転生! だけど、そこは……
気が付くと、あなたは、真っ暗などこか? にいた。匂いから土の中らしい。転生? え、もしかして、死んだ人の中に入った?
こっ、これわぁぁぁぁ!!!
呆然自失な、あなたは早々に息が苦しくなる。そりゃ、土の中だから当然だ。あっという間に、あなたは窒息死した。だけど、すぐに蘇生する。
そう、あなたは最強だと神は言った。決して死なない、死ねない、あなた。でも、このシチュエーションで、死ねないってことは、どういうことかな?
冗談じゃない!
このままだと、永遠に生死を繰り返すってことか! あなたは、必死で目の前にある布切れを破り、土を除けようともがいた。だけど、すぐに窒息死。十回ほど、生死を繰り返して、あなたの手は、外気に触れることができた。
雑な埋葬方法だったのが、幸いしたらしい。棺に入れられず、布切れに巻かれただけ、しかも、あまり深く埋められていなかったということのようだ。
さらに、運がいいと言えるかどうか分からないが、地上に出る直前で一旦死んでいる。だから、あなたは、綺麗にリセットされ、ほとんど傷も汚れもない体で墓場に立っていた。
夜はとっぷりと暮れていた。空を見上げれば、今日は曇り空。月も星も見えない。異世界なら月が二つあるのか? とも思ったが、今は確認できないようだ。
遠くにチャペルは見えるが目立った木もなく、芝に覆われたかなり大きな墓地のようだ。あなたが、なんとか這い出てきた所は、身寄りのない者が葬られる墓所なのだろう。近くに石碑のようなモニュメントがあるばかりで、個別の墓石はなく、芝生が剥がれた地面が数十メートル四方に広がっている。
あなたは、死体に巻かれていた布、むりやり引き裂いた布、でなんとか大事なところを隠せてはいるものの、ほぼ全裸。だが、あまり寒いとも感じないので、季節は夏ということだろうか。
《ママ、ママ……》
どこからか声が聞こえてきた。うん? 声は、あなたの耳ではなく、心に語りかけているようだ。心の声?
「ママって、私、お母さんになった覚えは、あっ!」
《そう。私は、あなたの体の元の持ち主。あなたの子供として転生するはずだったのだけど》
「私が死んだから、行き場を失ったってこと?」
《そいうことになるけれど、私も神様から役割をもらっているの》
「この異世界の知識を私が得るため? そういえば、今、この異世界の言葉で話しているわよね」
《それだけじゃないわ。私のことは、G●●gleさんだと思って》
「大賢者ならぬ、大検索!」
《ええ。詳しいことは、私も教えてもらえなかったけど、ママは使命がある。それには、ママの前世の知識が必要らしいわ》
「なるほど! 異世界転生ヒロインまんまじゃん! あなた、お名前は?」
あなたは、少し気楽になった。そして、ちょっとだけ、シメシメと思っている。私、最強で、無双してみる異世界。それは、それで面白そう。と。
《カプセラという名前だったけど、貴女は、私のママになるべき存在だった。だから、今、付け直して》
「カプサラ……。じゃ、日本式にナズナがいいかな。スミレとナズナ、なんとなく合いそうでしょ?」
《ナズナ、可愛い❤️ よい名前をありがとう。ママ……》
ナズナは、貧しい農家の娘として生まれ、親に娼婦として売られた。娼婦の仕事は、彼女にとって、とてつもないストレスだったのだろう。自ら命を絶ったということのようだ。
そんなことを、第二の人格と話していて、ふと、見ると、遠くから男が一人。なぜか、スコップを下げている。あなたを見つけると、男は全速力でこちらに向かって走ってきた。
《あっ!! 逃げて! ママ!! あれは、娼館の用心棒よ!》
「なんで、こんなところに?」
《あいつ、特殊な趣味があるの》
げっ! げげげげげ!!!!!
ネクロフィリアかいっ! ネクロフィリア、死体姦愛好者。ヤツは死んだ女、「冷たい」女に興味があったということだ。まったく間が悪い。ナズナの死体を掘り返して、事に及ぼうという魂胆らしかったが、そのナズナが生きている。慌てて、娼館に連れ戻そうとしている、らしい。
冷静に考えている場合じゃないわよ! あなた、逃げなくっちゃ、全速力で!
走って! 走って! 走って!!! 走ってぇぇぇぇ!!!
だけどナズナは前世の、あなたよりも、ずっと華奢な体。そもそも極貧生活をしていたわけで、体力もない。あっという間に、男に捕まってしまった。この男、変態ではあっても用心棒を務めるくらいだ。力は有り余っている。あなたは、何の抵抗もできず、娼館に連れ戻された。
ごめん。ごめん。そうだった。そうだった。ちょっと魂を転移させるタイミングを間違っちゃったみたい。てへ。
中世以降は、無縁仏も、埋葬していたようです。ああ、ほったらかし、風葬ではないって意味です。なので、逆に、あなたは、ひどい事になっちゃったんですけどね。
あと、変態数々あれど、作者的にはネクロフィリアが、一番、ゲロッときます。皆さんは、いかがでしょう?
そして、あなたの、スキル。ゲームやってて思うのです。リセットできるって最強! とね。いつか、必ずクリアできるわけですから。
さらに、これも異世界物、定番のガイド役でもある、ナズナちゃん登場です。単なるガイド役ではなく、すごいスキルもありますし、あなたの心へも少なからず影響を与えていきます。ナズナの命名は花言葉「I offer you my all」。ママに付いていきます、かな。