第10話
珠希は『玉座』戸呼ばれる部屋に着いた。
死角から、そっと様子を見る。
(……っ!?)
彼女……塩小路翠子が、奴と対峙している。
詩乃も居たが、彼の攻撃を受けたようだ。
―――明らかに、彼女側が不利だ。
(こうなったら!)
煙玉を出して、発煙線を引き抜く。
両方に割り入るように、投げ込む。
煙が出た瞬間、珠希は中へ割り込む。
「てめぇ!これ以上、姉の子に手を出すな!」
「誰だ、貴様」
奴がそう聞こえると同時に、煙を払う。
「……FBI特別捜査官の、白賀谷珠希さ」
▫▫▫
「FBIの、特別捜査官?」
後ろから、翠子の声がする。
「アメリカ本土では、《メージェント》はFBIの管轄下にある。僕はそこに所属しているのさ」
そう返す。
「貴様……どうしてここに」
奴は声を震わせながら、言う。
明らかに、自分の登場で困惑しているのが分かる。
「そりゃ、FBIのお偉いさんからの指示さ。それと、テイト……いや、三島武瑠。さっきも言ったが、そこの娘子はあんたの姉の子で、塩小路翠子さんと言うのさ」
「……んなもん、信じられるか。俺には、親族は姉しか居ねえ……」
そう奴が返すと、拳を振り上げながら翠子に向かって走る。
(マズイッ)
そう思って割り込もうとした瞬間、自分が入ってきた所から三島あけみの姿が見えた。
(もしかして、あれは……!)
そう思うのも束の間、彼女が翠子の目の前まで走っていく。
そして、目の前に立ったかと思うと
「あんた、いい加減、目を覚ましなさい」
と、言った。
この声で、ハッキリと誰かが分かった。
―――汐莉が、彼女になって拳を身体で防いだのだ。
「グッ………」
汐莉の姿に戻った瞬間、血を吐いて倒れた。
「隊長……!」
「……ごめんね、翠子さん。私には、これしか、出来な……」
そう言い、汐莉は意識を失った。
▫▫▫
(畜生、僕が居ながら……!)
来てください、と伝えた自分が馬鹿だと感じた。
「……あんたを、許さない」
そう、翠子の声がした。
自分一人ではない、ここに居る皆が思っている事だ。
(……だったら)
翠子の側に寄る。
「塩小路さん、助太刀しますよ。ただ、ひとつだけ気を付けてください。彼の『コピー』の変化は、身体か術に手が触れると発動します」
そう言うと、彼女は頷いた。
汐莉に関しては、一応詩乃が着いている。
「貴様ら!いい加減、俺様の野望を壊すな!」
奴は翠子に向かって攻撃を仕向ける。
それを、二人は避けてかわす。
「『スクリュー・ウォーター』!」
翠子が術を出した瞬間、奴は避けたがその水が奴の身体に触れた。
「能力、コピー」
そう、奴が呟く。
(最悪を想定……して)
二人の攻防を見ながら、珠希は拳銃に手をかける。
その時、翠子が片手で壁を作りながら攻撃を仕向けた。
奴の能力は、本人よりも単調になる。
………それを見越して、やった合わせ技だろう。
その攻撃が、奴に当たった。
明らかに想定していなかったのだろう。
「白賀谷さん、今です……っ!」
翠子の言葉に頷き、珠希は瞬時に奴に向かって走る。
目の前で飛び蹴りを喰らわせた。
「……グッ……!?」
倒れかかる奴に、珠希は手錠をかける。
「テイトこと、三島武瑠。確保!」
▪▪▪
その直後に、ぞろぞろと警察官や他の《メージェント》が玉座にやってきた。
詩乃の指示で、倒れた汐莉に救急要請をする。
「これはこれは、珠希君じゃないですか」
丁度、顔見知りの警官が話しかけてきた。
三島武瑠の身を渡しつつ、事情を話す。
「なるほど、お疲れ様でした」
そう警官が言うと、彼の身を引きながら去っていく。
ふと天南地高校の二人組と目があった。
珠希は、二人に近づく。
「……塩小路さん」
「なんでしょう」
「お手柄でしたよ」
そう言うと、彼女は首を少し横に振る。
「でも、白賀谷さんが来なかったら……」
手を横に降りながら
「僕っちは、自分の仕事をしただけっすよ」
と、返した。
―――こうして、一連の件は終わりを告げる。