第8話
あの一件から、2日後。
《反組織部隊》の居場所について、動きがあったのだ。
いつものように、刑事部長室の音声を聴いていた時だ。
詩乃からの報告によれば、例の主の姉がかつて事務所として使っていたビルに占拠しているというのだ。
それに加え、翌日には強行突破をしてくれとの命令が下された。
▪▪▪
「そう、か。〈ウェイト〉の輩は、主の姉が構えていた場所に占拠か。……本当、あの主は馬鹿な事をするねぇ。《メージェント》を潰したところで、実姉が喜ぶとでも思ってるのかよ」
事情なら、こちらも把握していたが……本当に『馬鹿な事をしている』と思う。
姉を助けられなかったのは、《メージェント》や警察の不手際だ。
―――ただ憎むべきなのは、両方の組織ではなく実姉を殺した犯人だ。
「それに、出くわしちゃいけねぇ人物が《メージェント》に居るっつーのに。仁川刑事部長も無茶な事をするね」
そう呟きつつ、携帯を取り出す。
ゾルファーに電話をかける。
『どうも、タマキ君』
「あ、どうも。〈ウェイト〉の居場所、分かりましたよ。明日に強行突破らしいです」
『そうか、キミも行くだろうな』
そうゾルファーが返す。
「はい、行きますよ」
『とにかく、安全確保で頼むぞ。タマキ君』
ゾルファーが念を押すように言う。
「分かっています。誰も傷付かないように気ィつけます」
『そんじゃ、よろしく頼むぞ』
「はい」
そこで電話が切れた。
▪▪▪
「これで、本当の終わりっすね」
《反組織部隊》を解体させれば、自身の『任務』は終了だ。
「しっかし、まあ」
何度も思うことだが、ここまで話が大きくなるとは思わなかった。
最初はただ単に、重要人物である塩小路翠子の万が一の保護……だった筈だ。
それが今、ここまでの事態に発展するとは想定外だ。
「汐莉さんと、詩乃さんはどうなるんすかね」
明らかに、《メージェント》の行動を乱したと判断しかねない。
組織から離れるか、最悪は明日の突入で死にかねない。
(駄目っすね、こんなこと考えては)
と、思ったが……それは二人も承知の上だろう。
《メージェント》に居る以上は、その覚悟も必要ではある。
ふと思い出して、部屋の片隅にある小さなアルバムを取り出した。
自分がFBIの《メージェント》に特別加入された時に、本部で行われた入隊式の写真だ。
写真には、FBIの仲間を含め汐莉や詩乃……そして奴が写っている。
その時は確かまだ『事件』が起きる前であり、詩乃は《メージェント》では無かったが同じ大学出身ってこともあって式の来賓として来たのだ。
「………」
久しぶりに見たアルバムを、珠希は強く握る。
……当時は、こんなことになろうとは夢にも思わなかった。
「ぜってぇ、終わらせてやっからな……」
この悪夢を、終わらせる。
そう心に誓った珠希は、アルバムを元の所に戻した。