第6話
翌朝、寝惚けながら珠希は朝食を食べていた。
(何かと、大丈夫っすかね……)
食べ終わりの皿を洗い終わった時、ふと携帯にメールの着信が来た。
……詩乃からだ。
『昨日、鍵を視てくれてありがとう。あの後、色々調べたらね……実のところ、汐莉が「彼ら」に狙われる可能性がある事が分かった。それと同時に、汐莉の姿が見えなくなったの。事情なら白賀谷君も分かると思うけれど、もし汐莉の事を見かけたら声をかけて欲しいと思っている。よろしくお願い出来るかしら』
と、書かれていた。
「彼ら」は、《反組織部隊》だろう。
(まさか、〈ウェイト〉を潰そうと思っているんじゃ無いっすかね……汐莉さん)
そう思うのが、妥当だ。
今のタイミングが、彼女にとって絶好の機会だろう。
(一応、見かけたら……説得してみようか)
こればっかりは、自分からも言う必要がある。
汐莉には『借り』が幾つかあるからだ。
ただ……汐莉には無茶をさせたくない。
その思いが募る。
「さて、と」
身支度をした珠希は、外へ出た。
▪▪▪
(さて、一応時間に余裕を持たせたが)
この日、どうしても席が外せない業界の会議がある。
会議に使うビルの前で、待っていたが……
人混みの中に、汐莉の姿が見えた。
彼女も自分を見かけ、反対方向に走り出そうとした。
「汐莉さんッ!」
珠希は辛うじて彼女の腕を掴み、そのまま路地裏に引き寄せた。
「……詩乃さんから、話は聞いています。汐莉さん、本当にこれで良かったんです?」
珠希は、そう汐莉に話しかける。
「いいのよ。元々は私が彼奴らに片を付けないとって、思ってね」
少し目を反らしつつ、汐莉はそう返す。
「詩乃さんに全部、責任を負わすつもりっすか。それじゃあ、可哀想ですよ」
彼女は少し、悲しそうな顔をする。
「もちろん、私も責任を負うわ。詩乃だけ背負わせる訳にはいかない」
「だとしたら、もっと平和的に片を付ける事だって……」
そう返すと、汐莉は胸ぐらを掴み始める。
「あんたに、私の何が分かるわけ?」
汐莉の顔を見て、ぎょっとした。
……憎しみと、殺意に満ちた眼だ。
「そんじゃ、私は行くよ」
汐莉はそう言い、去っていった。
(……まさか、こんなカタチになるとは)
汐莉の後ろ姿を見ながら、そう思った。
と同時に、手を握り締めた。
《反組織部隊》を潰す事を、ずっと考えていたんだろう……そう思っていた。
しかし、汐莉の気持ちは周りの人には計り知れない『憎しみ』があったのだろう。
「白賀谷さん」
声をかけられて、珠希は我に返った。
声の方を向くと、知り合いの鍵職人が居る。
「そろそろ、会議の時間ですよ」
そう、彼が言う。
「すまない、行きますわ」
珠希が返すと、彼は頷いて先にビルの中に入っていった。
(……これは、時が来たら詩乃さんに話すか)
そう思った珠希は、歩き始めた。