く。そこにはまだ3分の1も確認できていない必要事項がずらりと並んでいた。シルアスクはそれらの項目を確認しながらブザエラストに問いかける。


「とにかく俺達はまだ配属されて1日も経っていない。俺は宇宙船の中で最低限は知識をつけたけれどこの星をどうするか何も決めていないし、希望も植物をいくらか植えたいってことだけかな。お前は?」


「俺も一緒。一般的な有生惑星が無難かなとは思ってる。ある程度住める環境にして貿易場所作って交通機関整えて、そんだけ」


「なるほど。俺達は作りたい星があって開発課に来たんじゃないし、初めてなんだからそんな感じでいいだろう。特に何もない状態で放置されてる星はいくらでもある。そこにあとから使用用途を見出して開発することだってあるし、失敗しても後でどうにでもなるだろう」


「だな。」


頷いたブザエラストが頭上にひろがる宇宙を見上げる。つられてシルアスクも宙を仰ぐ。瞳に光が写り込むが全てを写すことは出来ない。数えきれない星々はいつも目眩がする。


「よし、じゃあ今日はもう初日だしいろいろ怒涛だったしお前用の湖かなんか作ったら寝るか。明日の昼ぐらいに一番近くの有生惑星に参考と買い出しがてら出掛けよう」


「わかった。それでいいよ」




宇宙船での就寝。

はっきり言ってこの宇宙船のベッドは寝心地が良くない。食料よりも惑星のことよりもシルアスクは明日ギシギシ音のならないふかふかで暖かくてベッドに入って即快眠!の出来るベッドを買うことを何よりも心に刻んだ。


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