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お兄ちゃん達に任せなさい

「監督、今日の上田東戦、俺を1番で起用してください」

アップを終えた大城は原に自身の希望を伝える。

「いきなり、どうした。お前さん、お前さん自身がよく理解していると思うけれど、捕手が1番を打つというのは負担が大きすぎやしないか」

「大丈夫です。やらせてください。彼奴に賭けを申し出たんですよ、俺がホームラン打って勝ったら佐々木が戻るって言う……だから俺にチャンスを下さい」

「なんだって?佐々木戻って来んだったら俺も頑張らないとな……任せろよ。だからお前は4番打ってくれよ、そっちの方が勝てますよね。監督」

2人の話に割って入るのは今チームの主将坂本弘和(さかもと ひろかず)

「そうだな……大城、お前さんはお兄ちゃん達に任せてホームラン打つ事、そして投手をリードする事を考えなさい。5番はうちの頼れる4番岡本にすれば、お前さんに勝負して貰え易くなる。そして、坂本、菊池、中田でチャンス作って貰って、お前さんが返せば大量得点を狙えるだろうさ。お兄ちゃん達も弟達の為なら奮起しなくちゃな。よし、じゃあ、皆を集めてくれ、坂本」

原は2人の思いを嬉しく思えたのか、にっと笑いながら大城に諭すように話せば、坂本に部員達を集合させるよう指示を出す。



「という訳でお前さん達、大事な仲間を連れ戻さなきゃ我々はいけないわけだ。そろそろエンジン着けてこうぜ、このまま冷めた儘のお前さん達じゃないだろ?お前さん達はやれば出来るよな」

部員が集まると、大城が佐々木が戻る賭けをした事、その内容を伝えた上で士気を高める原。

そんな原の言葉に部員達は言葉も気持ちも応えるように今チームになって1番の声の大きさで返事する。

「はい!!!」

部員達の返事見て、心強く思ったのか思わず原は頷き、今日のスタメンを読み上げる。


スタメンは下記だ。


1番ショート坂本 弘和 3年

2番セカンド菊池 敏久(きくち としひさ)3年

3番ファースト中田 貞治(なかた さだはる)3年

4番キャッチャー大城 悠介 2年

5番サード岡本 道大(おかもと みちひろ)2年

6番レフト秋広 佳範(あきひろ よしのり)2年

7番ライト長野 治康(ちょうの はるやす)3年

8番センター丸 諒(まる りょう)3年

9番ピッチャー直江 千尋(なおえ ちひろ)2年


発表し終えた頃には上田東の野球部が着いていた。

挨拶を終えると上田東のウォーミングアップが始まる。


「あのって松井 進(まつい すすむ)ってピッチャー、チェンジアップえぐくね」

坂本は相手の投手の投球練習を見ながら大城に話し掛ける。

「やばいっすね……めっちゃ落ちるし、ストレートとの緩急さ」

「これは気合い入れないと打てないわ」

「ですね……頼みますよ、お兄ちゃん(先輩)

