第3話
「……今日は、三期生も含めて天黑にずめの確保っすか。大丈夫っすかねぇ」
イヤホンマイクをし、バイクを走らせながら珠希は呟いた。
▪▪▪
今朝の事だった。
刑事部長室の盗聴器の内容を聴いていたところ、天黑にずめの事が話に出たのだ。
天黑にずめ、『自分が殺めた死に人を操る術』―――
手配格5であり、なかなかにやべぇ奴だって事は知っている。
どうやら彼女は仮釈放の時に、警備に配属していた私服警官を死なせたとの事。
その後、汐莉に渡したブローチから三期生も含め確保という話を聞いたのだ。
(こりゃあ、僕っちも個別で探さなきゃいけないっすね)
万が一の為に、翠子さんの保護という目的がある。
仕事の合間に数々の場面を見ているが、上手くやっていると珠希は感じている。
ただ、今回は違う。
『最凶のレベル5』と言われている奴が相手、最悪の事態を招く可能性がある。
……それならば、自分も出て確保をする方が安全だ。
『後輩には、死なせたくないのです!』
外へ出る前、ふと汐莉が言った言葉が過る。
(汐莉さんも、本当によう健気にやってますよねぇ……)
そう思いつつ、珠希はバイクに股がった。
▫▫▫
『こちら、三期生。西東京市で、天黑にずめと、戦闘中。応援願います!』
イヤホンから、そう聞こえる。
『二期生のみんな、にずめが出たのは東伏見公園付近よ』
その直後、汐莉の声がする。
三期生が、対峙しているってことだ。
今居る場所から、東伏見公園の方面に向けて走り出した。
(間に合ってくれ……ッ!)
▪▪▪
東伏見公園に着いた。
「……間に合ったか?」
遠目から見ると、二期生もどうやら合流したようだ。
(僕も行くべきか?)
珠希が行こうとした時だ。
「あんた、これ以上仲間を傷付けないでいただけるかしら?」
その声は汐莉だ。
(そういや、汐莉さんも出るって小声で言ってたな)
出る幕じゃない、そう珠希は悟る。
「私の突然変異、忘れたとは言わせないわ」
「イッ……!?」
にずめは汐莉に投げられる。
「天黑にずめ、確保!」
▪▪▪
「ふぅ、何とかなったっすねえ」
事が終わり、珠希は家に帰った。
(しかしまあ、どうして天黑にずめが……)
ずっと気になっている事―――
どうして私服警官を死なせ、《メージェント》を狙ったのか。
(これは、裏がありそうっすね)
付けたままのイヤホンに耳を傾ける。
『汐莉殿、詩乃殿……話があるのだが』
この声は、剛条寺巡査部長だ。
『なんでしょう、剛条寺さん』
汐莉が言う。
『これを見て貰いたいのだが』
一瞬の沈黙の後、
『……手紙の最後の印、これ《反組織部隊》じゃないの』
汐莉が静かに言う。
『まさか、彼女に接触していたなんて』
詩乃も言う。
(おいおい、マジかよ)
その会話を聴いて、珠希は冷や汗をかいた。
まさか、《反組織部隊》が絡んでいたなんて。
(これは一応、報告した方が良さそうっすね)
珠希は、直属の捜査官であるゾルファーに電話をする。
『やあやあ、タマキ君。どうしたのかね』
少し低めの声が聴こえた。
珠希は事情を話す。
『あー、そうかい……分かったよ、ジョン氏に話を通しておく』
「よろしくお願いします」
『あいよ、また報告を頼むよ』
そう言って、ゾルファーは電話を切った。