第7話
この日の昼、珠希は仕事の都合で翠子が通う天南地高校の近くで仕事をしていた。
「ふう、終わりっと」
何とか仕事を終え、現場を出た。
……だが、周りが妙に騒がしい。
「どうかしたんすか」
たまたま通り掛かった男性に、珠希は話しかける。
「天南地高校の方で、警察官と見知らぬ人物が撃ち合いになってるようで……」
それを聞いた珠希は、背筋が凍るのを感じた。
「ありがとうございます!」
そう言うと、珠希は走り出した。
これは、確実に《反組織部隊》が絡んでいる。
(こればっかりは、僕が……ッ!間に合ってくれ!)
▫▫▫
走り出して数分後、ようやく高校が見える所まで来た。
思惑通り、《反組織部隊》が三期生の二人と戦っている。
(……ッ!?)
マント姿の一人に、珠希は驚いた。
紛れもない、汐莉の姿だ。
彼女は、『動物替え』で虎の姿になった。
(畜生……!)
珠希はボディバッグから自家製の煙玉を出して、口で発煙線を引き抜く。
それを両者の間に投げ込むと、上手いこと転がり込んだ。
(今のうちに)
煙が出た瞬間に、中に入る。
「後輩に手、出すんっすか。堪忍してください!」
煙が晴れると、彼女は元の姿に戻っていた。
そして、後ろ指を指した。
「仕方がないねぇ、遊戯はここまでヨォ。それじゃっ」
もう一人の奴が言うと、これ以上は手を出さずに去っていった。
▪▪▪
「はぁ……」
珠希は家へ帰った。
三期生の二人と詩乃に事情を話して、もう一件外せない仕事を終えて家に着いたのは4時を回っていた。
椅子に座ると、珠希は昼間の事を回想した。
汐莉の姿になっていたのは、コピーの『変化』を持ったアイツだろう。
直接探っていた彼女を監禁させ、能力を奪ったのは間違いない。
かつての同僚に対してやったと思うと、虫酸が走る。
(まあ、あそこで攻撃を止めてくれて良かったっすね)
第三者が加わるのは想定していなかったように見えた。
あそこで止めてくれたのは、本当に不幸中の幸いだろう。
その時、チャイムが鳴った。
珠希が扉を開くと、昼間の天南地高校の二人が居た。
「ああ、昼間のお二人さん」
珠希が言うと、二人は会釈をする。
「その、割って入ってくれたお礼がしたくて」
紙袋をあげて、彼女が言った。
「とりあえず、中どーぞ」
▫▫▫
クッキーを貰い終え、二人を見送った。
携帯が振動していたのを思い出して、見てみるとゾルファーから連絡が来ていた。
もう一度掛け直し、昼間の事情を話す。
『キミには、これからも無理して活動して欲しい。また、報告を貰いに電話するよ』
「わかりました」
そこで、電話が切れる。
珠希は椅子に座る。
「……僕っちが向こうさんに頼まれてから、本当に厄介な事になったっすねぇ。向こうの人間も大慌てだろーな」
机に頬杖をしながら、そう呟く。
(そろそろ、大詰めかもしれない)
この事態は、終焉へと向かっている。
自分がやれることは、精一杯やらなければならない。
――今の僕は彼女の見守りと、汐莉の救援が最優先だ。
「仕事、一旦休止にしますか」
そう呟いて、パソコンを開いた。