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第1話 扇風機とお嬢様

挿絵(By みてみん)




 やぁ俺は扇風機。そうなぜか俺は扇風機なんだ。しかもなんかへんなダンジョンらしき場所にいる。


 昼間から寝て扇風機に当たりながらニートしていたらなぜかこうなっていた。


 どうやら異世界のなんたらってやつなんだろうが誰も説明してくれないからそう思い込むしかないよな。


 薄暗いダンジョン、仄かな明るい緑の光を放つ石の壁と床。そのだだっ広い一本道に白い扇風機が放置されていた。



「なんですのこれは?」


 ほらねですのですわ系のお嬢様がきたよ。


 金髪ゆるふわひかえめドリルのお嬢様が現れた。お嬢様仕様の白い鎧を着て、不思議そうな顔で扇風機の目の前に立っている。


「レジェンダリー装備かしら?」


 顎に手をやり少し首を傾げるお嬢様。


 いえ、やっすい扇風機です。弱が強いやつです。


「持って帰るか悩むわね……」


 拾ってくれるとうれしいです。お嬢様タイプも別に嫌いじゃないんで。むしろ好きです、今好きです。品があって、美しくて、もう仕えさせてください。



「これも何かの縁ね。いいわうちの子になりなさい」


 高貴に微笑みながら左の人差し指で扇風機を指したお嬢様。


 かわいい。


「ん、んしょ! 運びづらい形ですわね……。これもここに巻けばいいのかしら、えいっ」


 ですよね。役目を終えたこいつをしまうのは一苦労ですよね。奥さん、すみません。


 床に垂れていたケーブルをぐるりぐるりと首振りつまみに巻きつけて、お嬢様は扇風機上部の取手を右手で掴みながら運んでいった。



 コツコツと足音を立ててこの石の通路を進んで行くお嬢様とそのお方に持ち運ばれている扇風機。



「ギオおおおおお」


 お、なんか来たな。魔物ってやつなんだろうけど。奥さん、すみません。


 突如現れたダンジョンの魔物、コボルト。灰色の毛並みに犬の頭を持つ人型の魔物だ。


 お嬢様の行手を塞ぐよう2体のコボルトが雄叫びを上げ駆けてくる。



「あなたはちょっとそこに居なさい」



 はーい。



 手に持っていた扇風機をそっと地に置き。

 腰に差してあった黒と金の豪華な装飾を施してある鞘から抜刀。


 お嬢様は右手に白銀の剣を持ち。



「うおおおおおおお」


 突貫。

 暗がりの中、白銀の剣刃が宙を舞う。



「ふー、この程度なら私でも問題ないわね」


 いやいやクソつよいですってお嬢様!! さっきの魔物たちバラバラの細切れですって!!


 斬り刻まれたコボルトたちは、しばらく、その身を光の粒へと還っていった。



「……私も魔法が使えたら……」


 お嬢様は少しうつむき、左の手を鎧の胸に押し当てている。


 ん……? なんかかかえてらっしゃるのかな? 魔法かぁ……でも俺は脳筋戦士タイプの方が好きだなあ。



「待たせたわね、さ、うちに帰りましょう」


 お嬢様は抜刀していた剣を鞘に納刀し、後ろを振り返り扇風機に微笑み話しかけた。



 はい! お嬢様!



 その後、嘘のように魔物とはエンカウントせずダンジョンから無事抜け出したお嬢様と扇風機。



 余計な雑魚戦がないとは神ゲーかな?



 うぅ外の光が眩しいぜ風も生きてるって感じだ。背伸びしたい気分だぜ。あ! これ扇風機ギャグになりそう……脳内手帳に書いとくか?



