表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/154

天地創造の神

 あなたは、なにか明るい、暖かみのある空間にいた。見上げれば、どこまでも、どこまでも続く、雲一つない空色。足元は白銀に輝き、何もない虚空に、あなたは、ひとり、ポツンと立っていた。


 あれだけのことを「やらかして」しまったのだから、当然、地獄行きだろうと思ったのだが、生前持っていた地獄のイメージとは随分異なる空間だ。


 スーッと、あなたの前が人型になった。長い濡羽色の髪に漆黒の瞳。この世のものとも思えぬ、整った容姿。緋の袴に白い着物。巫女装束? 頭には金色(こんじき)に輝く冠を被っている。神様? 和風なのかっ。


「ああ、貴女、日本人だから和風にしてみたの」


「え? 神様? ですか? なんか軽いな?」


「あら。そうかしら? 神が厳粛な者であるなんて、誰が決めたの? 貴女らしくもない固定観念ね」


「いえ。それは……。って、私のことは全てご存知なんですよね?」


「ええ。もちろん。貴女、人を殺したから地獄に落ちるとでも思ったの?」


「まぁ、そうですけど」


「人標準としては合理的な考えの貴女もまだまだねぇ〜。いいこと、神は『人を殺してはいけない』なんて、一言も言ってないわ。『汝殺すなかれ』なんて、モーセの勘違いよ」


「ああ、確かに『殺してはいけない』は、旧約聖書のモーセの十戒として出てくるだけ。モーセ自身が考えたものではなく、神から授かったとされていますが、ちょっと疑わしい。本当に神の言葉なの? という疑問はありますね」


「その通り! ああ、そうだ。自己紹介が遅れたわ。ま、神様というのは、いろいろな世界で、いろんな名前で呼ばれているってこと。日本人の、貴女は、アマツカミとでも呼んで」


「天地創造の神?」


「そうね。宇宙を創り、その運用をクニツカミに任せる、みたいな?」


「ホント、その口調、軽いですよね。で、貴女が出てきたということは、私は転生するんですか? 最強とかで」


 もちろん、あなたの頭には、異世界転生物のステレオタイプが浮かんでいた。だけど、なんだろう? 微妙な違和感。


「うーーん。転生というか転移? 最強と言えば、最強だけど、神様にも守秘義務というものがあって、詳しくは言えないの。ごめんね」


 あなたの勘はとても鋭い。だから何となく分かってきた。どうも、嫌な予感がする。この神様、一筋縄では行かないような空気を纏っている気がする。


「話を戻すわ。殺すことについて、よく考えてごらんなさい。人は殺さなければ生きていけないでしょ? 神が人に殺すことを禁じたら、人類は飢えて滅亡するしかなくなるわ」


「聖書では、殺して食べてもいい家畜と、そうではない動物を区別しているのではないですか?」


「さすが。あなた、無用に教養があるわね。それは、人類の誤謬というか、思い上がり。人は、その形が神に似ているというだけ。特別な存在なんかじゃないわ」


 うん。確かに。人類だけが特別という考え方は、クリスチャンではなかった、あなたにとってストンと落ちない。


「当然のことながら、私は人に、他の生物の支配権を与えた覚えもない。断じてよ。神からみて、全ての生物は平等に決まってるじゃない。モーセに私は『仲間』を殺してはいけない、と言っただけ」


「聖書はそのオリジナルから、人が自らに都合がいいように書き直した? そして、殺していいか否かは、集団内に限定されたルールでしかなく、普遍・絶対の倫理ではないと?」


「そういうこと。だから、貴女は善行を行ったとは思わないけど、特別、ひどい罪を犯したとも考えていないわ」


「ということは。私に、やり直しのチャンスをくれるのですね? ならば。ならば。一つだけお願いがあります」


「コータのことかな?」


「はい。どんな形でもいいんです。彼も転生して異世界で再会できるよう、お取り計らいを」


「それは。そのつもり。だけど、望みには対価が必要なの。いいかしら?」


 これは……。


 あなたの嫌な予感はますます高まった。だが、あなたの唯一の友。人間らしい感情が欠落している、あなたにとって、例外中の例外。これだけは、コータだけは譲れない!!


 あなたは、覚悟を決めて言った。


「承知しました」


「今は、言えないけど、あなたを見込んで転生させていることは理解して。決して、あなたに恨みはないわ」


 えええええ! この言い方、マジ、マジ、マジぃぃぃ!!! ちょっと、ちょっと待ってくれ!


 これはヤバい、ヤバ過ぎる、とは思ったが、それすらも上回る異世界での現実。まさか、ここまでとは、さすがの、あなたも想像できなかった、わよね?


「じゃ、いってらっしゃい! 頑張ってねぇ♪」


「ちょ、ちょっとお……」


 もう少し質問しておきたかった、あなただが、アマツカミが開いた虹色のカオスに吸い込まれて行った。

 はい! 私、実は、天津神でしたぁ〜。日本の神話では、神々の総称ということなのだけど、あれは、神話、作り話。正確ではないわ。あらゆる宗教でいうところの、天地創造の神と思ってね。で、創るだけ創って、国津神に、「あとよろ」するわけ。いい加減? そんなこと、ないわよ。これでも大変なんだから。


 異世界物、お決まりの神様登場パターンです。神様の言動、おいおい、とお思いになるかもしれませんが、どでしょ? 「人を殺してはいけない」の原点を求めると、やっぱり宗教に行き着くしかないと思うのです。だけど、十字軍ってなに? モーセの十戒は「仲間を」殺すのはNGとしただけじゃね? という意味です。


 さらにいえば、撃墜王。英雄として語られることもありますが、トンデモな人殺しですよ? もちろん、良い事という立場ではありませんが、白黒、善悪と、単純には行かないのでは? そんな感じで全体が流れます。


 後書きの最初の方で、アマツカミが言っている、天津神が国津神に「運用を任せる」というところ。神話の国譲りをイメージしていますが、先々への伏線です。天津神は創れるけれど、できた世界に直接的な干渉ができない。のです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そうか。 交通事故で死んでしまったか。。。 確かに神様は殺しちゃいけないとは言っていないはず。 殺しちゃダメって決めたのは 先人たちでしょうね。 生きやすくするために、殺される心配を まず…
[良い点] 8/8 ・今日は興奮しませんでした(あたりまえ) ・転生空間が、いい意味で違います。ほんわか [気になる点] 天津神、ちょうどゲームで出たので、そのイラストでイメージしました [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