君がなくしたものは
僕が君といた時間は、そう長くはなかったね。
でも、君が僕に触れる手が、僕を見つめる眼差しが、優しくて愛おしくて、ずっと続けばいいとそう願っていた。
その罰なのかな、君が僕から遠ざかって、永遠に離れてしまったのはー
***
君と最初に出会った時、僕は君の目に留まらんとする大勢の中の一人だった。
君の真剣な顔が、僕をどうしようもなく引きつけた。
君の目に、僕がどう写っていたのか分からないけれど、僕が選ばれたのはたまたまだったと思う。
でも、僕の手を取ってそこを出たときの、君の嬉しそうな横顔に、ああ、君が僕の運命なんだとそう思ったんだ。
しばらくして、僕らは毎日一緒にいるようになった。
一緒に授業を受けて、一緒にいろんなことを考えた。
君と一緒の毎日は、キラキラしていて、いろんなことを知った。
授業中にうとうとする君を、つついて起こしたこともあったね。
君の表情は、笑顔も、眠そうな顔も、真剣な顔も、どれもとても愛おしかった。
僕が君と一緒にいられる時間は限られたものなのだと、最初から知っていた。
それでも、その時間いっぱいいっぱいまで、君のそばで君を見つめ続けたい、とそう思っていた。
なのに、あの日、まだ君といられたはずの僕から、君は手を離してしまった。
僕は必死に、君のことを見つめたけれど、君は何かに気を取られていて。
僕から遠ざかって見えなくなるまで、僕が離れたことに気づいていないようだった。
僕から君のもとに戻る手立てはなくて、それでも諦められなくて、僕はその場でずっと君を待ち続けた。
でも、君が戻ってくることは、なかった。
君にとって、僕は、替えが効くうちの一人でしかなかった。
だから、きっと、君は僕がいなくなったことに気づいても、すぐに他の誰かを選んだだろう。
今も、その誰かが、僕がいたところにいて、君との毎日を過ごしているんだと思う。
でも、僕にとって君は唯一で。
それは、今でも変わらない。
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あぁ、どこでなくしたんだろう。
せっかく時間をかけて選んだお気に入りだったのに。
毎日持ち歩いて、使い心地もお気に入りで。
まだまだ使える、そう思っていたのに。
教室を移動して気付いたら、なくなっていた。
前の教室まで探しに行ったけれど、見つけることができなくて。
気落ちして家に帰って、予備のを出してきたけれど。
寿命じゃないタイミングで交換したから、とっても未練たらたらで。
きっと、誰にも拾われることはないけれど、私のもとにも帰ってこないから。
なくしてしまって、本当にごめんね。
きっと、私が簡単に忘れて次のを使っていると思っているだろうけれど。
あれから1年経った今でも、最後まで使えなかった無念を忘れてはいない。
もう何色だったか、思い出せないけれど。
君をなくした日のことは、今でも覚えているよ。
もう戻ってくることはない、私のボールペン。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
何をなくしたのか分からないワクワク感を、楽しんでいただけていたら嬉しいです。