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7話「重大なニュース」


あの雨の日以来、院長様に見つからないように、こっそりと部屋でリコルヌを飼っています。


リコルヌと一緒に眠ることが習慣になりつつあります。寝る前にリコルヌのもふもふを堪能しないと眠れないかもしれません。


エミリーは「院長様に見つかって大目玉を食らっても知りませんよ」と言いながら、食堂からミルクやハムを調達してきてくれます。


私がいないときに、猫じゃらしでリコルヌと遊んでいるようです。エミリーがリコルヌと仲良くなってくれて嬉しいです。


嬉しいのですが少しだけ胸がもやもやします、リコルヌを最初に見つけたのは私なのに、一緒にいる時間が少ないのです。


これが嫉妬という感情でしょうか? 初めて知った感情に戸惑いを隠せません。


公爵家のためなら誰と結婚しても、どこに行っても、そのために何を失っても構わない……そう思って生きてきたのに、リコルヌと出会ってから変です。


リコルヌだけは誰にも渡したくありません、私はいつからこんなに我が強くなったのでしょう?





リコルヌを飼い始めて二週間、修道院に来て一カ月ほど経過しました。


その日は授業がお休みだったので膝の上にリコルヌを乗せて自室で編み物をしていました。


するとエミリーが血相を変えて部屋に飛び込んできました。


「お嬢様、大変です!!」


「どうしたのエミリー? も、もしかしてリコルヌを飼っていることが院長様に知られてしまった?!」


大変です! リコルヌが取り上げられてしまいます!


私はリコルヌを抱きしめて椅子から立ち上がりました。作りかけ編み物が床に転がります。


「リコルヌが取り上げられたらそれはそれで大変なのですが、今回は別件です!」


「別件?」


「王太子べナット様が廃太子され、国王陛下が王弟ウィリアム様に王位を譲られました!」


「ええっ!?」


私が修道院にいる間にそんな大事件が起きていたなんて……。


「お嬢様を陥れた男爵令嬢とその父親は処刑されたそうです」


「まぁ……」


男爵令嬢のレニ・ミュルべ様、進級パーティーで一度お目にかかっただけでしたが、私と同じ年なのに処刑されたなんて……お気の毒に。


「バイス公爵閣下が王太子派から王弟派についたことが、今回の騒動の発端だったらしいですよ」


「お父様が……?」


「旦那様は口ではあれこれ言いながら、お嬢様の心配をなさっていたのですね。お嬢様の修道院行きを決めたのも、もしかしたらこの度の騒動にお嬢様を巻き込みたくない親心かもしれませんよ」


「そう……なのかしら?」


父から貴族の令嬢として役に立たないと思われ、戦力外通告を受けたと感じていたのですが。


「きっとそうですよ! この度の件が全て片付いたら、お屋敷からお嬢様のお迎えが来ますね! 良かったですねお嬢様、また公爵家へ戻れますよ!」


「実家に戻る……?」


「また綺麗なドレスや豪華なアクセサリーを身に着けられますよ、うきうきしませんか?」


エミリーは楽しげに話しているが、なぜか私の心は全く浮かない。


「広いお部屋、立派なシャンデリア、天蓋付きのベッド、シェフの作ったお料理、オートクチュールの一点物のドレス、お嬢様だって懐かしいでしょう?」


「あまりそうは思わないわ、質素だけどこの部屋の方が落ち着くし、ここでの生活が気に入っているの」


「簡易のベッドに粗末なテーブルと椅子しかないこの部屋が、公爵家の豪華な部屋より良いとおっしゃるのですか?」


「ええ、夜は少し冷えるけどリコルヌが来てからはとても暖かいし」



「ローブ・ア・ラ・ポロネーズ、ローブ・ア・ラングレーズ、ローブ・ア・ラ・フランセーズ、ヴァトー・プリーツ、フィシュー、ベルト式のハイヒール、東洋風の扇子、布張りのフォーマルハット、ブリリアントカットのダイヤモンドのアクセサリーなどが恋しくないんですか?」


「あまり」


ダイヤモンドとはいえ石、大きな石のついたアクセサリーは肩がこります。


ドレスの下に着るコルセットやパニエなどの整形下着にはうんざりしています。


「ローストビーフや、サーモンのカルパッチョや、子羊のソテーや、真鯛のスープや、桃のタルトや、レモンパイが恋しくないんですか?」


「うーんあんまり、ここのお食事も美味しいわよ」


「修道院の食事は、サンドイッチと豆とじゃがいものスープばかりではありませんか」


「慣れると美味しいわよ」


サンドイッチに入っているハムはリコルヌの大好物だし、スープに使う牛乳もリコルヌの大切な飲み物だ。


「お嬢様は変わっていらっしゃいますね」


「そうかしら?」


家を出るときは、貴族として戦力外通告を受けたことが悲しかった。


私にはもう政略的な価値もないのかと落胆した。


でも今は……。


「エミリーがいて、ちょっと厳しいけど根は優しい院長様がいて、親切な修道院の方々がいて、明るくて元気な孤児や街の子たちに囲まれて、私はとても幸せなの」


「ニャー」


リコルヌが不満そうな声を上げる。


「もちろんあなたも大切な者の一人よ、リコルヌ」


リコルヌの体を優しくなでると、リコルヌは満足そうにのどをゴロゴロとならした。


リコルヌは猫だから、一人ではなく一匹かしら? 細かいことは気にさないことにしましょう。


特にリコルヌは手放せません、もふもふのない生活など考えられません。







それから一カ月たったある日、父が修道院を訪ねてきました。 


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