今年のスターは
大城のグランドスラムで4点を先制をした。
次の打者岡本は歩かされるが続く秋広が三振、長野がゲッツーとなり、初回を終える。
「なあ、次の回からお前、放れるか?流石に此処で松井を潰したくないんや。頼むわ。江夏。おおん」
上田東の監督は隣のいる背番号1に声をかける。
「岡田さん、ええですよ。ちっと肩作って来ますわ」
背番号1を背負った男は監督に目を合わせずとも、右手でグローブを手に取り、投球練習をするためにベンチを出る。
その様子を見る否や、グラウンドに視線を移し、にやりと笑みを浮かべて呟く。
「うちのエースはびっくりするで、去年の1年のスターは佐々木かもしれんが、今年は江夏や」
2回表、上田東の攻撃はサードゴロ、ファーストゴロ、セカンドゴロと直江は三者凡退に抑えた。
その裏、上田東の投手が変わる。
「上田東の投手交代、松井君に代わりまして、ピッチャーは江夏 慶君、ピッチャー江夏慶君」
「相手、もうピッチャー変わるのか」
大城はマウンドに上がっている左腕に視線を移して呟く。
「そりゃあ、此処で自信を無くしたくないでしょ」
坂本は大城の呟きを拾う。
この回の先頭打者の丸の打席。
江夏は初球にいきなりインハイにストレートを投げ込む。
丸も流石に手を出せない。
2級目はアウトハイにストレートに放り投げ、追い込む。
3球目にカーブをインローに投げ込む。
切れ味の鋭いカーブに圧倒される丸は三球三振に屈する。
その後の直江、坂本も三振を献上して初回と売って変わり、この回はあっさりと攻撃を終えた。
江夏が勢いをつけたのか上田東の攻撃は犠牲フライとホームランで2点返す。
3回表を終え、4-2となった。
「ピッチャー代わってから相手に勢いがついたな、直江が踏ん張ってくれて助かった」
原は苦笑いしながら呟く。
「ほんとにそうですよね。あのピッチャーはやばいですよ、次も打てるように頑張りますよ」
2番の菊池がセカンドゴロに倒れると、大城がネクストバッターボックスに向かう。
「ほら、見てみ。上田東が立ち直っただろ。逆転されるのも時間の問題だろ」
佐々木は守野にグラウンドを見ながら話しかける。
「まだ2点じゃない」
「今はな、でも今の流れはどう考えても上田東にあるだろ。江夏って奴が流れを完全に変えたな」
その後、中田、大城も倒れ3回が終わると。上田東が5回と7回に1点ずつ加え、同点にされる。
問題は8回だった。
直江が完全に上田東打線に捕まり、クリーンナップにバックスクリーン3連発を食なってしまう。
「翼、逆転されたな。俺の言った通りに」
溜息をついて守野は頷きながら呟く。
「こうじゃなかったんだよ。私の希望は。うちが勝って、大輔が復帰して、私がマネージャーになって、甲子園の決勝で歓喜の輪に入るのよ」
「お前の希望なんか知らねえよ」
佐々木はそう返すと立ち上げって、何処かへと歩き出す。
「え、大輔、何処に行くの?」
「便所だって」
「そう、行ってらっしゃい」
「おうよ」