第1話
アメリカ某所にある、FBI《メージェント》本部。
そこに、白賀谷珠希の姿があった―――
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「……は、日本の《メージェント》に新しい人が入るのですか」
珠希が言う。
「ああ、若い世代を取り入れたいとの事で、らしいが」
ジョンが返す。
「それで、僕に何か用事でも?」
ジョンは懐から紙を一枚取り出すと、目の前の机に置く。
その紙には、ある人物のところに赤ペンで丸印が囲まれている。
「向こうの三期生です?」
ジョンは頷く。
紙をまじまじ見る。
……囲まれている名前は、『塩小路翠子』という人物だ。
「彼女がどうしたんですか」
珠希が言うと、ジョンはゆっくり口を開く。
「彼女は、〈ウェイト〉の輩と関わりがある」
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「……どーいう事ですか」
〈ウェイト〉とは、日本で言う《反組織部隊》。
彼らは日本で突然変異を悪用している、大きな集団だ。
背景は少し知っているのだが、それがどうして―――
「彼女の名前を見て、何かイヤな気がしてな……俺の能力を使ったんだ。そしたらな」
珠希は唾を飲み込む。
「……彼女の母は既に亡くなっているのだが、実は〈ウェイト〉トップの姉なのだ」
「!?ど、どうしてそんな方を!」
珠希の驚き方を見て、ジョンは苦笑いをする。
「……向こうの警察は、知らないのさ」
「知らないって、どういう事っすか」
聞くと、ジョンは椅子の背もたれに寄りかかる。
「どうやらな、突然変異持ちの犯罪者相手に弁護士活動をしていたそうだ。それで、変異持ちの家族に危害を及ばせない為にも、家族構成は非公開にして旧姓で活動していたのだ」
なるほど、と珠希は思った。
何かあるかもしれないという危惧から、情報を隠したのか。
……道理で知らない訳だ。
「で、僕にどうしろと」
ジョンは机の方に体を向ける。
「万が一の為、彼女に危害が出るようなら保護を頼む」
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珠希は数日ぶりに、事務所兼家へ帰った。
作業机に、荷物を置く。
「……はあ、翠子さんの保護を頼みたい、か」
椅子に座ると同時に、そう呟く。
ふと、郵便受けにあった新聞を取る。
一面の小さな枠に、『《メージェント》三期生、犯人確保のお手柄』と書かれている。
他ページに飛ばされていたので、その部分を開く。
そこには、『彼女と相方が活動初日に突然変異を使用した窃盗犯を逮捕した』という旨が書かれていた。
「ほう、初日にか。案外良いんじゃねぇっすかね」
そう言い、新聞を荷物の横に置いた。