「サブレ、この子をカーゴに乗せてちょうだい」


「はいお嬢様」


 サブレ? なんかおいしそうな名前の侍女だな。長い銀髪に顔もはかないすらっと美人って感じでいいね。最高の出だしだな扇風機なのに。


 長い銀髪、はかない顔にすらっとした立ち姿。黒のクラシカルなメイド服を着た、お嬢様にサブレとよばれている侍女。

 そんな彼女にお姫さま抱っこで運ばれてしまった扇風機。


 おぉ、サブレ様……。


 そしてカーゴと呼ばれる魔力で走る箱に乗せられた扇風機。お嬢様とサブレもそれに乗り込んだ。


 サブレが魔力を込める。カーゴは地から少し浮遊し走り出した。


 ハンドルというよりは振り落とされない為の長く伸びた2本の鉄の持ち手に両手で掴まりサブレは魔力を流しながらカーゴの運転をしている。


 そのカーゴの後部、休めるような鉄の段差、臙脂(えんじ)色の革のクッションが敷かれた座席にお嬢様は座りその前の床に荷物のように置かれた扇風機。



「今回のアタックで手に入ったのはこの子だけね。にしてもこの子は一体なんなのかしら?」


「形は斧のように見えますが、このようなモノは見たことがありません。武器でしょうか? ダメージを与えられるようには……」


「そうよねサブレ、はぁ、まぁ次の侵攻までにはなんとか強くなって見せるわ」


「まだ猶予(ゆうよ)はありますお嬢様。私も腕を磨き必ず勝利してみせます」



 …………。え、待って? この方々は何をおっしゃってるの? 世界観がまったくわからないのだが……。




 そんな扇風機の気持ちをよそにカーゴを飛ばし街に着いたお嬢様たち一行、だが。



 ガランガランガランガラン!



 街の塔に備え付けられている警鐘が鳴る。

 いや、ソイツに鳴らされている。


「おーい人間ども侵攻タイムのじかんだぁーーーーっナッハッハ」


「さっそく始めようじゃないか人族代表よー」



「ナ!? 次の侵攻タイムのじかんはまだ先のはず……!」


「ハッハーーーー、オレがヤりたいときにヤる、ソレが侵攻タイムのじかんだーーーー、ハッハーーーー」



「くっ……なんてヤツなの!!」



 塔からドスリと地に音を立てて、お嬢様たちの前に現れた赤色の肌をした筋肉質な巨大な鬼。



 いやー、ダメだマジで頭が追いつかん。さっぱりなんだが……。なんだこのでかい筋肉質な鬼は。



「さーて、今回オレに挑戦する人族どもは誰だぁー? ん? おまえ、そこの女、ハッハーーーー、おまえの恋人のアイツは強くて楽しめたぞ、ハッハーーーー」


「くぅ……よくもシフォンを!! 覚悟しなさい魔神デスハーラー!!」


 サブレさんの恋人のシフォンとかそんなの知らないから! まじでどうなってんだこの世界はよ。



「1人目はおまえかーーいいだろう、さあ、あとふたりだ! はやくしろ人族ぅ、ハッハーーーー」


「くっ……私が出るしかなさそうですわね。この街の実力者はもう……お父様……」



「2人目も決まっタァ! メスしかいないのかこの街は、ハッハーーーー、3人目ダ! もう待ってられないぞ人族ぅ、ハッハーーーー」


 いや敵にしちゃ結構待ててるタイプだぞおまえ。



「3人目はいりませんわ魔神デスハーラー。サブレ私たちの連携でやつを倒しましょう」


「お嬢様……。必ず勝利します!! お嬢様は私が守ります!!」



「私とサブレならヤれるわ」



「はいお嬢様!!」



「3人目がいらないぃ? ハッハーーーー、おもしろいぞー人族ぅ! オレをたのしませて魅せろー、ハッハーーーー」



「バトルステージは……この街全部だぁーー! ハッハーーーー。ではいくぞー……」






「侵攻タイムのじかんダ、ハッハーーーー」

「侵攻タイムのじかん! シフォンの仇!」

「侵攻タイムのじかんですわ……!」



 し、しんこうタイムのじかん……なのか?




「最初から全力で行きます、お嬢様! ドリームチェンジ!」


 ドリームチェンジとは一時的に自身をドリームな状態にし理想の姿になり戦闘力が跳ね上がる魔法だ。


「ハッハーーーー、魅せてみろ人族ぅ」


「はあああああ!! デスハーラー、行きます!! ドリームソード!!」


 激しい光の刃がデスハーラーを襲う。

 しかし



「ハッハーーーー、なかなか良い技だったぞ人族ぅ」


 デスハーラーはサブレのドリームなソードをパンと、白刃取りするかのように両手で防いだ。



「ぐっ……」



「おバカですわね、両手がふさがっていてはコレは防げません!」



「エレガントソーーーード!!」


 サブレのドリームな幻覚に隠れつつ、サブレの後ろから接近したお嬢様は跳び上がりデスハーラーの背中に鋭い一閃を振り下ろした。



「ぐおおおおおおおおお」



 デスハーラーにお嬢様の一閃が効いたようだ。



 やったか……?




