第5話
《反組織部隊》が、《メージェント》に対して危害を加えてきた。
……その日以降、事態が目まぐるしく変化していく。
▪▪▪
「外部で手助けしていた奴が、〈ウェイト〉に絡むとは、ねぇ……」
朝食を作りなから、珠希はそう呟く。
奴の名……野々羽丹緒、と言ったか。
犯罪を何度か起こしたらしいが、二期生と絡みがあって出所後に外部の一員として活動していたらしい。
一度、とある事情で顔を合わした事があるが。
そんな彼が、《反組織部隊》に接触したという話だ。
(詩乃さんも、もう少し早く知らせりゃ良かったのに)
つい昨日、その二期生が彼を見つけ損ねた際に打ち明ける。
『匿名のメールが、彼からのメッセージだ』と、二期生と汐莉に話したのだ。
(例の如く、汐莉に渡したブローチからの情報だが)
「……いただきます」
作った朝食を食べ始める。
(しっかしまあ、無茶するっすね)
朝食を食べながら、ふと思う。
いくら何でも、身バレした時には危険に晒される。
自分自身、たとえ上からの指示があったとしても躊躇はする。
(……でも)
身の危険を引き換えに、情報を得ようとする『心意気』だけは評価したい。
「何事も、無ければ」
そう呟いたが、何か嫌な胸騒ぎがする。
事件でも起きなきゃいいが―――
▫▫▫
それから目立った事が起きずに、数日が経った。
この日の夜は、特に寝付けが悪い。
その時、携帯が鳴った。
相手は詩乃だ。
「……はい、もしもし」
珠希は、電話に出る。
『私……詩乃よ。あのさ、白賀谷君。今から《メージェント》に来ることって可能……かしら』
その言葉で、珠希は飛び起きた。
そうか、寝付きが悪かったのって……
「分かりました。今から、向かいます」
『ありがとう、それじゃ待っているわ』
そう詩乃が言うと、電話が切れた。
(まさか、まさかじゃねえっすよね……)
さっきの電話、自分に話が来るって事は『誰かの鍵』を持ってる。
……その鍵の持ち主って……
「とりあえず、行きますか……」
そう呟き、バイクを走らせた。
▫▫▫
「畜生、案の定かよ」
《メージェント》から出た珠希は、頭をかきむしった。
詩乃から鍵を見せられたのだが、型番で誰の鍵かハッキリと分かった。
……そう、野々羽丹緒だ。
流石に詩乃の前ではボカしたが、彼が『鍵を複製して欲しい』と依頼したのだ。
それも出所後のアパートの鍵を、だ。
「……つっても、詩乃さんも動揺してる様だったしな」
あの表情を察するに、彼は《反組織部隊》に消されたのだ。
何かの情報があるなら、今から彼の部屋に行ってもいい……そう思った。
だが、今日は夜も遅い。それに、これ以上は自分から首を突っ込む訳にもいかないだろう。
「………帰りますか」
バイクに乗り、《メージェント》を後にした。