第2話
次の日、珠希は汐莉の所へ赴いた。
彼女が三期生の隊長を任された、と聞いたからだ。
(しっかしまあ、日本の《メージェント》に来るの久しぶりっすねぇ)
警視庁裏にある《メージェント》の建物をまじまじ見ながら、珠希は思う。
「……あら、珠希君?」
ふと、声を掛けられた。
呼ばれた方を見ると、汐莉が資料を抱えながら立っていた。
▪▪▪
「久しぶりじゃないの、元気だった?」
手元の資料を警察の方へ届けたあと、《メージェント》の中庭で汐莉が珠希に言う。
「ええ、まあ。なんとかやってますよ」
一期生の汐莉と二期生の詩乃、そして例の抜けた奴―――
三人の事は、以前からの顔見知りである。
「汐莉さんこそ、指揮側に移るなんて思わなかったすよ。てっきり、離れただろうと思って」
そう珠希が言うと、汐莉は少し俯く。
「どうしても、アイツを捕まえたくて……」
「……え?」
珠希がそう返すと、汐莉は再び目線を戻す。
「ごめん、何でもないわ。まだ私は、現場に立ち続けるのが一番と思ったからよ」
(やっぱり、奴のことまだ気にしてたんすねぇ……)
「あの、汐莉さん」
「ん?何?」
珠希は懐から小さなブローチを取り出して、汐莉に渡した。
「これは?」
汐莉が聞く。
「自分からのお守りっす。災難が起きないようにって、思って」
「本当?いいの、これ」
珠希は頷く。
「ありがと、珠希君。それじゃ、戻るわね」
ポケットにブローチを入れると、中庭を出た。
▫▫▫
(……ふう、無事に渡せたっすね)
汐莉の後ろ姿を見ながら、そう思う。
実は、あのブローチには小型のマイクが仕込まれている。
内部の事情を得るために、敢えて仕込んだのだ。
(汐莉さんには申し訳ねぇっすけど……と、もう一個やらなきゃいけねぇっすね)
珠希は《メージェント》を出て、家の方向へ向かった。
▪▪▪
その日の深夜、珠希は警視庁の方に居た。
(確か、ここら辺に……)
警視庁で有事の際に、避難経路の出口があるとされる扉があるはずだ。
(あった、あった)
建物の裏側のとある場所だけ、壁と若干色が違う。これが出口の扉だ。
ドアノブは無く、専用のリモコンで開く仕様だ。
――しかし、自身の変異なら一瞬で開けられる。
ドアに手を触れると、ゆっくりと開いた。
「入りますよっと」
珠希は、中へ入った。
▫▫▫
刑事部長室に、珠希は潜入した。
上からの指示で、情報収集の為に盗聴器を設置するよう指示されたからだ。
(やってること、丸っきり犯罪じゃないっすか……んまあ、FBIのお偉いさんの言うことにゃあ逆らえないっすけど)
見えない所に、盗聴器を設置する。
「……よし、完了っすね」
部屋を出ようとした時だ。
珠希は部屋の外から、人の気配を感じた。
(マズイ……ッ)
咄嗟に、机の陰に隠れる。
扉の開ける音がし、ライトの光が差し込む。
「刑事部長室、異常なし」
そう男性の声が聞こえたかと思うと、扉が閉まった。
(警備員さんか、危なかったっすねぇ……)
もう少し詳しく調べられたら、一溜りもなかった――
そうそうに撤退しよう、そう珠希は立ち上がりその場を離れた。