「ハッハーーーー、今のは魅せられたぞ人族ぅ、良い剣筋だが……ただその女の剣、魔力が込められてないな? ハッハーーーー、惜しかったな人族ぅ、巡ってきた勝機に焦ってしまったのかぁ?」



「くっ……やはり魔法が……」



「さあて、今のですべてかぁ? なら今度はこちらの番だぞ人族ぅ!」



「ちからあっぷ、だ! 人族ぅ」


 ちからあっぷ、とはちからがあっぷする技だ。シンプルいずベスト。



「ハッハーーーー! ハッハーーーー!」


「ああああああぁ」「きゃあああああ」



 デスハーラーの剛腕に吹き飛ばされたサブレとお嬢様。その勢いで民家に激突したサブレは気絶し戦闘不能になってしまった。


「ハッハーーーー! 人族ぅ、もろいぞもろいー」


 風を切る勢いで扇風機の置かれたカーゴまで圧倒的なパワーでぶっ飛ばされ激突してしまったお嬢様。



「うぅ……やはり魔法がないとダメなの? ……お父様……」


 いててて……お嬢様! くっそーアイツお嬢様とサブレさんになんてことしやがるんだ。チキショウ、扇風機じゃ無理ゲーだ。



「ごめんね……うちの子にしてあげられなくて……」



 お嬢様のふるえた指先が扇風機の指先に触れる。




 ────LINK────




 その瞬間ミラクル色の光とアオ色の光がはじけお嬢様と俺はつながった。



「な……なにが……?」


「お嬢様! 俺です! 扇風機の俺です!」


「せん、とぅーき……?」


「かわいい。……じゃなくて! とにかくその白い斧みたいなのが俺です! お嬢様と今しゃべってます!」


「えぇ? うちの子が?」


「そうですうちの子です! どうやらお嬢様のパワーアップイベントみたいです!」


「パワーアップ?」


「こういう展開だとあるに決まってますよ! 行きましょうお嬢様! うおおおおおおお」



 ミラクル色とアオ色の混ざったケーブルが俺とお嬢様を繋ぐ。



「なんですのこれ……魔力? あふれてくる! でもこんなの……」


「魔力じゃないですよ! ニートに魔力なんてありません! きっと高貴なお嬢様パワーです!」


「お嬢様パワー……。ふふ、なんでもいいですわ! チカラがあふれてきますわーー」



「さぁ、やりましょうお嬢様!」



「ええ、うちの子行きますわーー!」




「ハッハーーーー、なんだこれはなんだこれは、チカラを感じるぞー、もうイチャイチャタイムは待ってられないぞ! 人族ぅ! 来るのだーー、魅せろーー!!」



「だから待ちすぎだっておまえ、まあいいやじゃあ、ここからがほんとの……」





「侵攻タイムのじかんだ!」

「侵攻タイムのじかんですわ!」


「侵攻タイムのじかんダァ! 来い! 人族ぅ! 魅せてミロその光をーー!」



「ちからあっぷ、ちからあっぷ、ちからあっぷ。これがオレの本気ダァーー、ハッハーーーー」



「お嬢様、速攻で終わらせましょう」


「ふふ、ええ、うちの子。あなたのイメージびしばし来ましたわーーーー」



「行くぞ、強!」



 風が巻き起こる、首を下に向けた俺はお嬢様をその身に乗せ空へと運ぶ。


「ハッハーーーー、ここで避けるなんてマネはしないぞー人族ぅ! ムカエウツ、ハッハーーーー」



 上空から舞い降りてくる。螺旋のミラクルとアオ。



「これがお嬢様と」

「うちの子の」



「スパイラルエレクトリックファンエレガントソーーーード」「ですわーーーーーー」




「ム、ムカエ、ぐおおおおおおおおおおお」


 ミラクルとアオのエレガントな一閃がデスハーラーを両断する。



「魅せられたゾ……人族ぅ……ハッハーーーー……」


 魔神デスハーラーは塵となり風に運ばれていった。



「ハァハァ……勝てたのですわ……うぅ……やりました……お父様」




「お嬢様……」




「うう……見苦しいところをお見せしましたわ……。……うちの子、これからも私にチカラを貸してくれるかしら?」



「はいお嬢様。俺があなたの魔力、いや、お嬢様パワーになります!」



「ふふ」




 運命のケーブルでつながった扇風機とお嬢様。



「さあ、ここからが侵攻タイムのじかんですわ!」


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