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短編

君がなくしたものは

作者: 見伏由綸

僕が君といた時間は、そう長くはなかったね。

でも、君が僕に触れる手が、僕を見つめる眼差しが、優しくて愛おしくて、ずっと続けばいいとそう願っていた。

その罰なのかな、君が僕から遠ざかって、永遠に離れてしまったのはー



***

君と最初に出会った時、僕は君の目に留まらんとする大勢の中の一人だった。

君の真剣な顔が、僕をどうしようもなく引きつけた。

君の目に、僕がどう写っていたのか分からないけれど、僕が選ばれたのはたまたまだったと思う。

でも、僕の手を取ってそこを出たときの、君の嬉しそうな横顔に、ああ、君が僕の運命なんだとそう思ったんだ。


しばらくして、僕らは毎日一緒にいるようになった。

一緒に授業を受けて、一緒にいろんなことを考えた。

君と一緒の毎日は、キラキラしていて、いろんなことを知った。

授業中にうとうとする君を、つついて起こしたこともあったね。

君の表情は、笑顔も、眠そうな顔も、真剣な顔も、どれもとても愛おしかった。


僕が君と一緒にいられる時間は限られたものなのだと、最初から知っていた。

それでも、その時間いっぱいいっぱいまで、君のそばで君を見つめ続けたい、とそう思っていた。

なのに、あの日、まだ君といられたはずの僕から、君は手を離してしまった。


僕は必死に、君のことを見つめたけれど、君は何かに気を取られていて。

僕から遠ざかって見えなくなるまで、僕が離れたことに気づいていないようだった。

僕から君のもとに戻る手立てはなくて、それでも諦められなくて、僕はその場でずっと君を待ち続けた。

でも、君が戻ってくることは、なかった。


君にとって、僕は、替えが効くうちの一人でしかなかった。

だから、きっと、君は僕がいなくなったことに気づいても、すぐに他の誰かを選んだだろう。

今も、その誰かが、僕がいたところにいて、君との毎日を過ごしているんだと思う。


でも、僕にとって君は唯一で。

それは、今でも変わらない。





+++

あぁ、どこでなくしたんだろう。

せっかく時間をかけて選んだお気に入りだったのに。

毎日持ち歩いて、使い心地もお気に入りで。

まだまだ使える、そう思っていたのに。

教室を移動して気付いたら、なくなっていた。

前の教室まで探しに行ったけれど、見つけることができなくて。


気落ちして家に帰って、予備のを出してきたけれど。

寿命じゃないタイミングで交換したから、とっても未練たらたらで。

きっと、誰にも拾われることはないけれど、私のもとにも帰ってこないから。

なくしてしまって、本当にごめんね。


きっと、私が簡単に忘れて次のを使っていると思っているだろうけれど。

あれから1年経った今でも、最後まで使えなかった無念を忘れてはいない。

もう何色だったか、思い出せないけれど。

君をなくした日のことは、今でも覚えているよ。




もう戻ってくることはない、私のボールペン。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


何をなくしたのか分からないワクワク感を、楽しんでいただけていたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジェットストリームとパワータンクを愛用しております。外仕事をしていた時はパワータンクの加圧パワーが神のように思えました。 今は事務仕事なので、ジェットストリームの滑らかさに感動しております。…
2021/10/21 19:11 退会済み
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