「全く……キャプテンを弄りやがって余裕あるやん。決めて来いよ、旦那を連れ戻して来い」

「解ってますよ」

お互いは笑いながらグータッチを交わす。



「そろそろ試合か……賭けちまったならしゃあないし。というか、何でお前がここに居るんだよ。」

佐々木は仲間達がいる一塁ベンチ側のやや外野側に座るも、隣には予想外の人物がいた。佐々木の幼馴染の守野 翼(かりの つばさ)だ。

「そりゃあ、居るでしょ。幼馴染の復帰するかどうかの試合だよ?」

「お前には関係ないだろ」

「あるよ、だって大輔が戻るなら、喝を入れられる人間がいないとじゃん」

「監督がいるだろ」

「解ってないなあ。喝と癒し、両方提供出来るのだよ。私は」

ちっち、と人差し指を立てて左右を揺らす。

「喝は兎も角、癒しって云う言葉を辞書で調べて来い」

「はあ!?辞書の角でぶん殴るぞ!」

「怖いこと言うんじゃねえよ……お前って本気でやりそうで怖いわ。てか、提供も何も関係ないのに提供もクソもないだろ」

「あるって、だって大輔が復帰するならマネージャーになるし」

「あ、そー……はあ!?」

驚くと飲んでいたお茶を吹き出す。

「何よ?……あ!汚ない!」

「お前が驚かすからだろ」

「大輔の監視役として当然」

「監視役ってお前……」

溜息をこぼす佐々木。

「ほら、始まるよ。試合」

守野は佐々木の溜息はスルーして試合を観よとグラウンドに視線を向ける。


「1回表上田東の攻撃は1番ショート高寺 敬(たかでら たかし)君」

うちのグラウンドで練習試合する際は放送部がウグイス嬢を務める。

直江の初球はストレートをアウトローへ狙った通りに放り込む。

打者の高寺は様子見だろうか見逃す。

2球目はインハイへストレート、こちらも見逃し2ストライクと追い込む。

3球目、外角の低めストライクからボールへと落ちるフォークを投げようとするも、すっぽ抜け、やや真ん中に浮く。

流石は上田東打線、見逃す訳がない。

高寺は流し打ってレフト、線ギリギリの卓越したバッティングを披露すると俊足である強みを活かし、2塁に余裕で達する。

その後、直江は次の打者に犠打を決められ、1アウト3塁のピンチを作るも、3番を三振、4番にはセカンドゴロで切り抜ける。


「1回裏、豊信学園の攻撃は1番ショート、坂本弘和君」

「頼みます。キャプテン!」

こちら側の攻撃のアナウンスが流れると大城は主将に叫ぶと、坂本は振り返る事無く何も言わないが任せろと言わんばかり拳を掲げる。

相手の投手松井が投げた初球、インハイのストレートを思いっきり振り込み、鋭い打球はレフトフェンス直撃の2塁打。

続く菊池はバントと見せかけ、ヒッティングに変えてセンター前の安打となる。

坂本はホームに帰ろうとするも、外野が前進守備だっった為、3塁に留まる。

3番中田の打席、菊池はリードを大きくとり、川井にプレッシャーを掛ける。

2ボール0ストライクになった所で2塁へと走り出す、キャッチャーは外角のボール球を捕球し、迷わず2塁へ送球すると3塁ランナーの坂本はホームへ帰ってくる。

セカンドも菊池の快速でセーフとなり、見事にダブルスチールを成功させ、豊信学園が先制する。

3ボール0ストライクとなったカウントで上田東バッテリーは無理に勝負せず、一塁を埋める選択をする。

ここで本日の主役の登場である。


「4番キャッチャー大城悠介君」


「頼れるお兄ちゃん(先輩)達過ぎますって……もっと早くやってくれても良かったのに」

ネクストバッターボックスから打席へ向かう途中、先輩達の早々の活躍ににやりと笑って独り言を呟くと後ろからネクストバッターボックスに入るうちの主砲(4番)に声掛けられる。

「俺の打点は気にするなよ、決めちまえ」

「任せろ」

大城は振り向いて、親指を立てる。


満塁という場面、尚且つ、次の打者の岡本は昨年の夏から4番に座り、ホームランを量産している、それもあってか相手のバッテリーは真っ向勝負を挑んで来た。

初球はチェンジアップを外角に来る、ストライクに入っていたがタイミングが合わず見逃す。

2球目もチェンジアップ、今度は内角低めだ、こちらも見逃すがストライクゾーンから外れる。

3球目アウトハイにストレート、あまりにも緩急があった為手が出せず2ストライク目。

大城はやべえな、と内心思いながら外角低めにチェンジアップと自身ならこう組み立てると考え狙い玉を絞る。

何と待っていた狙い玉が来た、迷わず思いっきり振り切ったバットはボールを真芯で捉え、バックスクリーンのスコアボードへと運ぶ。

スコアボードに当たる音が消える瞬間に大城は雄叫びをあげ、一塁ベンチは歓喜のあまり喜びを爆発させる。

「よっ……しゃー!!!」



「おー、凄い……これは大輔君、復帰ですかな」

守野は大城のホームランを見届けると大輔ににやりと笑いかける。

「まだ試合は終わってねえだろ、1つ目をクリアしただけだ」

「冷た過ぎない?少しは喜んであげなよ」

「上田東を舐めんなよ、どうせ終盤に本気出されて負けるよ」

「またまた勝って欲しい癖に、素直になりなよ」

「うるせえよ」

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