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海のある街で

 あなたは、日本という国の関東という地域にあるK市に生を受けた。東京から電車で一時間はかからない。海に面したその街は、古い歴史をもっている。あなたの自宅は、太平洋に注ぐ河川を海から四キロほど遡ったところ。旧市街ほどお洒落ではないけれど、交通の便もよく、住みやすい地域だ。


 外資系の商社に勤める父と看護師の母。二人はあなたを「菫」と命名した。


 え? 僕は男? 違うでしょ? ほら。ほら。ほら。ほらぁ〜。


 触ってみて。あ・そ・こ。ね。ね。ね。ねぇ〜。何もないわよね。なんだか、落ち着かない? そんなの、すぐに慣れるわ。


 そう。あなたは、女の子。お・ん・な・の・こ。


 え? 違う? 元々、私、女の子だったって? ああ、それはそれで幸せなことね。だって、ほら、ほら、鏡を見て。ねぇ〜。十人並みで、無個性で、しょ〜もない、貴女が、ほらぁ〜。


 客観的に見てそこそこ可愛いけれど、容姿に自信を持っているわけでもないし、ちょっと胸が育ちすぎたのを気にしている。それが、あなた。あなたよ。


 だけど、あなたが、気にしなければならないことは「外面的な何か」ではない。あなたの精神は生まれつき、一般の人と、大きく異なっていた。


 幼い頃、初めて公園で一人遊びをした時、ひらひら飛ぶ蝶を認識した、あなた。それを捕まえて、次に、どうしたと思う?


 ねぇ。ねぇ。どうしたの? あなたは、何をしたの?


 ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇぇぇぇぇ。


 そう。即座に、一切の躊躇なく、翅をむしり、手足をバラバラにした。そしてその事に、あなたは、言い知れぬ快感を感じた。さすがに、幼かったので、その感覚の正体は分からなかっただろうけど、それは、エクスタシィ、いいえ、オーガズムという直接表現が相応しいかな。


 だって。あなた。あの時、オモラシしたと思ったでしょ? 違うわよ。あなたの下着を濡らした液体は、尿なんかじゃなかったのだから。


 よく聞いて、あ・な・た は、女の子、そして、サイコパス。生まれついての犯罪者、殺人狂よ。


 よかったわね❤️  お・め・で・と。


 そんな、あなたの「性癖」に気づいた両親は、あなたに犬を買い与えた。「買い与えた」と表現したのは、両親が真の愛情をもって、娘の行く末を心配したのではないからだ。


 あなたには感情欠落の代償ということだろうか、子供には相応しくないような洞察力、知恵がある。だから、分かってしまった。両親は子育てマニュアルに従い、おざなりな対処をしただけなのだと。


 だけど、コータと名付けた、その白に茶色のブチがあるチワワは、あなたの初めてで唯一の友人となった。あなたは人を愛することなどできない人間だ。だけど、彼だけは、なぜだろう、とても不思議だが、心を通わせることができたし、愛することもできたはずだ。


 チワワという犬はとても神経質だ。彼は、あなた以外の家族には懐かなかった。ご飯も散歩も動物病院での検診も、全て、全てあなたが対応した。小学校高学年となっていた、あなたは既にかなり大人びていて、動物病院での応対など造作もなかったのだ。


 そう。かなりサイコな、あなただけれど、頭は切れる。天才と言っても過言ではないわ。超難関大だって楽々入れるくらいに。じゃ、そんなところ卒業して何するの? お金儲け? 権力?


 言っておくけど、人は死ぬ。必ずね。棺桶に札束を詰めてあの世に持っていけるの? 不可能よね。そこまでちゃんと理解し、先々を客観的に見通している、あなた。


 だから「私、最高学府出てますぅ〜」などというクダラナイ人生に、興味なんてないわよね。静かに生きる。それでいい。性差別などと御託を並べる教条主義者は、多数いるが、女の子って、可愛くて、少しアホに見せている方がいいわけで。


 サイコな、あなたは、嘘をつくのは得意中の得意よね? 自らすら偽って生きる。あなたのアビリティにピッタリな人生。よね?


 出る杭は打たれる。だけど、あんまりダメでもいじめの標的になりかねない。テストの点数は、だいたい八十点になるよう調整した。一番、焦った経験は、中学二年の期末テスト。数学の試験は、どうやら、とても難しい問題だったらしい。いつものように、二十パーセントを意図的に誤答したのだが、五十点を超えたのはあなただけ。クラスでダントツの一番だった。


 「ま、まぐれだから、アハハ」


 自分のような犯罪者予備軍が、社会の真ん中で生きていけるはずもない、という認識を、あなたは、物心ついた時から持っていた。目立たぬよう、社会の片隅で、生き、そして、静かに死のうと思っていた。そう。その時までは。

 君、君ぃ。ああ、もう、あなた、かな。気にいってくれた? 菫ちゃんの体。うん? 元から女? あ、そう。なら、随分、美人になったでしょ?


 え、私? 神様よぉ。もうちょっとだけネタバレ待ってね。今は、神様、あなたに語りかけている本人と思っておいて。だから、時々、後書きにもお邪魔するわ。


 ところで、あなた。異世界転生物を観たり、読んだりして不思議に思ってなかった? 「人を転生させるくらい力のある神なら、他人任せにしないで、自分で、世界をあるべき姿にすればいいのでは?」と。そう。実は、神様も万能じゃない! あなたに、頼らなければ、ならない事情がある。あるの。それも、追々説明するけど、ま、ひとまず、よろしくね♪


 前回の「終末百合」で好評? だった気もするので、キャラが話す後書きも時々出そうと思います。作者です。本作、お読みいただいて、ありがとうございます!


 いつもの私のスタイルですが、既に下書きは済んでいます。何か私的なトラブル(ちょっと不穏な事情あります)がなければ、10月末まで毎日連載が続き、完結となる予定です。よろしかったら、是非、最後までお付き合いください。


 で、謝辞を忘れてはいけない。bebetchさん! 監修ありがとございました! ネタとしてディープラーニングなどを入れているのですが、本職のSEの方に「変じゃない?」と聞いた上で設定を作っています。魔法のある世界だったとしても、何でもアリじゃなくて、リアリティーを、という意味です。


 ということで、物語ですが、「異世界転生物の常識を逆手に」というコンセプトです。最近では、そういう捻った作品多いので、さらに追加です。リアルの常識も疑え! 本当に人を殺すことがダメなの? みたいな問いかけが、随所に入ります。


 そして、18禁音声作品を書いた経験を生かして、これは初の試み、二人称に挑戦です。


 最後に、主人公の命名ですが、娼婦という発想からです。単純ですいません。「オペラ椿姫」より。ついでに「魔弾の射手」も、モチーフに使っています。登場人物名も、捻ったり、マンマだったりしますが、ちなんだ名前が多いです。


 でわぁ〜。サイコな、あ・な・た。よい旅を!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ふふふ。 ここまでは読んでましたね。 でも、面白かった。続きが楽しみ(*^^*) 雪さんが今までで一番良い出来だと言うのが わかる気がする。 読んだ所ではあったけど、それはそれ これはコ…
[良い点] 3/3 ・あのー、私、犬の首を絞めそうになったのですよ。親指で、こう、ガッと、、、はあはあ [気になる点] ってのは置いといて、すさまじい読みやすさです。 尊敬を通り越して崇拝レベル。
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