第4話
(……はぁ。あれから進展無し、か)
仕事を片付けながら、珠希は頭を抱えていた。
天黑にずめが〈ウェイト〉と絡んでいることが分かったが、それ以降なんも情報は無し。
翠子さんの身にも、何も起きていない―――
「とりま、あっちの情報を聴くしか無いっすね」
盗聴器用のイヤホンマイクを付ける。
『雷都君?どうしたの、考え事をして』
汐莉の声が聴こえる。
東雲雷都、二期生だったが副隊長に抜擢されたっけか。
『実は……翠子さんとの見回りで、俺達を狙った輩が居たんです。それがどうも気になって』
その言葉に、珠希は疑問を持った。
天黑にずめ以外で、《メージェント》を狙ったのか?
それも、自分が見ていないところで彼女が狙われたなんて。
(唯一の救いは、副隊長と一緒で良かった事っすかねぇ)
そう考え事をしながら、聴いていると―――
『……これ、もしかして《反組織部隊》一員じゃないかしら』
と、汐莉の声がした。
(……!?)
汐莉の言葉で、目を見開いた。
『ノーウェイト?』
『反組織部隊と書いて、ノーウェイトって呼ぶ所だ。秘密が多い組織だと聞いているが、なぜそこの名が?』
そう会話が続く。
『……あそこに、「突然変異以外の情報を無かったことにする術」を持っている奴が居るのよ、幹部クラスに。それの仕業が高いわね。ひとまず、剛条寺巡査部長と仁川刑事部長に……話を通しておく。言伝ての詳細は明日、話すわ』
汐莉のその言葉で、会話が途切れた。
▫▫▫
「はあ、大事になったっすね」
刑事部長室の会話、その後の会話を続けて聴いた珠希は呟いた。
一期生の過去、そして彼女から告げられた真実。
彼女に関しては、自分が狙われるって分かっていて『出させてください』と伝えた。
自分には、到底『出させてください』とは言えない。
それに、汐莉や詩乃が止めるべきだったはずだ。
『その時は、自分の腹を切るだけよ』
と、汐莉の言葉を思い出した。
全ての責任を自分で背負うような発言だ。
もっと、いい方法で片付ける手立てはあるはずなのに。
しかもこの話は、一人で背負うには大きい。
(とりあえず、やるべき事をやるしかねぇっすね……)
今は、彼女の保護が最優先だ。
鍵屋の仕事を減らして、見守る事が重要だ。
その時、電話がかかった。
電話の相手は、ゾルファーだ。
『やあ、タマキ君。例の件はどうだと、上の人間が言ってきてね』
「丁度良かったです、実は……」
さっき聴いた話を、ゾルファーに伝える。
『〈ウェイト〉の末端が直々に攻撃を仕向けた、か。これは注意しないといけないな』
ゾルファーはそう言う。
「ええ。それは僕も考えていました……件の方を優先的にします」
珠希はそう返す。
『情報、ありがとさん。報告しておくよ』
「はい、よろしくお願いします」
そこで電話が切れた。
「やれる事は、しっかりと」
そう呟くと、やりかけの仕事に手を出した。