本当のエース
8回裏、豊信学園の攻撃はあっけなく三者凡退、何なら3人とも三振で終わった。
相手の投手江夏の前に反撃も諦めモードが漂う豊信学園。
そんな中、豊信学園のベンチに動きがあった。
「監督、御無沙汰してます。マウンドに上がりますよ」
監督に話しかける男の背番号には1という数字は刻まれている。
「お……御前さん、本当に投げられるのか?」
「大丈夫です、さっきの感覚ですけど」
「OK、解った。頼むぞ、エース」
「豊信学園、投手が代わりまして、ピッチャー佐々木君、ピッチャー、佐々木君」
9回表、上田東の攻撃が始まる前にウグイス嬢が選手の交代を告げる。
「ただいま」
エースはマウンドに登ると、マウンドに集まるメンバー達に挨拶をする。
「おせえよ、エース。何時まで待たせんだよ」
主将の坂本が佐々木の頭を軽く叩き、周りのメンバーの顔が和らぐ。
その一方、大城は険しい顔で佐々木に問い掛ける。
「御前……大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃなきゃ上がんねえよ、さっきそこのお前とアップしたし。もっと喜べよ、念願のエースが戻ってきたんだぜ?」
「御前、うちの部員をどこぞの野球ゲームのモブキャラ呼びやめろ。嗚呼、嬉しいよ。勝つ前に切望のエースが来たからな……まあ、うん、頼んだぞ」
大城は佐々木の胸をグラブで叩き、自身の定位置に戻ると同時に他の内野陣も戻っていく。
彼奴、戻ってきたのはすげえ嬉しいけど、大丈夫なの?そもそも投げられるのか?
とりあえず、外角低めストレートで様子見るか……。
エースの復帰の初球は復帰後なのか解らない綺麗なストレートが外角に決まった。
ただコントロールの面で大城が要求していた低めの位置ではなく、高めに浮いている。
復帰後でこのボール放れるって化け物かよ。
ただコントロールは甘いな。致し方ないけど。
今日は変化球よりストレートで押していくか。
やっべ、コントロール浮いてんな。
ただ一応、投げられた。
痛みは解っていたけど、もう無い。
大丈夫、そう、大丈夫だ、大丈夫、大丈夫……。
佐々木は自身に言い聞かすように、大丈夫、という言葉を頭に浮かべる。
この回、全てストレートで打者を圧倒して、三者連続三振で締める。
復帰後初登板とは思えない投球をやってのけた。
豊信学園の最後の攻撃を前にナインは円陣を組む。
声を出すのは主将の坂本だ。
「エースが戻ってきて、ちゃんと結果出したんだ。俺達がこのままな訳無いよな。意地を見せるよ。絶対に勝つ!さあ、行こう!」
「おう!!!」
佐々木が戻ってきたんだ、俺がここで絶対に打たないと男じゃねえだろ。
「9回裏、豊信学園の攻撃はバッター4番キャッチャー大城君」
「よっしゃあああ!!!絶対に打つ!」
自身の名前をアナウンスされると雄叫びを上げ、打席に向かう。
1球目はインハイ高めのボールが来て、ストライク。
2球目、再び同じようなボールが続く、手が出せない大城。
やっぱ相手の投手もエグイな、手が出ねえや。
まあ、次はきっと決め球のチェンジアップが来るはず。
よし、狙い通りにきた!
3球目、予想通りに鋭いチェンジアップが外角低めに来た。
これを大城上手く、ミートして、逆方向であるレフトフェンスに当たり、二塁打となる。
「よっしゃあああ!!!続け!岡本!!!」
大城は2塁に到達すると思わず上にガッツポーズ、岡本を指差して、思いっきり叫ぶ。
うるさい、解ってるって。岡本は冷静に呟くと打席に立つ。
そして、主砲は初球で仕事をした。
最高の結果だった。
インハイにホップするストレートを思いっきり振り切り、バックスクリーンへと運ぶ。
完璧な打球でサヨナラを決める。
ナインはホームベースに集まり、練習試合と思えない、まるで甲子園の決勝のような賑わいがそこにはあった。
相手ベンチにいる監督は苦笑を浮かべ、エースで打たれたならしゃあない。相手は本当のエースなんやな。と呟いて、周りを整理し始める。