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地獄の業火

 ある日、学校で、あの女が、あなたに言った。


「ねぇ。今度の土曜日ね。両親が旅行で不在なの」


「へぇ〜。お家でパーティーとか、するの?」


 キタぁぁ!! これは!! 神の配剤か?


「うん。彼氏とね、その友人も来てくれるわ。貴女も来る?」


「ああ、お邪魔だろうから。お料理だけ作って退散するわ」


 当然、そうさせようと思っているのだろう。いやはや。


 だが、あなたに今生最大の「幸運」が訪れたことには違いない。なんと、四人を皆殺しにできるチャンスを得てしまったのだ! あの女は、「ふん! 暗いヤツ」という笑顔で答えた。


「ありがと。いつも悪いわ」


「じゃ、お酒も準備するわね」


 間違っても、笑みをたたえないよう。いじめられている弱者を演じつつ、あなたは、欣喜雀躍していた。そして心の中で呟いた。


「回されるのを未然に防いでやるのだから、感謝しなさいよね!」と。


 当夜、あなたは彼女の家に食材を持ち込んで、かいがいしく料理を作った。ローストビーフ、パスタ、サラダ……。あなたは、料理もかなり得意だ。


 帰宅の遅い父に夕食を作っていたこともある。だが、せっかく手間暇かけたハンバーグが、翌朝、生ゴミとして捨てられているのを見て、そういうサービスは一切やめた。


 で、スペシャルドリンクだ。ブルー・ハワイ。ブルキュラソーとラム酒をベースにしたカクテルだが、作ったものが市販されている。コンビニで買うと年齢制限があるので、これも通販。あなたの父は、ITに疎く、ネットで物を買うのは、あなたが代行していた。


 四人分、クラッシュアイスともに、睡眠薬二ヶ月分を全量入れた。缶ビールも追加で準備したが、ひとまず、これで乾杯してね! という体で持ち込んだ。


「じゃ、私、帰るから。みんなで、楽しんでね!」


 庭に通じるサッシの鍵をこっそり開けた、あなた。玄関を施錠し、ドアポストに鍵を落とした。リビングでは、何やら大声で騒ぐ声がしている。


 一旦、家に帰り、登山用リュックに、ガソリン二リットを五本。総計十キロと、かなり重かったが、何とか背負って、引き返した。時間を見計らい、庭先から家に入る。物音は? リビングから複数人のいびきが聞こえてきた。


 やった!!!!!! 思わず、あなたは、心で叫んでいた。


 大成功だ!! 強力な睡眠薬。アルコールを混ぜれば、あっという間に前後不覚になる。それは確実なのだが、四人全員が飲んでくれるかどうか? は賭けだった。


 あなたは、二階の寝室に上がり、布団を持ち出した。寝ている四人にかける。これも、あなたにとっての幸運なのだろう。四人は、うまくまとまるように寝込んでいた。布団をガソリンで湿らせていく。十リットル。十分な量だろうが、台所で見つけた、携帯コンロ用のガスボンベ六缶も念の為追加しておいた。


 あなたは、とてもクレバーだ。ここでライターで火を付けるなどという愚かなことはしない。


 撒いた時点で、自分の服にもガソリンが飛んでいる。ライターで着火したら大火傷だ。ガスコンロの点火プラグとキッチンタイマー、電池。ネットで調べて機械工作しておいた。タイマーを五分にセットして、あなたは、あの女の家をそっと抜け出した。


 自宅に向かってゆっくりと夜道を歩く。あなたは、誘蛾灯の青い光を見上げている。蛾だろうか、大きな虫が捕えられ、ジジという音とともに落命していた。


 す・て・き。また、命が燃え尽きる!


 と、その時。


 Brroom!!!!!


 地の底から響きわたる大音響。地獄の使者が降臨する。あなたの後方で火の手が上がった。


 こんなことをしても、あなたは、何ら痛痒を感じない。ちょっとした性的な快楽に溺れながら、熟睡し、目覚めてみると、昨夜のことは大きな事件として、テレビで取り上げられていた。四人の死亡を確認した、あなたは、学校に行く振りをして、近隣の警察署に向かった。


 早晩、あなたが犯人だと分かってしまうだろう。自分は未成年だし「いじめられていた」と言えばいい。少年院でタダ飯を数年食べていれば、出所できるはずだ。更生プログラムもあるだろうし、もしかしたら、職を紹介してもらえるかもしれない。


 あなたの十八番である嘘を駆使すれば、マスコミを騙すことなど容易だろう。テレビが演出する茶番、悲劇ポルノのヒロインにだってなれるかもしれない。いやいや、過剰な自己演出は、危険だ。


 世間、特に若者を見下している時代錯誤のマスコミ。学歴だけは高いが、社会に出て、真摯に世の中を学んでいない記者など、赤子の手を捻るがごとしだろう。


 だが、ソーシャルメディアは一筋縄ではいかない。慎重に行くべきだろう。そんなことを考えながら歩いていた、あなた。


 そして。そして。少し、ほんの少しだけ。コータを殺した両親への意趣返しという気持ちも、心のどこかにあったかもしれない。


 コータ!!


 コータのことを考えると、あなたの心は、揺れる。


 そうだ。この子はどうしよう? あなたは、無意識にまだ目立たないお腹を撫でた。レイプされたと言えば、堕せるだろう。その分も、減刑になるに違いない。だが、子供に罪はない。


 産んだとして、あいつらの誰か、クソ野郎に似た子供を、しかも、サイコな自分が育てられるのか? 虐待してしまうのがオチではないか? 珍しく、人間のことでも、あなたの心が揺れた。


 ねぇ。ねぇ。今の感情。あなた「らしく」なかったわよね? 不自然よ。


 もしかしたら、神様の誘導なのかな??


 考えがまとまらぬまま、あなたは、虚脱した状態で歩いていた。


 そして、運命の時が訪れる。


 四人を殺した報い? が、あなたに、襲いかかった。赤信号の交差点、なぜか、あなたは、俯いたまま止まりもせずに歩いて行く。


 激しいクラクションの音!!!


 何やら大きな音がして、宙を舞ったという記憶まではある。次に、あなたの意識が蘇ったのは。サイレン音の中。救急車だろう。


「聞こえますか? 大丈夫ですか? 意識をしっかり持ってください!」


 救急隊員の切迫した表情が見えたと思う。だが、再び、あなたは漆黒の闇に落ちていった。

 なるほど! スミレ、こういう想いだったのね。ま、そうなるわな。次回、私の出番よ!


 ということで。ここで、あなたのお腹に子供がいる、というのは、ちょっと伏線でもあります。あと、マスコミのこと、ボロクソ書いていますが、かなり本気で、そう思うのです。もはや、マスメディアの命脈は尽きた。十年後、新聞もテレビもこの世に存在しないのではないかと。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの交通事故!? そうなのですよ。交通事故は突然くるんです(;A;) 事故は怖いです。。。 しかしなかなか手際の良い犯行です。 これ、ガソリン買うのが一番ハードルが高いやつ? 確かに…
[良い点] 7/7 ・んおっ!? な、ななななー? 謎の感覚ぶっこんで来ましたね。 [気になる点] 手がさみしいです。スイッチを押す感覚が、ありませんでした。 いやあったら別の意味でまずそうですが …
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